019.そして事件は起こった【R15】
唐突ですがここでR15回です(爆)。
ぼちぼちハプニング展開とか甘々展開とか、はーじまーるよー!
あっという間に双子は小学六年生に上がった。
双子の六年生進級に先立って、真人は大学を卒業した。卒論は無事に仕上がり、単位も全て取得できて、真人も春から晴れて社会人である。
「ねーお兄ちゃん、本当に良かったの?」
「まあ仕方ないよ。蒼月と陽紅のことの方が大事だしな」
「でも、それじゃお兄さんの」
「まあ何とかなるって。心配すんなよ蒼月」
ただし、真人は就活には失敗した。
正確には、放棄したと言った方が正しいか。
子供を小学校に通わせるというのは、ただ毎朝学校に送り出していれば済むという話ではない。学費や給食費も納めないといけないし、授業参観や運動会参加、通学路の朝立ち、PTAや三者面談など保護者としての活動も色々ある。保護者としてはひとりだけ極端に若い真人は何をするにも珍しがられ、そのせいかひっぱりだこになるほど大人気だった。
ただでさえ実質的なひとり親状態、しかも自身の卒業も控えて卒論の仕上げや単位の取りこぼしがないかのチェックなども必要で、さらには生活のためのバイトもある。とてもではないが就活まで手が回らなかった……というのは言い訳に過ぎないが、要するに諦めてしまったのである。
双子の資産にはまだまだ余裕があるし、真人も特に贅沢などはしていないため、母真里の遺産も残っている。だから日々の暮らしには現状さほど困ってはおらず、就活を焦る必要性も薄かったのが幸いだった。
あと忘れないように、フランスから帰ってこない父宙にもちょくちょく連絡を取って生活費をせびっている。父が向こうでどうやって生計を立てているか?そんなことは知らん。
そしてそんな真人は、相変わらず居酒屋の厨房でバイトを続けている。双子も成長して「お兄ちゃんいなくてもちゃんとお留守番できるよ!へーき!」「私たちのことは心配ないので、兄さんはお仕事頑張って下さい」と言ってくれるので、真人も安心して週5ペースで仕事を入れられている。
料理長が真人を気に入ってくれていて、大学を卒業したことも知っているため、「坊、お前もうウチに就職せんか」と誘ってくれてはいるが、とりあえずそれは保留だ。「もう俺22なんすから、そろそろいい加減“坊”はやめて下さいよ〜」とだけ返事しておいた。
実際、もう4年働いている慣れ親しんだバイト先だし、就職して料理人の道を歩むのもいいかも知れない。ただ正直な話をすれば、夕方から夜の時間の本来なら家族団欒の時間帯に、双子と一緒に過ごしてやれる日が少ないのは悩みの種だ。彼女たちは平気だと言ってくれるが、きっとふたりきりで寂しい夜もあるに違いないのに。
ふと気付けば、双子が家でラフな格好をしなくなった。最初の頃はともかく、慣れてきて以降は少し前まではふたりとも家ではホットパンツにタンクトップなどが当たり前だったのに、蒼月は必ずブラウスにスカート姿、陽紅はTシャツにキュロットなどで、ラフはラフだがなんとなく真人の視線を気にするようになっている気がする。
それに気付いて、なんでだろうと考えること数日。唐突に真人は気付いてしまった。
ふたりの胸が、微かに膨らんできていることに。
そうと気付いてしまうと、肩のラインも腰つきもいつの間にか丸みを帯びて柔らかなラインを描いている。真人の視線を避けるようになっていたのは、きっと体型の変化を見られるのが恥ずかしかったのだろう。そういえば、最初の頃はよくふたりして真人のベッドに潜り込んできて一緒に寝ていたのに、最近はすっかりそういう事もなくなっている。
真人の部屋は母の寝室だった部屋に移していて、そこにあった両親のダブルベッドもそのまま真人が使っている。広くて快適だからふたりも潜り込みやすかったのだろうと思っていたが、あれは単にふたりが真人のことをまだ“異性”として見ていなかっただけなのだろう。
