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偽装結婚(男女、夫婦)

作者: 飛鳥井 作太


 私たち夫婦には、秘密がある。


「……あ」

 私は、スマホのメール通知を見て、声を上げた。

 中身を確認。そしてすぐさま、部屋を出た。

 コンコンッ コンコンッ

 向かいの部屋をノック。興奮のあまり、ちょっと強く叩いてしまう。

「まーさん! まーさん! いま、いいですか!?」

「はーい、どーぞー」

 ドアの向こうから、ちょっと力ない声がする。私は、構わずドアを開け放ち、言った。

「チケット、当たりましたよ!!」

「!!」

 部屋の真ん中、人をダメにするクッションでしょんぼりしていたまーさんが、バッと顔を上げた。

 彼が、戸籍上の我が夫だ。

「わー!!!」

 まーさんが、飛び上がる。

「わー!! ありがとうございます、ありがとうございます!! 自分名義のはぜんぶ外れちゃって……!」

「良かったです、私名義のが当たって」

「わー……! 本当、ありがとうございます!!」

「いえいえ、私の方もこのあいだ当ててもらいましたし」

 その節はありがとうございました、と私が頭を下げると、いえいえ、とまーさんが手を振った。

「楽しんで頂けたのなら、幸いですよ~」

 二人で顔を見合わせ、にっこり笑う。

「「結婚って、いいですね」」

 お互いに、しみじみ言った。


 私たちの『チケット』とは、アイドルコンサートのチケットを指す。

 私はとある女性アイドルグループ、彼はとある男性アイドルグループをそれぞれ追っかけている。

 私も彼も、人生の半分以上、それぞれが推している事務所に金を貢ぐファンなのだ。

 例え、違うアイドルグループ、事務所とは言え、同じドルオタ。悩みや喜びは似通っているものがある。

 例えば、チケット争奪戦。

 私たちは、お互いにそれぞれの名義でもチケットを取り、当選確率を上げている。

 他にも。

「あ、新しい写真ですか、これ?」

「はい。このあいだ、新しいのが入ってたので」

「いいですねぇ」

「たくさんあって悩みましたよ……」

 まーさんの部屋の壁には、推したちが飾られている。写真は、普通の家の家族写真が如く。うちわやポスターは、まるでアイドルショップの如く。所狭しと、推したちの博物館のように飾られてあるのだ。棚にはアクスタとペンライト。

 もちろん、私の部屋も同じようになっている。ポスターで壁が埋め尽くされ、カーテンレールには団扇、棚にアクスタ、歴代グッズが並ぶ。もちろん、写真集は本屋のように表紙を見せて並べてある。

 こうして、それぞれの部屋を立派なオタク部屋に仕上げても、文句は言わない。

「そういえば、ドアのネームカード、新しい写真にしましたよね?」

「お、気付いてくれました? 流石まーさん」

「いい写真ですね。推しと推しがキャッキャしてる写真なんて、羨ましすぎます」

 それどころか、こうして褒め合う。

「これからライヴDVD勧賞ですか?」

「はい。Twitterの企画で同時勧賞ですよ」

「なるほど。楽しんで下さいね。私も、これから友人たちとビデオ通話で舞台同時上映会です」

「いいですね」

 それでは、とお互い自分の時間に戻る。

 週末だが、二人で出かけることはあまり無い。

 生活用品の買い出しくらいか。

 あとは、推し活で二人とも忙しいのだ。


 ……私たちは、どちらも恋愛感情を持っていない。

 ただの重度のオタクだ。

 だから、結婚なんて考えもしなかったし、人生のすべてを推したちに捧ぐ気満々だった。

 しかし、家族からやいのやいの言われ、あわや勝手な見合いまで設定されかけた。そこで、昔からの友人に助けを請うたところ、同じような悩みで同じように友人に助けを請うた人がいた。

 友人はこれ幸いと、そんな私たちを引き合わせ、そうして今に至る。

 お互いに恋愛感情は無い。普通の結婚生活を送る気がさらさらない。ただただ、推しに人生を捧げたい。

 ただ、外野は外野で黙らせたい。

 利害が一致した我々は、手に手を取り合って、結婚した。

 そして今、結婚前と変わらず……どころか、協力者を得て更に生き生きと推し活をしている。

「こういうのなら、結婚も悪くないよね」


 私たち夫婦には、秘密がある。

 それは、お互いにではなく、それぞれの家族、対外的に。

 外野から見たら、歪な結婚生活なのかも知れない。

 けれど、私たちは快適に、倖せだった。

 こんな『家族』なら、ありだと思う。

 恋愛にも、結婚にも夢を見ていなかった私だが、こんな『偽装結婚』ならば悪くない、としみじみ思う今日この頃だ。


 END.


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