エピローグ
エピローグ
リンドウの花束をそっと墓石の前に置く。
あの子がこの花を好きだったかはわからない。だが、志保は供えるのは青い花と決めていた。
墓石に刻まれた「三沢 玲」の文字。
死んだのではないと、そう信じたかった。
天に帰ったのだ。
だが、三沢玲はもうこの世界にはいない。
他界という言葉が同義なら、志保にとってレイは亡くなったのと同じだった。
弔いも供養も、自分のためだと言うことは承知している。
でも、こうせずにはいられないのだ。
想いを伝える拠り所が、志保には必要だった。
「ありがとうくらい、…言わせなさいよ。私達を守って、あんなにボロボロになって、…せめて。」
秋の高い空。
吸い込まれるようにレイが消えていった大空を、恨めしく見上げる。
「もう…、何もしてやれないじゃない、…あの娘に。 何か、…何かさせてよっ!私に!」
誰もいない墓地に短い叫びが吸い込まれ、沈黙が風に隠されていく。
その風の音が突然、背後からの小さな声で打ち消された。
「…じゃあ、今夜のお夕飯ハンバーグ。」
それは志保が一番聞きたかった声。
なくしたはずの一番愛しい声。
潤んだ瞳を見開きながら振り返ると、制服姿の小柄な少女が微笑んで立っていた。
肩に垂れた黒い髪、太目の眉、くるんとした目、丸っこい鼻。
夏服のブラウスのままでたたずむ玲が、くしゅんっと軽くくしゃみをする。
「玲っ!!」
力一杯抱きしめる。
腕の中、玲の体。
生きている。確かにここにいる。
志保の目から涙が溢れ何も見えなくなる。
「あん、苦しいよぅ。」
「この馬鹿娘っ!どれだけ心配したと思ってるの!お墓まで作っちゃったじゃない!
連絡くらいよこしなさいよっ!」
志保の支離滅裂な言葉を聞きながら、玲の目からも大粒の涙が零れ落ちる。
新たに与えられた任務。「惑星・地球への侵略活動を警戒、監視せよ。」
この星を守っていく。
今度は堂々と、この小さな胸を張って。
でも、そんなことはどうでもいい。
会いたかった。 ただ、会いたかった。
玲の細い腕が志保の背中いっぱいにまわされ、ぎゅぅっと抱きしめる。
どうしてこんなにあたたかいんだろう。この人も、自分の涙も。
「ごめんなさい、…ただいま、お母さん!」
完




