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ニルシェ王都から徒歩にて数時間。
ひと気のない名も知れぬ原っぱで試作通信器の準備をしているのは、
俺と、妖精フォルモルくん。
「でもさ、稼働に妖精のチカラが必要な魔導具は、量産なんて無理じゃないのかな」
うん、俺もそう思うけど、
今回の任務はあくまでこの試作器の通信能力のテストだそうだし、
本格的な開発はこれからなんじゃないかな。
実はこの試作型通信魔導具"コリジョン"
複雑な魔導回路の代わりに妖精のチカラを利用してみようという、
まさに技術検証実験器。
ある種の植物は環境が生息条件に適しているかどうかを、
少量の魔素を使った広範囲連絡網にて共有しているそうで、
それすなわち普及型魔導通信に最適なりと目を付けたアリシエラさんが、
通信能力確認のために試作したのが、この"コリジョン"
で、稼働試験には当然、妖精さんの協力が必須。
ってことで、俺と交流のあるフォルモルくんもお呼ばれされたってわけ。
「まあ、結構報酬も良いし、そんなに面倒でもないし」
「でもさ、妖精の能力をあれこれ変なことに利用すると、妖精の国のお偉いさんたちが黙っちゃいないと思うけど」
あー、その辺の面倒ごとは、
計画を推進しているギルドのお偉い方々にまるっとお任せってことで。
俺たちはとっととこの試験を終わらせて、
もらった報酬で美味いもんでも食えればヨシッ、だよね。
「うん、それならそれでいいや」
「じゃあ早速始めるよ」
試験器"コリジョン"の上で何やらぱたぱたやってるフォルモルくん。
この試験器は特定の魔導周波数のみしか扱えない簡易型だそうで、
チューニングやら感度調整やらの難しい操作は一切無し。
フォルモルくんが妖精のチカラを注げば、ほらご覧の通り。
『あー、テステス』
『こちらニルシェ王都冒険者ギルドのワーシュネイ』
『レンタル試験器"コリジョン"のウェイトさん、聞こえますか、どうぞ』
はい、こちらレンタル試験器"コリジョン"、ウェイトです。
予定地点に到着、天気は快晴、周囲の安全確認も完了。
感度良好ノイズ皆無、大変に良く聞こえておりますです、どうぞ。
『了解、こちらも感度良好です』
『それでは予定通りに広域音声通信試験を始めます』
『そちらのタイミングで歌唱試験を開始してください、どうぞ』
はい、それじゃフォルモルくん、よろしく。
「歌唱試験って、ただ俺が歌うだけなんだけどさ」
「妖精が歌うってのがどんなことなのか、みんなちゃんと分かってるのかな」
自慢じゃないけど俺は全く分かってないね。
でも、こうしてギルドが正式な依頼にしたってことは、
少なくともこの試験にゴーサイン出した人たちは理解してるってことでしょ。
ってことで、フォルモルくん、よろしく。
「うん、まあいいや」
「それじゃ、歌うよ」
〜〜〜♪
へえ、綺麗な歌声。
ただ綺麗なだけじゃなくて音域もめっちゃ広いね。
ボーイソプラノからバリトンバスまで自由自在、みたいな。
でも何だかアレだね、
普段のおしゃべりとお歌のシーンでCVが変わっちゃうアニメキャラ、
みたいな違和感が。
〜〜〜♪
何か、脳に直接響いてくるね。これ。
とりあえず歌詞は全く分からんけど、
聞いていてもの凄く気持ち良いです。
〜〜〜♪
……おや、試験器の赤ランプがピカピカしてますよ。
これって何だっけ。
えーと、マニュアルは、と。
『8番魔導ランプ(下列右端)が高速で赤点滅した際は即座に作動停止処置を行い、速やかに10m以上離れた場所まで退避して、全ての魔導ランプが消灯するまで待機願います』
『魔導オーバーロードによる暴走事故は使用された魔素量以上の規模となる場合も多く、退避以外の行動は推奨出来ません』
……おっと。




