廃校かくれんぼ
こちらは百物語四十九話&夏のホラー2021の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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大学時代、遊びで「配信者」というものをやっていた。
当時の俺は、とにかく人気者になりたくて必死だった。
色々な企画を動画内でやってみたが、結果はすべて微妙…
俺は配信者たちの中でも最悪な「不人気配信者」だった。
ある時、俺の動画コメントに別の配信者からメッセージが届いた。
(オカルト系配信者のゆっぴーと申します!今度10人の配信者を集めて、廃校でかくれんぼ企画をやる予定なのですが、〇〇さんも参加しませんか?参加希望なら↓の場所からメールを…)
俺はすぐにOKのメールを返した。企画内容には興味がなかったけど、名前を売る大チャンスだと思ったからだ。
数日後、主催者のゆっぴーから参加OKのメッセージを受け取った俺は、深夜1時に待ち合わせ場所の廃校へ向かった。
「あぁ、配信者の○○さんですね?メールをしたゆっぴーです!今日はよろしくお願いします!」
廃校へ到着すると、ゆっぴーを名乗る男性と数人の配信者が俺を出迎えてくれた。
「今日は集まってくれてありがとうございます。今回の企画は、この廃校になった『F中学校』でかくれんぼをする予定です。くじ引きで鬼を決めたら、ほかのメンバーは廃校の中へ隠れてください。制限時間は1時間。鬼が勝てば賞金10万円、生き残りが1人でもいれば鬼の負けで、賞金は山分けになります」
なんてことない普通のかくれんぼ企画であった。
集まった10人は特別有名な配信者ではなく、俺と似たような不人気配信者であった。それどころか、メンバーの中には「迷惑系」と呼ばれる質の悪い奴も参加しており、俺のやる気はすぐに下がっていった。
「隠れる場所は廃校内ならどこでもOKなんだけど…管理者の人に聞いたら、3階の『女子トイレ』だけは入らないでほしいとのことです。事故があってから封鎖しているみたいで…」
廃校ってだけでも怖いのに、危険な場所まであるのか。もう早く帰りたい気分だ。
「それじゃあ、全員でくじを引いてください。せーので…おおっ?鬼は○○さんに決定で~す!」
やってしまった。鬼を引いてしまったのは、この俺だった。気が乗らないけど、勝てば賞金10万円だ。せめてそれだけは持って帰ろう。
「それじゃあ、全員ビデオカメラを持ってください。隠れる場所が決まったら、ゆっぴーのスマホに連絡をください。準備が終われば〇〇さんのスマホに連絡するので、その瞬間からかくれんぼスタートです!」
説明が終わると、俺は全員が隠れるまで校門の前で待機していた。そして…
「○○さん、OKですよ~!ビデオカメラで撮影しながら、すぐにスタートしてください!」
腕時計とビデオカメラを確認しながら、俺は静まり返った廃校の中へ向かった。
「えぇ…鬼担当の〇〇です。今からみんなを探しに行きます。あと…○○ちゃんねるの登録よろしくお願いします…」
元気よくやろうとしたのだが、思っていた以上に廃校の中が暗くて怖い。懐中電灯をつけているのだが、安物の小さな懐中電灯なので少し頼りない。
「そこにいるのは…ケーイチさんですか?あぁ、ネロさんも…!」
かくれんぼの参加者たちを次々に見つける俺。30分程でほとんどの参加者を見つけてしまった。
「あと1人見つけていないのは…黒太郎さん?」
残るメンバーは1人。10万円をゲットするため、俺は必死になって黒太郎を探し回った。しかし…
「時間切れ!タイムアップで~す!」
色々な場所を探したが、最後の1人である黒太郎を見つけることができなかった。
「残念ですが、〇〇さんの負けになります…それじゃあ、みんなで黒太郎さんを探しにいきましょうか!」
悔しいが、10万円をゲットすることはできなかった。ただ、チャンネルの宣伝はできたので、後はうまく終わらせて帰るだけだ。
「あれぇ…おかしいなぁ…黒太郎さんが見つからない…」
かくれんぼが終わってから数十分後、どういうわけか黒太郎を見つけることができない。ゆっぴーがスマホに連絡しても繋がらないらしい。
「まさかあの人…3階の『女子トイレ』に隠れてるんじゃないか…?」
配信者の1人がそんなことを言い始めた。
「あの人ならやりそう…炎上するようなことばかりやる人だからねぇ…」
「前に不法侵入で逮捕されてたよな。俺、あいつのこと嫌いだったんだよ」
