039.楽しい楽しい渓流キャンプ
久々の投稿なので一応の確認ですが、作中では2020年の7月です。コロナ真っ盛りで緊急事態宣言とか出されてたあの頃です。
ていうか、7月の話だから7月中に投稿するはずだったのに……!(爆)
「いやー、涼しくて気持ちいいですねえ!」
照りつける夏の太陽の下、ノースリーブにキュロットスカートというラフな格好のみなみがはしゃいで駆け出した。
「ちょっとみなみ!川べりまで走ってっちゃ駄目よ!」
そのまま川面まで駆けていきそうな勢いのみなみを、彼女の後に車から降りてきた有弥がたしなめている。有弥は薄手のブラウスにスキニータイプのジーンズという、これも比較的ラフな装いである。
「わぁ……!」
「景色がいいですね兄さん。それに空気もとっても美味しい!」
続いて車から降りた陽紅と蒼月も、気持ちよさそうに伸びをしている。陽紅はTシャツにデニムのホットパンツを合わせていていかにも活動的な服装、そして蒼月は純白の膝丈ワンピースにつばの広い帽子を合わせて、夏らしくも清楚にまとめている。
女子4人ともそれぞれタイプの違うファッションで、しかも全員がよく似合っている。
ちなみに陽紅が駆け出して行かないのは、先に出て行ったみなみがすでに怒られた後だからだろう。
「だな。思い切って来て良かったよ」
そして車を停めて降りてきた真人も、彼女たちの様子に目を細めている。いや車外に出た直後で陽射しが眩しかっただけかも知れないが。
そんな真人は麻の開襟シャツにストレートジーンズを合わせていて、これも夏らしく涼しげに決めている。だが本当は普段着のTシャツにスウェットパンツで済まそうとして、蒼月と陽紅に痛烈にダメ出しを食らってコーディネートし直された結果だったりする。
今回、彼らは三矢崎県の、風光明媚で知られる崇千穂峡にキャンプに来ている。それも、普段の真人の型落ち軽自動車では人も荷物も積めないので、普通車のワンボックスカーをレンタルしてまでやって来た。
新型ウイルス禍の影響で、行動制限や営業時間短縮、繰り返し言われる防疫行動などで鬱屈した日々が続くことにまずみなみがキレて、それで真人が提案する形でキャンプに行くことになったのだ。人の多い場所は当然にアウトだから、だったら人のいない場所なら行っても良いだろう、というわけである。
そのため今回は、きちんと整備されて客の集まるキャンプ場ではなく、良さげな渓谷沿いの河原をスマホの衛星写真マップで探して目星をつけてやって来た。もちろん、無許可で勝手にキャンプなどしては迷惑行為だし、何かあっても救助にも来てもらえないため、事前に崇千穂の役場に話を通して許可をもらってある。
「あ、っと」
何かに気付いた真人が車へと向き直り、後部座席のスライドドアを開けた。するとその開かれたドアから、もうひとり降りてきたではないか。
「わざわざすみません」
「いやいや、こっちもうっかりドア開けるの忘れかけちゃって。ごめんね」
「いえ、この場合責められるべきは従妹に手も貸さずにとっとと出て行っちゃった、うちの従姉ふたりのほうなので」
抑揚の少ない声でそう言いながら車から出てきた少女はずいぶんと小柄で、真夏だというのに薄手とはいえ長袖を羽織っていた。その左袖の肘から先が、吹き渡った風を受けて大きくはためいた。
少女の左腕は、肘から先には何もなかった。
「あっ、ごめんねあかりちゃん!うっかりしてた!」
「うっかりし過ぎだよみなみちゃん。真人さんを少しは見習わないと」
駆けて行って駆けて戻ってきたみなみが、片腕のない少女が車から降りているのに気づいて申し訳なさそうに謝って、あかりと呼ばれた少女にダメ出しされていた。
津屋崎あかり。有弥とみなみの従妹にあたる少女で、彼女は生まれつき左肘から先が欠損している身体障碍者である。幸いにも利き手は右手だったため日常生活に支障はないが、身体的な問題から運動全般が苦手で、普段は物静かに部屋で本を読んでいるような内向的な少女だ。とはいえ性格が暗いわけではなく、小中高と不登校にもならずに真面目に通っているし、それなりに友人も作っている。
ちなみに2020年7月現在、あかりは16歳の高校二年生である。みなみの高校の後輩にも当たるが、3つ違いなので在籍は被っていないとのこと。