となると、これからは彼女たちの下着にも気を使ってやらねばならない。いやもちろん今までも気を使っていて、洗濯機の使い方などをふたりに教えてなるべく真人が触らないようにはしていたのだが、今度からはより慎重になる必要がありそうだ。よし、一度有弥先輩にウチに来てもらおう。
⸺などと考えている矢先に、事件は起きた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
真人のバイト先の居酒屋はJR福博駅のすぐ裏手にあって、いつも仕事帰りの客で賑わっているが、それも終電までには掃けていく。それで終電の出始める深夜12時前後で付近の飲み屋も閉める店が多く、バイト先も例外ではないので真人もその時間帯を上がりの時間にしている。徒歩10分ほどで帰ってこれるので、遅くとも深夜12時半ごろまでには家に帰り着くのだ。
「ただいまー」
鍵を開けて声をかけ、靴を脱いで上がる。普段のこの時間はもうふたりとも眠っているので、出迎えはない。最初はふたりとも頑張って起きて待ってると言い張っていたが、そもそも子供が起きてられる時間ではないし、待っていなくても真人がちゃんと帰ってくると分かって安心したのだろう、最近ではすっかり先に寝てしまうようになっていた。
だからその日も、ふたりは寝ているものと真人は思っていた。部屋に入って荷物を置いて、箪笥から着替えを取り出して彼はバスルームへと向かった。まず仕事の汗を流さないと、寝るにも飯を食うにも気になってしまう。女の子ふたりと同居するようになってから彼は特にその辺り気をつけていた。
「はーやれやれ、疲れたぁ〜」
独り言を言いながら洗面所の扉を開けた時、室内ランプが点いたままなのに気が付いた。あれ、あの子たち消し忘れたのかな、と思って足元に落としていた視線を上げた。
そこに、蒼月と陽紅が立っていたのだ。
ふたりとも一糸まとわぬ、全裸で。
「えっ……」
「あっ……」
「お、お兄ちゃん!?」
3人の視線が交錯し、双子の顔がみるみる真っ赤に染まる。もちろん真人だって予想だにしなかった事故に頭の中は真っ白だ。
「あ、ごめ」
「「きゃーーーーーーーーーーっっっ!!!!」」
「ごっごっ、ごめん!」
可能な限りの自己最速の反応をもって真人は扉を閉めた。今までに経験がないほど心臓がバクバク言っている。こんなに鼓動が早くなったのはいつ以来だろうか。大学一年の頃に先輩と寝た、あの時だってここまではなかったはずだ。
「お、お兄さん…………見た?」
扉の向こうから、泣きそうな蒼月の声。
「みっみっみみみ見てない!見てません!」
嘘ですバッチリ目に焼き付きました。
「絶対ウソでしょ!絶対見てたもん!お兄ちゃんのエッチ!」
「ごっごめんってわざとじゃねぇよ!事故だよ!」
そもそもなんでこんな時間に風呂入ってんだお前たち!?
「ウソばっかり!」
「やっぱり……見たんだ……」
「おっ俺もう寝るから!ゆっくり浸かっといで!」
腰砕けになって座り込んでいた真人はそれだけ言い捨てると慌てて立ち上がり、一目散に部屋に逃げ込んだ。
扉を閉め、内鍵をかけて、そのまま再びズルズルと扉を背に座り込む。
「み、み、見ちゃった……」
そう。見てしまった。膨らみ始めた胸も、丸みを帯びつつある尻も、キュッと細まった腰も、スラリと伸びた手も足も、全部。
確かにふたりは女の子だった。
なんなら生えているのまで見てしまった。
道理で最近肌を見せなくなったわけだ。納得しかなかった。
「どうしよう……見ちまった……」
バタンと音がして、ふたりが自分たちの部屋に入ったのが分かった。
真人はそのまま、着替えることもベッドに潜り込む事もできずに、心臓が落ち着くまでその場にずっと座り込んでいるしかなかった。