黒太郎という配信者は、あまり評判のいい配信者ではないらしい。
「う~ん…とりあえず3階の女子トイレにも行ってみますか?」
ゆっぴーたちと考えた結果、仕方なく3階の女子トイレへ向かうことにした。
「黒太郎さん、いますか~?」
3階の女子トイレの出入口には、人が入らないようにカラーコーンがたくさん置かれていた。恐る恐る中へ入ってみると…
「あっ!奥の扉から…!」
トイレに入って1番奥の個室から、何やら物音が聞こえてくる。
ズチャ…ビチャ…ズズズ…
「おいおい!何やってんだよ!これじゃあ、企画失敗じゃないか!?」
「せっかく頑張って映像撮ってたのに…どうしてくれるのよ!」
全員が個室の中にいるのであろう黒太郎に向かって文句を言っている。一方、黒太郎は個室に閉じこもったままいつまでも出てこない。
「黒太郎さん!いい加減にしてくださいよ!」
怒ったゆっぴーが強引に個室のドアを開けた。そして…
「「「うぉああああああああああああああああああああああっ!!?」」」
その場にいた全員が、一斉に悲鳴を上げた。
「く、黒太郎さん!何してんすか!?」
個室の中に黒太郎はいた。そして個室の壁に…
呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ
呪われろ…
黒太郎は、個室の壁一面にその文字を狂ったように書き続けていた。さらによく見てみると…
「うぁあっ!こ、こいつ…!」
黒太郎が文字を書くために使っていたもの。それはマーカーでもエンピツでもなかった。
『指』だ。
たぶん左手の人差し指だったと思う。黒太郎は自分の指を切断…食い千切ったのだ。その指から溢れ出る血をインクにして、壁に文字を書き続けていた。
「ふざけんなよ…マジふざけんなって…んでだよぉ…俺が…マジふざけんな…」
黒太郎が何かをブツブツとつぶやいている。一瞬頭の中が真っ白になった俺たちだったが、すぐに黒太郎を止めようと個室の中へ入ろうとしたその時…
「ノ……ロ…ワ………レ……タ……………」
奇妙な声が女子トイレの中に響き渡った。そして…。
「ああっ!?」
黒太郎がいる個室の便器から無数の「白い腕」が現れ、内側から個室のドアを勢いよく閉めてしまったのだ。
「ちょ…えっ?黒太郎さん…黒太郎さん!?」
俺たちは何度もドアを開けようとしたが、どういうわけかドアが開かない。鍵がかかっているというより、中から手でドアを押さえている感じだった。
男が数人でドアを開けようとしても、ドアはビクともしない。
「ど、どうしよう…中にまだ黒太郎さんが…」
「そんなことより何よあれ!?早く逃げましょうよ!!」
「警察!警察を呼んで…!」
しばらくの間、全員で話し合っていると…
ギィイイイイィ………
個室のドアがゆっくりと開いた。慌てて中を確認してみたが、黒太郎もあの落書きもすべて消えてしまっていた。
「どういうことだよ、これ…」
企画はもちろん中止。俺たちは警察に通報すると、今までのことをすべて正直に話した。しかし、案の定警察はまともに取り合ってくれない。
黒太郎の異様な行動をカメラで撮影していた配信者がいた。警察へ証拠としてそれを見せようとしたが、どういうわけかカメラの映像は真っ黒になっており、状況がわからないようになっていた。
結局、この事件は迷惑系の配信者による悪戯として処理されてしまった。
しかし、この事件にはまだ続きがあった。
廃校の事件が起きてから数週間後、黒太郎が謎の動画を投稿してきたのだ。
動画の内容は意味不明なもので、真っ暗な場所で黒太郎が誰かとダンスしているような動画であった。
「えへ…えへへへへ…!」
黒太郎は動画の中で幸せそうに笑っていた。
この動画は投稿されてから数時間後に消去されており、有名なオカルト掲示板で「謎のダンス動画」としてしばらく話題になっていた。
後でわかったことなのだが、黒太郎は「黒魔術」のような儀式にハマっていたらしく、野生の動物を殺す動画や女性の髪を引き千切るなどの悪趣味な動画をよく投稿していたらしい。
『次回はとある場所で悪魔を召喚してみようと思いま~す!』
廃校かくれんぼの前日に投稿された動画の最後で、黒太郎は嬉しそうにそう言っていた。
もしかすると黒太郎は、あの廃校で「何か」を召喚してしまったのかもしれない。
それとも、黒太郎は廃校に来る前からすでに…
これ以上はもう考えたくもない。
黒太郎のチャンネルは、数日前に削除されてしまった。
もう何もわからない。
もう何も…