064 食材になりたいか!?
夕暮れを迎えて昼の時間は終わった。
俺の陽光ペナルティも停止中だ。
予定通りイズミとシロを連れて夜の経験値稼ぎに出かけたいのであるが。
「むむむむむ」
イズミが難しい顔でうなっている。
なんてことはない。
晩ご飯をどうするか迷っているのである。
イズミはまだ『料理』スキルを取得できていない。
しかし台所には買ったばかりの料理道具プラス大量の食材。
お料理してみたいのだ。
「すればいいじゃないか。俺もハラ減ったし。
なぁ、シロ」
ワンッと良いお返事のシロ。
お前も食いたいよな?
「だけどスキルも取ってませんし……」
別にスキル無くても料理は出来るんじゃないか?
このゲームはスキルがあれば補正やアシストが入る。
だけどスキルが無いからといってその行動を禁止することもない。
補助が無いだけだ。
俺も最初は投げスキル無しで投げを打ってたし。
あの便利すぎる料理アイテム群は、むしろスキルの無いプレイヤーをターゲットにしてる気さえする。
リアルと同様にすればそのまま料理は出来ちゃうんじゃないか?
「じゃあイズミ、俺と一緒にやってみるか? とりあえず米を炊いてさ」
「マスター、料理出来るんですか?」
チョットだけならね。
爺サマと対戦負けた方が飯作るって勝負、長年やってたし。
まぁ、焼くだけ、炒めるだけ、混ぜるだけ、みたいな男飯ばかりだけど。
えーと、材料はイロイロあるな。
ソーセージとチンゲン菜がある。炒めて塩こしょうでいいだろ。
あとトマト切ればサラダだし、お湯にコンソメと卵落とせば立派なスープだ。
な、簡単だろ?
「さっ、次行きますよ! つぎッ」
イズミさんがやる気である。
すでに蹴散らした夜エネミー軍団を尻目に次なる獲物を探している。
目がギラギラしてコワイ。
スキル無しで料理が全くできなかったのがショックだったようだ。
包丁の握り方も分からなかったもんなぁ。
まぁ、誰でも最初はそんなものだ。
しかし彼女は納得いかなかったらしい。
さらに、俺がいちおう食えるモノを作れたのが火を着けた。
現状で俺より料理ができない、というのはイズミにとって大問題であるらしい。
メチャクチャ燃えている。
『料理』スキルを取得するにはスキルポイントがあと6必要。
速攻で3LV上げるため、この辺のエネミーに襲いかかりまくっているのだが。
攻めがあまりに苛烈すぎてオオカミ達が可哀想になってきた。
同族が『ファイア・ボール』でぶっ飛ばされまくる様子を見てシロはどう思っているのか。
「わぅん?」
ナントモ思ってないようだ。
楽しそうに戦ってるな。
お前、けっこうタフだね。うらやましいよ。
「餓狼のボスが現れた!」
なんかデカイの出てきた。
海外の大型バイクくらいあるぞ。
グルルルルル。
かなりご機嫌ナナメだな。
このヘンのボスか。
「なんですかアナタは。
コッチはもう少しで目標達成なんです。
引っ込んでて貰いましょうか。
それとも食材になりたいのですか?」
凶悪なことを言う。
どう見ても美味そうではない。
ウチの眷族ちゃんもご機嫌かなりナナメである。
まったく引く気が無い。
ガオーンッ!!
ボス狼が短く雄叫びを上げた。
手下オオカミが素早く散開する。
俺たちを囲んだ形だ。
おお、賢いな。
「ボスは俺が抑える。後のは頼めるか?」
「楽勝です」
「ワウッ」
勇ましいな。
ここまでシロのLVも上がっている。
ボス以外なら負けるコトはあるまい。
俺の役目はアイツをイズミ達に近づけないコトだ。夜の俺ならパワー負けもしないはず。
包囲が縮まる前に動かねば。
「いくぞ!!」
俺はボスに向かって駆け出した。
飛び出した俺に誘われて手下の2頭も動いた。
しめた。これでイズミ達は2対2だ。
ガアァァァァァァァッ!!