そんな彼女が、なぜこのキャンプにお呼ばれしているのかと言えば……まあそれはみなみが勝手にメンバーに加えようとしたせいもあるが、実のところ双子と全くの無縁というわけでもなかったためである。
『あっ、障碍者のセンパイ』
『えっ、“双子の天使”がいる』
これが当日の朝、福間家に有弥たちを迎えに行った際の双子とあかりの第一声である。
どういうことかと真人が詳しく聞いてみたら、双子が沖之島で通っていた小学校には「片腕のない女の子」がいたのだという。上級生だし歳も離れていたので話をした事こそなかったそうだが、ある意味で目立つその姿は何度か校内で見かけたことがあり、それで顔を覚えていたらしい。
そしてあかりのほうも、下級生に「天使みたいな可愛い双子がいる」と有名だったのを憶えていて、こちらももちろん姿を見かけたことがあると言ったのだ。
そんなわけで、双子とあかりはすぐに意気投合した。双子が真人に引き取られて福博市に引っ越したため本来なら知り合うこともなかった彼女たちだが、どこでどう縁が繋がるものか分かったものではない。こういうのを奇縁というのだろうかと、しみじみ思ったりもする真人であった。
「それにしても、あの頃に輪をかけて美人になっちゃってまあ」
「えへへ。センパイ、私たち可愛くなった?」
「なったなった。天使通り越して女神様みたい」
「センパイそれは言いすぎです。というかセンパイだってすっかり大人の女性って感じで素敵です」
「それこそ言い過ぎだよ。こーんなちんちくりんのメガネチビ、あなたたちの隣に並んだら霞んで消えそうだよ」
天使通り越して女神様、というのは真人も内心大いに賛同するところだが、中二からそれでは高校、大学と進化したらどこまで化けるものやら、空恐ろしくなる。
「心配しなくたって、あの子たちは君にとってはいつまでも“天使”でしょ?」
「まあ、そうなんですけどね」
双子とあかりのやり取りを見ながら真人と有弥が話しているが、ふたりは今絶賛テント立て中である。ちなみに有弥が真人のサポートだ。男手が真人しかいないものだから、作業のほとんどは自然と真人が請け負っている。
「こらぁ!遊んでないであんたも手伝いなさい!」
「お姉ちゃーん!釣り竿持ってきて〜!めっちゃ魚いるよ〜!」
みなみはひとりで水際でパシャパシャやって遊んでいる。サンダルで来ているものだから、当たり前のように足元を濡らして跳ね回っているのだ。
山間の渓流なので、おそらくアユやヤマメの魚影でも見えたのだろう。みなみが釣りをしたがっているが、釣り竿くらい自分で取りに来て欲しいものである。というか魚釣りしたことないでしょアナタ。
食材は充分な量を持ってきてはいるが、新鮮な魚を釣ったその場で焼いて食べるのも渓流キャンプの醍醐味と言えよう。あとでみなみに教えつつ釣り竿を垂れてもいいかも知れない。
などと思っていた真人だが、自身でも慣れないテント設営をやり終えたあとは思いのほか疲れてしまって、焚き火の準備も料理も、あとは全部女子たちに任せきりにしてしまったのだった。
「…………あれ」
そして唐突に真人は気付いた。
「これ、男女比おかしくね……?」
男性は真人ひとり。対して女性は蒼月と陽紅に、有弥、みなみそしてあかりの5人。最年長の有弥でさえまだ27歳なので、全員若々しく瑞々しい妙齢の女子たちである。
そう、図らずもハーレム状態である。いやそうなる前に気付けという話だが。
「な……何事も、ないよな……?」
人里離れた山間の渓流に男ひとりと女5人。二泊三日の楽しい楽しい渓流キャンプは、まだ始まったばかりである。
新キャラの津屋崎あかりちゃん、新キャラですけど拙作『縁の旋舞曲』のほうに出てきています。『縁〜』は2019年、本作は2020年ですけど、あかり本人には変化はほぼありません(爆)。
ちなみに『縁〜』であかりが言及していた「去年(2018年)まで在籍していた従姉」というのがみなみの事です。
あと身体障害者を「障碍者」と表記するのは個人的なポリシーによるものです。他意はありませんし、「障害者」の表記を否定するものでもありません。悪しからずご了承下さい。
なんだか月イチ連載みたいになってスミマセン。次はできるだけ早めに投稿したいので、辛抱強くお待ち頂ければm(_ _)m




