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どうせ死ぬなら、面白く

作者: 陰宗

 私は生きていて、一つの結論に至った。この人生は無駄でなんの意味もない。だから私は死ぬことを決意した。


 しかし、ただ死ぬのでは芸がない。どうせ死ぬなら面白く逝きたいものだ。だが、面白く逝くとはどういったものだろう。


 そういえば、FPSのゲームを休日はよくやる。その爽快感を味わうために現実でFPSをしてみるのはどうだろう。人をたくさん殺して死ねば、ゲームのような爽快感を直で味わえて面白いかもしれない。


 いや、それはダメだ。あまりにも迷惑がかかりすぎるし、敵が出現するのに時間がかかりすぎる。なにより、この日本で拳銃を入手するのは難易度が高い。別の死に方を考えるとしよう。


 しかし、考えども考えども面白い死に方というのは浮かんでこない。そもそも生と死は表裏一体であるからして、面白い生を送っていなければ面白い死も味わえないのかもしれない。うーん。困った。どうしたものか。私は熟慮の末、友人に面白い死に方を考えてもらうことにした。


 だが、またもや問題が発生した。私には友人がいないのだ。これでは相談しようにも相談ができない。どうするべきか考えた結果、私は友人の定義を再定義することにした。元々、私の中の友人はお互いに仲が良く、お互いが友人だと心から思っている人間関係のことだと定義していた。しかし、これには大きな欠点がある。それは自分以外の人間の心などわからないということだ。そこで私は、私が仲良く話すことができ、私が友人だと思っている人を友人と定義することにした。


 そう考えると、私には思っていたよりも多くの友人がいた。ひとまず私は、最も話す回数が多い、後輩である白文さんにこのことを話すことにした。


「先輩から飲みに誘ってくれるなんて珍しいっすねー。せっかくなんで奢ってくれませんか?」

「ああ。構わないよ」

「ホントっすか? やったぜ!」


 いきなりたかられたが、それでも白文さんは私の最も仲が良い友人だ。異性で、しかもプライベートでの誘いであるにも関わらず、OKしてくれた。話してみる価値はあるだろう。


「面白い死に方? なんすかそれ?」

「この前YouTuberが話題にしていてね。少し気になったんだよ」

「ふーん。そうっすね。友達と馬鹿騒ぎしてそのままアル中で死亡とかはどうすか?」

「それは面白いの意味を履き違えているだろ」

「いやいや、自分から見たら真面目な先輩がドンチャン騒ぎして死ぬなんて面白くてたまりませんよ!」

「なかなか言うな。気分を害したから今日の奢りはなしだ」

「わー! ごめんなさい!」

「冗談だ」

「流石先輩っす! 心が広い! まるでバチカンような心!」

「それは世界一狭いんだが?」

「わははー!」


 とりあえず今回は話すだけ話して別れたが、なるほど面白い意見をもらえた。自分が普段しないようなことをすれば、そこに面白さを見出せるかもしれない。それで死ぬことができれば、面白い死を迎えたといえるのではないだろうか。


 私は普段、仕事とFPSしかしていない。ならば、それ以外のことをやってみれば良い。私は会社に長期休暇を叩きつけ、色々なことを試してみることにした。


 小説を書いて、サイトに投稿してみた。三日坊主ですぐにエタった。学生時代にはまったパチンコをやってみることにした。見事にハマって金が消えた。1人用ゲームを買ってプレイしてみることにした。100時間程度プレイして飽きた。なかなか、ままならない。


 だが、仕事をしているよりかは楽しいと思えた。仕事では、自身の無能さが周囲や自分自身に露呈して辛いだけだった。せめて自分が無能であることにすら気が付けないほどの無能であればよかったのだが、残念ながら私は自身の無能さに気がつける程度には有能であった。これがなかなか辛かった。


 しかし、新しいことを始めるだけなら違う。無能と気がつく前に飽きたり、面白く無くなってやめる。取っ替え引っ替えは美しくないが、どうせ死のうというのに美しいもクソもない。ひたすら足掻いて、面白いものを見つけようと思う。


 しかし、参ったことに私は何をしても長続きがしなかった。ここまで飽き性であるにも関わらず、よく仕事は長続きしたものだ。自分を褒めたいところだ。話が逸れた。とりあえず、面白いと思えるものを見つけないことには死ぬことができない。私はまた、白文さんに連絡をとり、会いに行った。


「急に長期休暇とりましたよね。なんかあったんすか?」

「ああ、色々あったんだ」

「色々っすか。何かあるんだったら自分が聞きますよ?」

「実はカクカクしかじかでなぁ」

「なるほど。まるまるモリモリだったんですね・・・・・・。ってわかるか!」

「ははは。冗談だ。いつも君には揶揄われてばかりだからね」

「一本取られたっす!」


 白文さんは頭にポンと手をおいた。


「でも先輩。明るくなったっすよね! 前はゾンビみたいな顔で職場をウロウロしていたのに」

「明るくなったというよりかは、より後ろ向きになったというべきかな」

「よくわからないけどよかったっす!」

 白文さんはニコリと笑った。

「それで、今日はなんで自分が呼ばれたんですか?」

「面白いことはないかと思ってね。この長期休暇で色々とやってみたんだが、なぜか長続きしなくてね」

「そういうことっすか。なら、遊びのプロである私に任せるっす!」


 私は白文さんに運転を任せ、窓から流れるように変わっていく景色や青空を見ていた。久々に空を見ると、まるで雲がドラゴンのように見えた。空はこんなにも表情が豊かだったのかと私は少し驚いた。