ボスが凄まじい雄叫びを上げた。
思わず足がすくむ。
襲いかかる2頭の手下。
俺の迎撃はキャンセルされている。
ガルル!
1頭は腕を、もう1頭は首を狙って噛みついてきた。
とっさに首を庇った右腕を噛まれる。
左腕にも激痛。
やるじゃないか!
『怪力』!
右腕を噛ませたまま、俺は1頭の前脚を掴む。
そのまま引っ張り込んで大きく振りかぶった。
もう1頭の背中に思い切り叩きつける。
ギャンッ、叫んだ2頭はアゴを放した。
ズバッ!!
ぐあッ!?
背中に激痛。
背後から極太の爪に切り裂かれたのだ。
痛みを噛みしめながら振り向くと、大きく開いたアゴが牙を煌めかせている。
とっさ、その牙の隙間に右腕を突っ込む。
ブ厚い舌を掴んだ。
ガッ!?
驚愕に首を引こうとするボス。
逃がすかッ!?
右腕を呑まされ、舌を掴まれたアゴは噛みしめる力を失っている。
右腕で舌を引っ張り、自由な左腕で鼻を殴る。殴る。殴る。
今は夜。俺のステータスは軒並み20越えだ。
かなり無茶な戦法もとれる。
当然『再生』スキルは自動発動中だ。
背中の痛みも和らいでいく。
夜の吸血鬼を舐めるなよ。
こっちもモンスターなんだぜ?
舌を命綱に鼻を殴るのに夢中になりすぎた。
背後から衝撃ドンッ。おおッ?
もひとつドンッ。うわッ!?
それに気を取られた隙にボスの前脚に引き剥がされた。
衝撃は手下の体当たりだ。ボス思いだな。
立ち上がって即座に手下の1頭に駆け寄る。
噛みつこうとするアゴを躱して首の後ろを掴んだ。
『怪力』!
飛びかかってきたきたもう一頭に強引にぶち当てる。
イイ手応えだ。両方沈んだな。
様子を見ていたボスと対面する。
どう来る?
噛みつきならまた舌を掴んでやるのだが。
ボスが選んだのは体当たりだった。
頭を下げて突撃体勢。
凄い勢いで突っ込んでくる。
待ってました。
『空気投げ』
突っ込んできたアタマのさらに下に滑り込み、ぶっとい前脚を自分の背中で引っかける。
つまずいた巨体の勢いは、俺の手で引き下げられた頭部をさらに下方へ引き込んだ。浮きかけの下半身を逆の手で押しつつアゴを引っ張る!
ボスの巨体が逆立ちしてズズンと落ちた。
顔面からだ。痛そう。
会心の空気投げだ。
この巨体がひっくり返ると気持ちいいな!
ボスのHPバーはまだまだ残っている。
苦しげに開いた口の中に右腕を突っ込み、再び舌を握りしめた。
くくく。また鼻を殴りまくってやるぞ。
見ろ。
残ってるのはもうお前だけだ。観念したまえ。
『ロック・シュート』
「ガウウッ!!」
横倒しのボスは無防備に柔らかいお腹をさらしている。
そこに手下を片付けた2人の呪文と噛みつきが襲う。
容赦ないなぁ。
手下は全てダウン済。
イズミとシロまで参戦すればもはや逆転の目は無い。
勝負あった、だな。
結局、ボス狼はそこから立ち上がるコトができなかった。
暴れようとしても、舌を引っ張ると巨体が硬直するのでなにも出来なかったのだ。
「最後はあっけなかったな」
「マスターの戦い方が野蛮すぎて対応出来なかったのでしょうか?」
「わう?」
大きなお世話だ。
まったくうちの眷族ちゃんは言いたい放題だな。
まぁ、我ながら雑な戦術だったとは思うよ。
だけど仕方ないのだ。
パーティでのボス戦は完全に初体験だったしな。
結局いつもの分断戦術に頼ってしまった。
舌掴んだのも足止めのタメだったし。
それが巧く嵌まってくれたから楽ができただけだ。
もっとイズミ、シロとの連携を意識する必要があるな。




