018.小学五年生になりました
【お詫び】
真人の大卒年次を1年間違えて、双子の小学校卒業と同じタイミングだと誤認していて、そのせいで18話から21話まで全面改稿する羽目になり、ついでに1話増えました。(改稿後は18〜22話になります)
その改稿作業と見直しのために昨日の更新が間に合いませんでした。大変申し訳ありませんでした。
力尽きたこともあり、すでにアップしたものを差し替えるとまた無用な混乱を呼びそうなので、アルファポリス版は現状そのままです。元々あちらは魔術師などのローファンタジー要素を抜いた簡略版ということもありますし。
なおアルファポリス版は現状32話までアップ済みです(なろう版だと34話に該当)。なので、なろう版はまだしばらく毎日更新が続きます。
蒼月と陽紅はあっという間にクラスにも学校にも馴染んだようで、転校初日から数日も経つと早くも「友達と遊びに行ってくる」と出かけるようになった。陽紅が危惧していたような、友達ができなかったり虐められたりといった心配もなさそうで、真人もひと安心だ。
転校してから2週間足らずで夏休みに入り、双子も家にいるようになった。もちろん遊びにも行くが毎日ではなく、大抵は週末だけだし早めに帰ってきてしまう。
そもそも都心部に近い今の家では、遊びに行くといっても繁華街や郊外のショッピングモールなどにショッピングに行ったり、アミューズメント施設に出かけるのが関の山で、沖之島にいた頃のようにただ付近を散歩したり、公園でのんびりしたりといったことも難しい。交通費も含めて遊ぶためにはどうしたってお金を使う事になるし、双子は母子家庭育ちで倹約生活が身に染みついている。
「たまにはショッピングとか行ってもいいよ?」
「いいです。欲しいものもあんまりないし」
「人のたくさんいる所はちょっとやだもん」
とまあ、この通りである。
それでも友達が誘ってくれた時は、双子もなるべく応じるようにしてはいたが。
真人は真人で、復学は夏休み明けからということにしているのでバイトに行く以外は暇である。去年までなら夏休みは毎日のようにバイト漬けだったが、今年からは双子がいるのでそうもいかない。なにしろ居酒屋の厨房なので仕事そのものが夕方から深夜にかけてで、夜に双子だけを家に残しておくのもどうかと思ったのだ。
それでも夏休みの間は、週4ペースで仕事を入れた。蒼月が家計を心配してくれたのと、陽紅がふたりで留守番できるから大丈夫と請け負ってくれたからだが、実は留守中に部屋の家捜しをされてるのではないかと思わなくもない。まあ蒼月が「お兄さんが嫌がる事はしません」と約束してくれたから信じているし、帰ってきても特に荒らされた形跡なども見たことがないので多分大丈夫だろう。
あと、蒼月が料理を覚えたいと言い出したので真人が見てやっている。最初は陽紅もやりたがってふたりで頑張っていたが、どうも陽紅は性格が少し大雑把だったこともあって、自分には向かないと見切ってしまったようである。なので、今は真人の留守の日は蒼月がご飯を作っている。
時々なら出前を頼んでもいいと言ってあるので、その言葉通りにたまにピザなどを注文しているようだ。そういう時には必ず真人の分も残しておいてくれていて、そのたびにいい子たちだなあとほっこりする。
真人は、いろんなところにふたりを連れて行ってやった。それもふたりが自分たちだけで自由に動けるように、なるべく車を出さずに電車やバスを使って行ける場所に行くことで、彼女たちがバスや電車に早く慣れるようにしてあげた。
沖之島にも電車で何度も連れて行った。福博市からはJR福博駅から九州本線で乗り換えなしだし、福博駅までは家から歩いて行ける距離なので、いつでも帰ってこれるとふたりとも喜んでくれた。
「これだったら守くんも来れるんじゃない?」
「ムリでしょあいつバカだから。覚えらんないよ」
「守くん、ウチに呼んでもいいよ?」
「「えっ、絶対やだ」」
会いたがるかもと思って提案してみたが、喧嘩友達っぽかった陽紅だけでなく蒼月まで即答で否定してきた。守くん、なんかゴメン。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そうこうしているうちに、双子は五年生に上がった。真人も大学四年生になり、卒業に向けて次第に慌ただしくなってゆく。
