017 夜の吸血鬼
ワオーンッ。
夜の草原に突入すると早々にエネミーが襲ってきた。活性が違うね。
オオカミ3頭とと大コウモリ2匹の集団だ。
こいつらもカワイイ。丸っこくてね。
さすがに見た目だけで植物コンビの数倍は手強そう。
つか、動物と戦うの久しぶりだな。羊以来か?
昼間の俺なら迷わず逃げる。
未見のエネミーと1対5じゃ勝ち目がない。迷わず戦略的撤退だ。
しかぁしッ!! 今は夜、俺の時間だ!
夜のバンパイアに撤退の二文字は無いのだ!!
太陽の呪縛から逃れた我がパワー、とくと味わうがよい!!
フハハハハハハハッ!!!
……うん。俺、調子に乗ってますね。
でもイイじゃん。今くらいは。
やっと思う存分、好きなだけ暴れられるのだ。
「ウリィィィィィィィッ!!」
キャイーンッ!?
投げ飛ばしながら叫んでみました。吸血鬼と言えばね。
しかしヒドイ。夜の吸血鬼ヒドイ。強すぎ。
ただのパンチでオオカミのHP5割削っちゃう。
『怪力パンチ』で7割。骨折なんかしない。
『怪力投げ』したら9割消えました。
地面に叩きつけられた後、オオカミくんはしばらく動けないようだった。スマン。
大コウモリなんかパンチ1発で墜落だ。当てるの難しいけどね。
空中から襲ってくるのを迎撃するしかないのだ。
そして夜の吸血鬼はタフネスも凄い。
オオカミ渾身の噛みつき攻撃でも、俺はわずか5%程度のダメージ。
『再生』スキルも夜は強化されるみたいで、これくらいはすぐ回復する。
まさしく攻守に死角無し。ホント夜の吸血鬼強すぎ。
ただ、ひとつ気になる点があった。
『空気投げ』が発動しないのだ。
発動すれば、相手の力の流れが青い光で表示される。
それが何度やっても成功しないのだ。ファンブルする。
むむむ。なんでだ。要検証だな。
『空気投げ』は気になるが他の検証もやっとかねば。
次は俺の使える唯一の呪文『影縛り』さんだ。
ズバリ、夜でも使えるのか? この疑問を解かねば。
当たり前だが暗くて影なんかほとんどできないからね。夜は。
あえて手を出さずにおいたコウモリくん。キミが相手だ!
夜ではあるが月は出ている。影は薄く落ちている。
『影縛り』呪文を詠唱。ロックオン、発動!
コウモリの小さく薄い影から何本もの黒い柔腕が伸びる。ニョロニョロ。
しかしいつもと違うな。色が薄い? なんか弱そう。
腕はコウモリに届いた。しかし拘束はできなかった。
コウモリが大きく羽ばたいただけで、パキンとあっさり破られてしまったのだ。
なるほど。拘束の強さは影の濃さに比例するのか。
夜に使いたいならこのままじゃダメだ。ひと工夫要るな。勉強になったぜ。
さて、次は問題の『空気投げ』だ。
キャイーンッ!?
最後のオオカミがカワイイ悲鳴を上げてダウンした。
植物コンビはしゃべらなかったから新鮮だな。
まぁ、それは置いといて。
やっぱり失敗だった。
『空気投げ』選択したが発動せず。
襲いかかってきたオオカミはそのまま掴まえて投げ飛ばした。
うーむ。
ただの力任せの投げモドキだな。ステ値が高いから投げることはできるのだが。
ムリヤリ投げても一緒か。
なんでだ?
ステオール1じゃないと使えないとか?
いや、それは無かろう。
そんな虚弱プレイヤー、本来いるハズもないのだ。
ゲーム開始時点でも、合計20点のステ値を割り振ってキャラメイクするのだ。
ステオール1なんて異次元の弱さなのである。
自分で言ってて悲しいが。
パッパラパラー。
ファンファーレが鳴った。
戦闘勝利したことで種族LVがアップしたのだ。スゲー早い。
さすが格上のエネミーだな。効率がいいぜ。
悩むのはあとにするか。
やっとLV4だ。ステ値を2増やせる。
俺の戦闘スタイルならSTRを上げるべきだろう。
一撃が重くなるからな。
今のステ値ならSTRを突出させて25くらいまでは上げ続けるのが定石だ。
まぁ、昼間になればオール1の真っ平らステに戻っちゃうのだけど。
ん?
ちょっと待て。俺、いま、なんて言った?
突出? 真っ平ら?
…………あ。
あらららら? いや、そういうコトじゃないのか?
昼、『空気投げ』可、ステオール1、真っ平ら。
夜、『空気投げ』不可、ステ18~20、STR突出。
いや、突出とか凸凹じゃなく、5つのステ値、そう、五角形で考えろ。
昼、ステオール1の状態は五角形でいうなら正五角形。
中心からの距離が1の、砂粒みたいだが綺麗な正五角形だ。
夜、今の俺のステ値は上から20・18・19・18・19。
大きな五角形ではあるが正五角形ではない。微妙に歪んでいる。
歪んだ理由はLVアップだ。昼に2LV上がってその都度ステ振りしたからな。
陽光ペナルティが凄すぎてステオール1は微動だにしなかったが。
『空気投げ』の特徴は全身の連携だ。
投げがキレイに決まるのは、必ずこっちがスムーズに動けたときだ。
全身の動きがなんの齟齬もなく連動したとき。
一本の線で繋がったかのように躍動したとき。
そういう時の『空気投げ』は美しい。爽快なのだ。
ダメージも多めな気がする。
ステ値にもその美しさ、爽快さが求められるんじゃないのか?
全身の連携。爽快な五体のバランス。美しさ。
つまりそれは、『同じ5つのステータス値』なんじゃないか?
いいぞ。
この仮説、凄い面白い。すぐに検証せねば。
ならこの振りかけのステ値。振るべきはSTRじゃない。
俺はMAGとVITに1Pずつ振り分けた。
これで全体のステ値は20・19・19・19・19。
さっきよりは正五角形に近くなったはずだ。
コレで『空気投げ』どうだ?
よし、どこだモンスターちゃん達?
ちょっと離れたところにオオカミのトリオがいた。
俺は襲いかかった。
キャイーンッ。
夜空に響き渡るカワイイ悲鳴。すまんなぁ。
うむ。予想通り『空気投げ』は失敗した。
だが『怪力投げ』はダメージが増した気がする。これは嬉しい誤算だ。
『投げ技』はステ値が均等に近いと威力が増す?
よしよし。俺の『正五角形仮説』。いけるんじゃないか?
よーし、連戦だッ。速攻であと2LV上げる。
それでオール20の正五角形が完成する。
オオカミくん、大コウモリくん。遠慮はいらない。
ガンガン掛かってきたまえ。
て、いうか来て! お願いします!