020.オンナノコのヒミツ【R15】
前回に引き続きR15回です。
誰が書いてるのかとか気にしたらダメだぞ?(爆)
『………………ふーん。それで私にヘルプしてきたと』
「…………はい」
『で?私はあの子たちの下着選びのアドバイスと、身体の変化に関する相談に乗ってあげればいいわけね?』
「…………お願いします」
『まあ遅かれ早かれこうなるかなあ、とは思ってたけどね。できれば事故が起こる前に連絡欲しかったなあ』
「いやその、それは、もう本当に出会い頭の事故だったんで……」
電話の向こうにいるのは有弥である。もう声からして冷めきっていて、真人は針のむしろに座らされている気分だ。
翌日、双子は挨拶を交わすどころか目さえ合わせてくれなかった。蒼月は手早く朝食を準備し、真人を待たずに陽紅とさっさと食べてしまうと、普段よりずいぶん早い時間だったのにふたりして学校へ行ってしまった。
結局一睡もできなくて、それでも双子を学校に送り出すためにノロノロとリビングに出てきた真人とはほとんど入れ違いになる形で、独り取り残された格好の真人は呆然としつつも、蒼月が作ってくれた朝食を寂しく食べるハメになった。
そして大学も卒業して出かける用事が夕方からのバイトだけになっているため、午前中が丸ごと余ってしまったのである。時間を持て余し独り悶々として、耐えきれずに有弥にヘルプコールしたのが10時過ぎである。
『と言ってもねえ。私、週末にならないと休み無いよ?』
「うっ……」
『とはいえ、週末まで犀川くんが独り苦しむのを放置しとくのもねえ……』
「ま、マジすいません……」
『……しょうがないな。明日有給取れるかちょっと確認してみるから。取れたら今日のうちにそっち行くよ』
「えっあ、ありがとうございます!」
『取れなくても文句言わないでね?』
「いや当たり前っす!マジ恩に着ます!」
『ていうかちゃんとふたりにお詫びしなよ?こういう場合、事故だろうが何だろうが絶対的に犀川くんのほうが悪くなるんだからね』
「当然っす!分かってます!」
さすがにあの状況で、『普段と違う時間帯に風呂入ってたお前らが悪い』なんて言えるわけがない。洗面所のドアにだって小窓があって、中の電気が点いてるかくらいは見たら分かるのだから、目線を落としていて見落とした自分が100%悪いのだ。
だがとにかく、有弥が応援に来てくれそうなことに真人は心の底から安堵した。ただこの時彼は、有弥がふたりの肩を持って自分を糾弾する側に立つかもなどとは微塵も考えていなかった。裸を見られたショックを見た本人である真人には言いづらいだろうからと、有弥に助けを求めたまでは良かったのだが。
ともかく助けが呼べたことに真人は多少なりとも安堵した。そうなると現金なもので、途端に睡魔が襲ってくるから不思議なものだ。昨夜から寝ておらず疲れきっている真人は、ふらふらと自室のベッドに倒れ込む。
さすがにこんな状態では仕事は無理だと思って、バイト先には休みたいと連絡を入れた。その声があまりにやつれて聞こえたらしく、店長から救急車を呼びかねない勢いで心配されたが、大丈夫だと言い張って何とか誤魔化した。
電話を切り、今度こそ力尽きた真人は、そのまま底なし沼に引きずり込まれるように夢の世界へと落ちていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……お兄ちゃん、いる?」
「……分かんない。靴はあるけど、人の気配がしないっぽい」
そうっと玄関ドアを開けて、中の様子を窺った蒼月と陽紅はそれだけ言葉を交わして、物音を立てないように玄関へ滑り込む。リビングには行かずに、そのまま自分たちの部屋に入り込み、内鍵をかけた。
双子が学校から帰ってきた時、真人はまだ自室で夢の中だった。それで人の気配がしなかったわけだが、靴がある以上は家の中にいるのは間違いないし、双子としては有弥がやって来るまでは顔を合わせづらい。