「ついたっすよ!」


 目の前に青が広がっていた。地平線がどこまでも続いていて、私が普段見ている景色がどれほど狭い範囲だったのかをわからされた。


「自分のお気に入りの場所っす。いい景色っすよね?」

「ああ。最高だ。ありがとう」

「喜んでもらえたようで何よりっす!」


 私は、海に向かって駆け出した。大学を卒業して以来、一度も海には行ったことがなかった。涼やかな風が潮の香りを鼻に運ぶ。こんな当たり前のことが心地よかった。


「うおっ!」


 急な海水が私を襲う。シャツがベタベタだ。


「せっかく海に来てるんですから水遊びしないとっすよ!」

「やったな! 今日は着替え持って来てないんだぞ!」

「先輩がこっち見てないのがいけないんすよ!」

「クッソー! 待ちやがれ!」

「ははは! 遅いっすよ!」


 気がつけば夕方になっていた。時間を気にしない生活というのも良いものだ。今日一日で、私は普段、どれほど時間に囚われた生活を送っていたのかを知ることができた。


「いやー、今日は楽しかったっすね」

「ああ。本当に楽しかったよ。付き合ってくれてありがとう」

「お安いごようっすよ!」

「帰りは私が運転しよう」

「はい! お願いするっす!」


 私が運転をしてる間、白文さんは好きなバンドの歌を歌ったり、美味しいチャーハンについての研究結果を教えてくれたりと、私が眠くならないように色々な話をしてくれた。しかし、流石に遊びすぎて疲れてしまったのか、途中で寝てしまった。その顔を見て、私は愛らしいと思ってしまった。私は、こんな感情に陥ったことはなかったが、何故だか混乱することなく理解した。これはきっと恋なのだろうと。


「白文さん。ついたよ」


 白文さんの自宅に着いた私は、ゆさゆさと体を揺らして起こした。


「う・・・・・・。すいません。寝てたみたいっす。不覚・・・・・・」

「いいよいいよ。今日は楽しかったし、むしろ感謝したいくらいだよ」

「自分も楽しかったし、大満足っす!」

「それじゃ、私はこれで。今日はありがとう」

「あ、待ってくださいっす! せっかくだし炒飯食べていってほしいっす! 他の人の評価もほしいっすから」

「そういうことならおじゃまするよ」


 自然な流れで部屋に入ってしまったが、異性の部屋というのはドキドキするな。


「すぐ作るんで座って待っててください」

「わかった」


 本当に時間もかからず、すぐに出来上がった。外食ではない、人の手料理を食べるのは久しぶりだ。


「どうっすか?」

「美味しい。最高だ」


 私は感動のあまり、少し泣きそうになってしまった。コンビニ弁当やチェーン店の牛丼以外のものを食べたのは久しぶりだ。本当に、本当に美味しかった。俺は人の家だというのにも関わらず、大量に食べてしまった。気がつけば、おかわり3杯分にまで手が伸びていた。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様です。まさかこんなに食べてもらえるとは思ってなかったっす! 炒飯の研究をした甲斐があったっすね!」

「年甲斐もなく食べすぎてしまったよ。本当に美味しかった」

「ここまで気に入ってもらえると嬉しいっすね」


 私が洗い物をした後、私たちはしばらくの間テレビを見たりゲームをしたりして過ごした。気がつけば、12時を回っていた。


「夜も遅いし、ここいらで帰るよ」

「いや、泊まっていっていいっすよ」

「それは申し訳ないよ。それにほら、色々と問題もあるだろ」

「・・・・・・自分の言葉の意味がわからないほど、幼くはないっす」


 心臓が早鐘をうっている。私は正直になることにした。








「おはようございます。先輩」

「おはよう」


 目が覚めた時、私の隣でおはようといってくれる人がいる。


「朝ごはん作るっすね」

「私も手伝うよ」

「お願いするっす」


 そして、朝ごはんを作ってくれる人がいる。こんなこと、昔の私では到底考えられないことだ。こんな生き方も面白いと思った。恋をして、家庭を持って子供たちを育てる。そして、互いに歳をとって穏やかに死んでいく。私が絶対にしなさそうで、今までも想像すらしていなかったことだ。そのような生き方も面白い。どうせいつか死ぬのだ。なら、生きているうちに面白いことを目一杯探そうではないか。


 どうせ死ぬなら、面白く生きよう。

 どうせ俺たちもいつか死ぬのなら、楽しくいこうぜ。面白いものを見つけていこうじゃないか。

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