双子には合鍵をそれぞれに渡していて、互いに別行動することも少しずつ増えていった。だがそれでも、ふたりとも事あるごとに“GREEN”でメッセージを飛ばしてきたり電話をかけてきたりする。真人の方からもマメに連絡を取ってやらないとふたりとも拗ねるので、しょうがないなと苦笑しつつ真人も付き合ってやっている。
そのせいで大学の友人たちには「あの犀川に彼女が!?」と騒がれて一時期騒然となった。なので10歳下の従妹を引き取っただけだと説明したのに、今度は「犀川がとうとうロリコンに!?」とドン引きされた。んなわけあるかと双子と写ったフォトを見せてやったら、「なんだお前リアル育成ゲームかよ!」と逆ギレされた。
いやある意味間違ってはいないが、お前らの想像してんのとはだいぶ違うからな!?と声を大にして言いたい真人である。
双子は、定期的に遊びに来るようになった有弥と3人で、時々連れ立って買い物に行くようになった。
福博市の中心地である水神地区や福博駅の周辺、市の中心部を流れる中洲川沿いなどにいくつも巨大な複合商業施設が立ち並び、多くのテナントが入居して常に最新のファッションが選び放題だ。何度かそうして買い物に出かけるうちに、双子もすっかりショッピングの楽しさに目覚めてしまったようである。最初の頃の「人の多いところには行きたくない」と言っていたのが嘘のようだ。
そのうちに双子は、同級生の友達ともそうしたショッピングに出かけるようになった。同い年の友人同士、互いに着る服のチョイスの参考にしたり身体の成長や悩みを話し合うのにも同年代はやはり特別なのだろう。
ただし真人は、小学校の同級生たちだけで水神地区などの繁華街に行くのは許可しなかった。行く時は必ず保護者を同伴させること。その条件があったから有弥が駆り出されたようなものだ。
「あら?犀川くんいたんだ?」
そして今日も、双子とお出かけするために有弥が遊びに来ている。
「え、うん。今日は土曜だし、講義ないんで」
「ふーん、そう。でもそんなにのんびりしてていいわけ?君ももう四年生でしょ?」
「そうなんすよね。もうそろそろ俺も真面目に就活しないととは思ってるんすけど。あー、バイトも辞めないとかなあ」
「就活って大変らしいわよ?そんな調子で大丈夫なの?」
自分は父親の事務所に就職するつもりで実際そうなったものだから、有弥はいまいち就活に対する実感が足りない。友人たちが焦ったり慌てたり青い顔をしていたのは見て知っているが。
「ま、せいぜい頑張んなさい。この子たち食べさせていかないといけないんだから、ちゃんとしたとこに就職して生活の不安をなくすこと。これは絶対条件だからね!」
「…………分かってますよ」
とはいえ就活の厳しさは教授からもくどいほど言われているし、友人たちも一様に四苦八苦している。みんなセミナーや相談会などに積極的に顔を出していて、双子の世話をしなければならない真人は正直言って出遅れていた。
特になりたい職業もやりたい仕事もない真人は、どちらかと言えばのんびりしている方だという自覚がある。とはいえいつまでもこのままでは居られないと分かっているし、そろそろ本腰を入れなくてはならないだろう。
「……よし、目指すは公務員だな」
福博区役所に就職できれば最高だろう。固定給で定時上がり、よほどのことがなければ首にはならないし異動も区役所内だけだ。しかも区役所は家から歩いて通える位置にある。なんなら自転車を買ったっていい。
そうと決まれば、早速明日から動かねばならないだろう。拳を握りつつ意気込む真人は、それを見ている有弥が「今頃から公務員て……そういやこの子バカだったわ」と呆れたように呟いたのに気付かなかった。
【お断り】
恥ずかしながら作者は大学行かずに専門学校を選んだ人で、しかも中退して就活もロクにやってないので、そこのところのリアリティが壊滅的です。なのでその点に関するツッコミはお手柔らかにお願いします(懇願)。




