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プロローグ

癖【ヘキ】を詰めました。

 長い銀髪を垂らした男が黒髪の青年に覆い被さっていた。


「お前を愛してやろうな」

「やめろ。オマエに渡せる心などない」

「ああそうだろうとも。だが、お前の心など関係がない」


 囁く言葉は愛情。愛情を発する声の持ち主は、とてもきれいなヒトだった。

 けれども青年はつれない返事をよこす。心底興味がないというように。氷のように無感情な顔をしていた。


「納得してくれたのならいい。身体ぐらいはくれてやる。だから――救ってくれ」

「何の義理があってそこまで身を捧げるのか、まぁいい。なんてことない妻の願いだ。叶えてやるとも」


 黒髪の青年が更にシーツに沈み込んだ。違う。嘘だと思いたい。でも、間違えようがない。

 見たこともないぐらいにふかふかとした布団に沈み込んでいるのは。

 銀髪に手首を押さえつけられているのは、間違えようもない私の兄だった。


「大切な妹なんだ。この身ひとつで妹が生きられるのなら、それは善いことだろう」


 轟々と鳴り響く雨音に反して、静謐な部屋の中。

 ぼんやりとした灯りの元で二つの影が重なる様を私は見ていた。干渉なんて出来ない額縁の外側から、その光景を見させられていたのだ。


 ◆◆◆

 

 いつもより長い夢を見ていた。夢の中のものとは比べるまでもない硬い床の上で少女は目覚める。

 少女――シズリは夢の内容について考えた。

 ベッドの上で人間ふたりが重なったことに照れるほど初心でもない。ここは娯楽もないド田舎野村。そういった知識だけは入ってくる。

 ただひとつの問題は、片方の相手が自分の兄であることだけだ。


(わたしの見る夢はいつか、どこかで、起きる()()()()()()こと)

 

 こういった夢は規則性なく唐突に見るので慣れている。正夢かと思えばかすりすらしない時もある夢。

 この夢は眠っている時に見ることもあれば白昼夢のように起きている間に見る場合もある。


 この力はスキルと呼ばれるもの。魔法のように学び研鑽を積みながら習得する技術ではなく生まれ持つ力。

 そしてスキルは誰しもが持つ力ではない。

 その内容も様々なもので、どんな文字も読めるスキルや無限に魔力が湧き出るスキルなど多岐に渡り発見されている。

 とはいえ珍しいものに変わりはなく。特異な能力など、閉鎖的な村の人間に知られると厄介な目に合うのは目に見えている。なんせ少し綺麗なもの、珍しいものを拾っただけで取り上げてくるような村人たちなので。

 シズリの能力(スキル)を知る者は兄だけだった。


(でも、今の状況からしてすぐに起きる可能性が高い……かも?)

 

 スキルの詳細がわからない中、シズリの持つ夢のスキルを検証するうち“夢はこの場に居ない誰かが見た光景である”という結論に達した。

 物語を読むように、舞台を見るように。第四の壁の向こう側から見た光景。映画のようだと表現してもいい。

 

 とはいえシズリの夢はやっかいなもので、正夢になることは少ない。現実は夢の内容を辿っても、途中で逸れたりする。むしろその方が多いのだ。

 しかれど現在の状況と夢の内容からある程度の予測を立ては出来る。

 夢の内容をあくまでも数ある情報の一つだと割り切ってしまえばいいのだ。最初から正夢になると思わなければいい。


 シズリの現在の状況を簡潔に説明しよう。

 神への生贄として捧げられそうになった時、かわりに兄が生贄として名乗り出た。そんな兄を連れ戻そうとして村民に殴られて気絶。

 気絶している間に押し倒された兄と“押し倒した男”が出てくる夢を見た。

 そして最悪の目覚めで現在に至る。以上。


「アレが神様……」

 

 美貌の男を思い出す。兄の“くれてやる”や“救ってくれ”という単語からして相手は神なのだろう。

 それに人外じみた美しさだったのだ。神と言われた方が納得する。


「は?」


 自分でも信じられないぐらいの低い声が出た。とはいえ何をするかはすぐに決まった。

 今まで貧しくてもどんな理不尽にだって耐えてきた。そういうものなのだと納得していた。でも、兄は駄目だ。

 兄が居たから村での仕打ちも耐えていたのに。


 シズリが持つ武器は“夢”と己の身しかない。

 それでも、覚悟を決めない理由なんてなかった。動かない理由なんてなかった。

 村を何百年と守っていようが関係ない。尊い信仰の元にある神だろうが関係ない。

 ボロ小屋の隙間から見える御山の屋敷を睨みつける。


「この腐った世界から兄さんを取り戻す。神様を殺してでも」


 村で散々に扱われたし理不尽なんて慣れきっている。神の起こす理不尽だろうが同じはずだった。

 それでも、兄を奪うというのなら許さない。

 この村で生まれ育って13年。遂に積もりに積もったものが爆発した。

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