なのでふたりは、部屋に籠城することにした。あとはトイレに行く時だけ気をつければいい。
「有弥お姉ちゃん、来てくれるかな」
「来てくれないと困っちゃうよ……」
昼休みに電話した時は有弥は有給の申請を出していると言っていて、取れれば今夜のうちにも家に行くからとも言ってくれた。そして今は午後3時半を少し回ったところ。有弥はまだ仕事中のはずで、どうなったか確認の電話を入れることもできない。
未成年被後見人と後見監督人という、ある意味公的な関係性の双子と有弥だが、知り合って以降は私的にも連絡先を交換して時々相談に乗ってもらっていたし、プライベートで一緒にお出かけする程度には仲良くなっている。真人のことは大好きだし信頼してもいるが、やはり異性である以上はどうしても言えないことや見せられないものが出てくる。そうした時に、双子はそれぞれ有弥を頼るようにしていたのだ。
「お姉さんの言ったとおりにお風呂で洗い流しただけなのに、まさか帰ってきたお兄さんに見られちゃうなんて……」
「しょうがないよ。洗面所のドアって鍵ついてないんだもん」
昨晩、蒼月は下腹部の痛みで目を覚ました。痛みだけでなく不快感があり、布団をはぐって確認してみると下着が血で汚れていたのだ。
慌てて陽紅を起こして相談したものの、陽紅にだってどうしていいか分からない。真人に相談するのは恥ずかしかったし、だったら話せるのは有弥しかいなかった。
だから深夜なのを承知の上で、有弥に電話をかけたのだ。
もう寝るところだったという有弥は、それでもすぐに電話に出てくれて、蒼月の身体の異変のことも正確に教えてくれた。
『⸺でね、これからはあなたたちにもそういうのが必要になってくるんだけど……まだ買ってないよね?』
「買ってないです……」
『よし、だったら今度一緒に買いに行こうか。私が色々教えてあげる』
「あっ、ありがとうございます」
『でも今夜はどうにもならないから、ひとまずお風呂で身体を綺麗にして、汚しても捨ててもいい古いハンカチとかを下着に当てておくしかないわね』
「はい、分かりました」
『何日かは続くものだから、明日学校へ行く時にコンビニ寄って買うといいよ。コンビニにも売ってるから、女の人の店員さんがいたら、訳を話して選んでもらうといいからね』
「はい……」
『あんまり気にしすぎないようにね?女の子は必ずなるものだから、別に恥ずかしいことじゃないからね』
親身に相談に乗ってもらうことが、こんなにも安心するのだと初めて知ったふたりである。バカにされるでも笑われるでもなく、気遣われて案じてもらえることが嬉しかった。
もちろん真人からも気遣いや愛情は日々感じているし自分たちも向けているが、真人からのそれはいわば“家族”のそれであり、他人である有弥から受けるそれはまた違ったのだ。
そうして有弥の言ったとおりに風呂場へ行き、心配してついて来た陽紅と一緒にシャワーで丹念に洗い流し、血がそれ以上流れないのを確認してから脱衣場で身体を拭いていた時に、真人にドアを開けられたのだった。
真人は狼狽して逃げていったので、戻ってこないのを確認した上で服を着て、汚した下着をビニール袋に入れてふたりは部屋に戻ったのだ。あとは言われたとおりにハンカチを当てて、ドキドキしながらも眠りについたのだった。
翌朝見るとやはり血が漏れ出していて、それでふたりは大急ぎで朝食を準備して食べるとコンビニへ急いだ。幸いなことに早朝だが女性店員がいたので、事情を説明して選んでもらい、購入してトイレで早速装着してからふたりは学校へ行ったのだった。
幸いにも痛みはそこまでキツくなかったので、この分なら体育以外の授業には支障はなさそうだ。なので担任の入来先生にも相談して、しばらく体育の授業は見学で済ませることになっている。




