02
ようやく戻れた定宿は以前と変わらぬ賑わい。
女将さんはにこやかながらも迫力満点の笑顔でお宿を取り仕切り、
旦那さんは無口ながらも圧倒的な職人技で厨房に君臨。
そして……
「初めまして、ウェイト様、リルシェ様」
「イルレーシュミッタという新米の家事手伝いです」
「イルレーシュとお呼びください」
初めまして、イルレーシュさん。
ウェイトという平凡な冒険者です。
この度はお仕事の件で大変なご迷惑をお掛けしてしまい……
「いいえ、これは私が自分で選んだ道ですから」
「もしウェイト様がこの件でいつまでも謝罪を続けるようなら、これからは毎食デザート抜きにすると旦那様が」
……厳しいっすね、それ。
って、ちょっと待ってください、
イルレーシュさんは旦那さんと普通に話せるのですかっ。
「ええ、特に問題無く」
俺、旦那さんとは一度も会話が成立したことが無いけど、
もしかして乙女オンリー……
「私も、一度もありませんけど」
リルシェさんも、ですか。
むう、俺たちのパーティーがアレなのか、
はたまたイルレーシュさんの手腕なのか。
これが"異種活"の難しさ……
---
魔族領タリシュネイア王国ご出身のイルレーシュミッタさん。
タリシュネイア王国はヴァンパイア族が興した伝統ある大国。
つまり、イルレーシュさんも生粋のヴァンパイアさん。
スラリとしたメイド服姿も素敵なキリリ系お姉さまで、
もちろんお仕事の方もさらりとスマートにこなしちゃう、
キュルミィさんに勝るとも劣らないご立派な看板娘っぷり。
お宿のご夫婦や常連さんたちともすっかり馴染んでいるご様子。
これなら安心、と言いたいところなのですが、
やはり気になるのは今後の去就。
ショセ様のお屋敷でメイドさんが務まるほどの逸材が、
このままこのお宿で看板娘を続けても良いのかな……
「故国での居場所を失った私を優しく導いてくださったニルシェの皆様にご恩返しすることが、今の私の生きがいなのです」
「どうか今後とも末永くよろしくお願い致します」
こちらこそよろしくです。
ニルシェの人たちって俺みたいな人族にも優しく接してくれますし、
真っ当な暮らしを望む人なら分け隔てなく受け入れてくれるのは、
その成り立ちで育まれてきたお国柄ゆえでしょうか。
「リルシェ様からはひざまくらまではお許しが出ておりますので、いつでもお声掛けを」
リルシェさん公認でお許し……
えーと、カミカミの方はNGで。