037 錬金術組合
「おい、イズミ。犬、可哀想じゃないか」
「はい。それはもう」
冒険者ギルドで正式に依頼を受領してしまった俺たちは、町の錬金術組合に向かっている。
わりと近いらしいが。
マンドラゴラの自生場所の情報と身代わりの犬を受け取るタメだ。
しかし、俺はかなり乗り気ではない。
だって可哀想だろ。犬。
俺がどう断ろうか迷ってるうちに、イズミがさっさと手続き済ませてしまったのだ。
即キャンセルはペナルティがあるそうなので、やるだけやってみるけどさ。
「そう思うなら、なんで受けたんだ?」
「報酬がいいですし、マンドラゴラにも興味ありますし。
まぁ、それはそうだけどさ。
銀貨50枚は魅力だし、マンドラゴラはファンタジーの定番だ。
入手しておけばイロイロ使い途もあるだろう。
だけど犬、それも子犬を犠牲にってのはイヤすぎだろ。
「大丈夫。なんとかしてくれますよ」
誰がだよ。
「お強いマスターが」
コッチに打ち返された。ぎゃふん。
錬金術組合は小さな研究室といった雰囲気だった。
10人ほどの白衣姿のヒト達がナニやら忙しそうに作業している。
フラスコの怪しい液体を渋い顔で味見している研究者。
ゴンゴンと轟音響かせるボイラーの圧力計とにらめっこしてる研究者。
みんな錬金術師なんだろうか。
いかにも理系の研究室って感じだ。化学系だな。
玄関で冒険者ギルドで依頼を受けたと伝えると、
担当者らしき白衣の女性が応対してくれた。
「新薬の研究で新鮮なマンドラゴラが必要なのです。
急いでもらえると助かります」
若干対応が素っ気ない。
まぁ、冒険者ギルドに依頼をだしたものの、失敗続きでイロイロ滞っているのだろう。
内心ウンザリしてるのかもしれないな。
同じ説明繰り返してるだろうし。
マンドラゴラの自生場所と注意点を教えてもらう。
場所は町から西へ進んだ危険区域『叫びの森』。
その奥に群生地があるらしい。
現地には番人が駐在しているらしいから、詳しい場所はそのヒトに聞けばいいそうだ。
『叫びの森』はモンスターは強いが、貴重な素材が多く自生しているらしい。
冒険者ギルドと錬金術組合にとっても重要な場所らしく、共同で拠点を建てて管理しているそうだ。
ひとまずそこを目指せばいい。その後は番人さんと相談だな。
マンドラゴラのノルマは1本だけだが、なるべく大きいのがイイらしい。
本当はもっと欲しいのだが、採取方法がアレなのでゼイタク言えないそうだ。
可哀想だし、と職員さんもこぼした。
犬とかどうなってもいい、とかは思ってないようだな。
ちょっと安心した。
普段は精製済のマンドラゴラを商都から仕入れているそうだが、今回は成分的に使えないそうだ。
身代わり犬の扱い方も聞いておく。
マンドラゴラは誰かがその叫び声を『聞く』ことで魔術的な成分が湧くらしい。
耳栓したり遠くからヒモで引っ張ったり、ではイカンのだ。
ただの雑草同然になるそうな。面倒な作物だな。
ひと通り話を聞いたトコロで、ふと思い出した。
そういやカーミラさんが教えてくれたな。錬金術で。
「依頼と関係ない話なんですが、錬金術のコトで教えてもらってもいいですか?」
「結構ですよ。お答えできることなら」
あっさり引き受けてくれた。助かります。
「錬金術で装備の強化ができるって話を聞いたんですが。本当でしょうか?」
職員さんは少し考えてから口を開いた。
「装備の強化ですか。
可能ですが、それはかなり上位の魔法アイテムのケースですね」
上位の? あれ? タダの黒服とか蝶ネクタイの話ですけど?
「金属で言えばミスリル銀以上。
木材なら樹齢千年以上の霊木。
繊維なら神霊から祝福を受けた霊布と言ったトコロ。
そういう魔力や霊力の塊のような素材なら可能です」
出てくる名前が凄そう。こりゃ違う話だな。
強化自体は『錬金術』の基礎『合成』アーツで出来るそうだ。
他の素材を融合させることで強化が可能らしい。そんな難しい話ではないようだ。
「しかし実際には試したコトはありませんね。
ベースになる素材が稀少揃いですから」
すみません。そんな高級品の話じゃないんです。
防御力紙同然の固定装備をナントカしたいだけなので。
いや、待てよ。
凄い素材でなくても珍しい素材ではあるかもしれん。
なんせ『吸血鬼の礼服』だ。
そこらでバーゲンしてないのは間違いないのだ。
お試しで頼んでみるか?
「マスター?
そんなホイホイお見せしてよいモノなのですか?」
はッ。言われてみれば。
装備名に『吸血鬼の』と大書きしてあるではないか。
一発で身バレしてしまう。
そして討伐エンドだ。心臓に白木の杭だ。ヤバイ。
うーむ。残念だがいまは諦めざるを得まい。
『錬金術』は自力でスキルを取得するしかないな。
そう思って覗いてみた取得可能リストに『錬金術』がない。
職員さんに訊いてみたら、錬金術師の専用スキルとのご返事。
つまり俺が装備を強化しようと思ったら、自ら『錬金術師』の職に就くしかないということだ。
思ってたより大ごとだなコリャ。とりあえず保留だ。




