036 冒険者登録
「こちらのお嬢さんはヒジカタさんのお仲間ですか?」
受付嬢が覗き込んだ。
う、下向くと魅惑の谷間が。完全に罠。
「はい。イズミと申します。ヒジカタ様にお仕えしています」
笑顔で完璧な受け答え。ジト目はドコいった。
「私はギルド受付嬢のパルミットです。お見知りおきを。
冒険者登録はまだのようですね。登録なさいますか?」
受付嬢、パルミットさんの提案にイズミが目をパチクリさせた。
「わたしのようなNPCでも出来るのですか?」
「冒険者のNPCは珍しくありませんよ。
このあたりじゃ見ませんが、エルフやドワーフの冒険者もいます」
へー、そうなのか。楽しみだな。やっぱ仲悪かったりするのかね。
「マスター、どうしましょう?」
「やっとけばいいんじゃないか? イロイロ出来るだろうし」
俺とセットじゃないと冒険できない、てのも不自由だし。
「そうですね……。じゃあ、お願いします」
ではこちらに記入とサインを、とパルミットさんは羊皮紙の書類を差し出す。
イズミは羽ペンを手に取り、ふと気付いたように顔を上げた。
「質問なのですが、ギルドは登録者の情報をどの程度把握しているものなのですか?
ステータスとか」
「原則として名前とLVだけですね。あとは自己申告があれば」
なるほど。コレは重要だ。イズミはホントに気が回るな。
見えてるのが名前とLVだけなら、いきなり吸血鬼として退治されちゃうコトもなかろう。
俺もぱっと見はごく普通だしな。
「ところでヒジカタさん。
ちょっと見ない間にずいぶんと変わられましたね。
剣士はやめられたのですか?」
訂正。ちょっと不審だったようだ。
「黒服に蝶ネクタイだけでも不審なのに、ヘンなタトゥーに青い眼光。
どう見ても厨二病の危ない人ですよね?」
「い、いえ、そこまでは」
え? ちょっと待て。黒服ネクタイはいい。
タトゥーに眼光ってなんだ。聞いてないぞ。
「あれ、マスターお気づきでない?」
お気づきもナニも。
吸血鬼は鏡に映らないみたいで、俺は自分の顔がどうなってるのか皆目わからんのだ。
ひょっとして、妙なコトになってんの?
「怪しいタトゥーに怪しい青の眼光。中途半端な正装。
ごく普通の不審者ですよ?」
「い、いえ、よくお似合いですよ? うん。スゴク。
冒険者の皆さんはけっこう奇天烈なカッコウされてる方も多いですし」
それって普通じゃない人への慰め方ですよね?
え、俺、そんなに? がーん。
「まぁ、そんなコトはどうでもいいじゃないですか」
流された。俺、かなり不安なんですけど。
「パルミットさん。なにか面白そうな依頼はありませんか?
せっかくだから依頼を受けてみたいのですが」
そうですね……、と嬢が手元の帳面をめくっている。
「お二人とも初級ランクなので、基本的な採集や討伐の依頼がほとんどですね。
珍しいのは、この間も紹介したマンドラゴラ採集の依頼でしょうか」
ああ、そんなのもあったな。たしか子犬のやつか。
「途中で子犬が逃げ出すそうで、誰も達成できてないのですよ」
「子犬? それはどういう依頼なのですか?」
興味を示したイズミに嬢が説明をしてくれる。
マンドラゴラは貴重な薬草なのだが、引き抜くと呪いの絶叫を発して聞いた者を即死させてしまう。
なので、採集の必要があるときは犬を身代わりにして引き抜かせるのが伝統的な手法なのだそうだ。
エグいな。
依頼人は町の錬金術組合。
犬は組合が用意する。報酬は銀貨50枚。
しかしその犬が途中で必ず逃げてしまって、誰も依頼達成できてないそうな。
まぁ、犬も必死だろうしな。頑張れ犬。俺は応援してるぞ。
「私個人としてはこのまま達成不能でも仕方ないかと。可哀想ですし」
嬢も乗り気ではないようだ。立場もあるのだろうけど。
イズミはなにやら考え込んでいる。おい?
「………。
パルミットさん。その依頼をお願いします」




