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錬金堂繁盛記 絵無し版  作者: 三津屋ケン
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056 住居と工房

 店の奥に入ると住居スペースになっていた。


 こっちはちょっと広めのリビング、といった感じだ。

 生活するだけならここで十分だな。日当たりも良いし。


 奥の壁側が炊事場で鍋やフライパンが並べてある。

 部屋の真ん中には食事を取るテーブル。

 食器棚には皿やカップがキチンと積まれている。

 いずれも洗えばすぐ使えそうだ。


「コレ、わたしが使ってもいいんですよね?」


 フライパンを手にイズミが満面の笑顔だ。

 珍しい。ワクワクしてるな。


「当然だろ。期待してるぞ?」


 いい顔でうなずく。これだけでも値打ちがあったな。


 ひとつ問題が。

 隣に狭いが寝室がくっついている。

 だけどコレ、ベッドが一つしか無いのだ。買うしかないな。

 椅子ログアウトはなるべく避けたい。寝覚めが良くないので。


「一緒に寝ますか? きっと運営に怒られますけど」


 だろうね。

 このゲームはそういうの厳しいらしいし。

 いきなりアカウント削除でなくても警告はくるだろ。


 昨夜の『吸血』はセーフみたいだったけど。

 一度、どこからアウトなのか検証してみたいな。

 いや、スケベな意味じゃなくてさ。


「ケダモノ……」


 ごめん、違うから。

 だから、その目はヤメテください。




 店舗と住居は見た。じゃあ工房はどこだ?


 キョロキョロしてたら見習い少女が案内してくれた。

 なんと地下に続く階段があった。

 まさかの地下室付きとは。ロマンだ。


 階段を降りた先の部屋は真っ暗だ。

 『暗視』の出番かな?

 先に降りてた少女が明かりを灯してくれた。

 一気に明るくなる。


 おおお。これが錬金術の工房か。


 ヘンな形のフラスコがやたらとあるな。

 石造りの台の上に頑丈そうな鍋が置いてある。ここで火をくべるのか?


「設備は古いですが、最低限必要なモノはみんな揃っています。

 基礎を学ぶにはちょうどいいですよ」


 月イチでここを掃除するのは少女の仕事だったそうだ。

 そのついでに、組合で受けた指導の復習や自習をこの設備でやっていたと。


「じゃあ、せっかくの勉強部屋を取っちゃったな。申し訳ない」

「いえ。段階も進んで使う機会もなくなっていたので。

 それより店舗も活用してくれるなら組合としても助かります。

 組合は研究に偏ってしまっていて、この町じゃ生産が弱いんです」


 へぇ、そうなのか。


 聞くと組合の活動は主に調合レシピの開発で、そのレシピを使って在野の錬金術師がアイテムの生産を行う。

 その在野、フリーの錬金術師が少ないため供給が追いつかず、ヨソからの輸入に頼っているのが現状。

 そして、その結果としてアイテムの価格も割高になっていると。品質の低い輸入品でもだ。


 運営の統計にあったな。プレイヤーが最初に選択する職業は『剣士』『魔術師』『僧侶』とかのスタンダードな戦闘職がほとんどなのだ。

 俺もそうだったし。今は昔だが。

 ログイン最初のキャラメイクで選択可能だし、とにかく戦闘に強い。戦闘が楽しいこのゲームで、まず選んどいて失敗はないのだ。


 最初から生産職を選択するのは、よほど確固としたビジョンを持ってたヒトだけだろう。

 その中でも『錬金術師』は初期選択にない。

 プレイヤーってほぼいないんじゃないかな?

 まだゲーム自体開始して間もないし。


 つまり『錬金術師』不足とアイテム価格高騰はしばらく続くということだ。

 ふふふ。カネの匂いがプンプンするぜ。


「マスター、悪い顔してますよ?」


 イズミが呆れ顔だ。おっとっと。


 まぁ、工房にしろ店舗にしろ具体的な話は『錬金術師』になってからだな。

 正直、置いてある機材の使い方が今の俺にはサッパリ分からないのだ。

 取らぬ狸の皮算用。ヘンな妄想はストップで。


 さらに嬉しいコトに、工房には広めの浴槽がくっついていた。

 風呂だ。最高だ。


「わたし、お風呂って入ったことないんですよ」


 イズミが興味津々だ。


 なんと、ゲーム世界とはいえ、それはイカンな。人生を損している。

 風呂はいいぞ。人類の至宝だ。今日から毎日入りなさい。

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