063 プレゼント
冒険者ギルドからのんびり歩いて、俺たちは店に戻った。
「ただいまー」
「誰もいませんよ?」
「わう」
わかってるって。だけど言ってみたかったのだ。
ここが俺たちのホームだ。
ここから冒険に出発し、冒険から帰ってくる。
ログイン、ログアウトもここだ。
イズミとシロはここで生活する。
ホーム、家があるというのはとても安心感があるな。
宿とは違う。
このあたりは環境もいい。
綺麗に鋪装された町中と比べると、店のある町外れはホントに鄙びた感じがする。
森も近いから緑も濃い。
澄んだ空気も土と葉っぱの匂いがする。
小学生の頃いったキャンプ合宿を思い出すな。
石を組んだ竈になかなか火が着かなくて苦労したよ。
「料理道具はちゃんと設置してくれてますね。使うのが楽しみ」
イズミが銅製の炊飯釜をナデナデしている。
ぱっと見は無骨な箱だが中身は最新式だ。
冷蔵庫だって木製だが最先端。
買い物した大量の食材も余裕で収まった。
丸まれば俺だって入りそうだな。やらないけど。
「ちょっと井戸で水汲んでくるよ。コーヒーでも飲もう」
貯水槽に井戸水は貯めてあり、そこからパイプが通っているので井戸まで行く必要はない。
しかし今日はギコギコ汲んできたい気分なのだ。初日だしね。
手こぎポンプでやかんに汲んだ水を魔法のポットに注ぐ。
すぐに沸騰した。
コーヒーはインスタントだ。ごく安いやつ。
それでも良い香りが部屋に広がる。
「次からわたしが淹れますからね?」
初仕事を奪われてイズミがブーたれている。
ははは、よろしく頼むな。
さて、コーヒーも飲み終えたトコロで話題を戻そう。
「で、コレ、なんだと思う?」
リビングの片隅を占領するデカイ箱状の物体を、俺は指さした。木製だな。
「棺桶ではないでしょうか。西洋式の」
ああ、イズミもそう思うか。俺もそうだ。
ガッシリしてて重量感がある。表面も光沢があって結構いい木材を使ってる感じだな。高級品とみた。
「ということは。コレ、やっぱりアレか」
「カーミラ様のお祝いかと」
そうだよなぁ。
ベッドが足りないから買いに行きます、という話から、イイのがあるから譲ってあげる、という流れでコレが来た。
「つまり、コレで寝ろ。ということだろうか」
「その解釈で間違いないかと」
むむむむ。
いや、俺も吸血鬼がそういうモンスターだというのは知っている。詳しくはないけど。
昼間は棺桶で眠り、夜を待つ。純夜行性のモンスターだ。
俺みたいにペナルティ受けながら昼間ウロウロしてる方が珍しい。
しかし知っているのと、実際にそうするのではかなり覚悟が違う。
コレはお約束を神聖視するカーミラさんの与えた試練なのだ。
ならば受けて立たねばなるまい。男の子なので。
棺桶のフタは分厚く重そうだが片側にバネ仕掛けの蝶つがいが付いている。
「片開きの棺桶か。……よし、開けるぞ」
ギギギィ、バタン。
あれ?
ここはドコだ。
明るいリビングに居たはずが薄暗い寝室にいる。
「マスター。
棺桶のフタを開けたと同時に大きな魔力を感じました。
わたし達は転移したようです。シロもいますよ」
ワンッとシロの力強い吠え声。
揃ってどこかに飛ばされたのか。
しかしイズミはそんなコトまで分かるんだな。さすが魔女。
周囲を見渡す。
石造りの暗い部屋だ。割と広い。大きめのベッドがある。
書斎も兼ねてるようで書棚に机、椅子も置いてある。
ただし窓は無い。出入り口は重そうな木の扉。
ん? 触れた扉の感触に覚えがある。
普通に木だが、重量感があって表面には光沢。
イイ木材の高級感。形もさっき見たぞ。
「このドア、棺桶のフタそっくりなんだけど」
「とりあえずそこから外に出てみましょうか?」
俺は扉を押した。
開いた扉の向こうには……。
「ありゃ、店のリビングだ。戻ったのか?」
ただし戻ったのは俺だけだ。
ふたたび棺桶のフタを開ける。
また薄暗い寝室にいた。
イズミとシロはちゃんといるな。
「フタを開けたらココに転移する?
いや、カンオケの中なのか?」
「なるほど。さすがカーミラ様のプレゼントですね」
ベッド代わりだと思ったカンオケは、なんと寝室そのものだった。
凄い。
「得しましたねマスター。
部屋がひとつ増えましたよ?」
カンオケ部屋をしばらく調べてから、店のリビングに戻った。
いつの間にか陽が傾いてるな。
夕暮れの淡い光が部屋をセピア色に染めている。
綺麗だがちょっと寂しい光景かな。家に帰れと言われてるような。
「ここがマスターの家ですよ?
とっくに帰ってるじゃないですか」
ははは、ゴメンな。まだ慣れてないもので。
子供の頃、学校で放課後まで遊んで夕方を迎えてしまったときの感覚なんだよな。
夕暮れの光と校内放送のクラシックで寂しくなる。
カンオケ部屋がこの色に染まることは無いだろう。
まず窓が無いし。
日光をシャットアウトしてるから、まさに吸血鬼のタメの寝室なんだよな。シェルターに近いかもしれん。
「やっと『鑑定』が通りました。
アイテム名は『不壊の棺☆?』。
決して壊れず持ち主とその従者にしか開けられない魔法の棺。
内部は小さな異空間となっており宿泊が可能。
魔界の住人専用アイテム」
うわ、凄いな。
防犯は完璧だろコレ。
カーミラさんってば、またレアアイテムを惜しげも無く。
幾らぐらいするんだろう。
「『査定』スキルを使いましたが『査定不能』としか出ません」
それを売るなんてとんでもない、ってことか。
なにはともあれカーミラさんには感謝だ。
最初はビビったがコレはかなりの便利アイテムだろう。
実はコレ、ポーチに入るのだ。
持ち運べる寝室。しかも不壊。
野営もドンとこいだ。




