146 交渉
俺は『紅蓮のサトウ』。
攻略パーティ『フレイムクリムゾン』のリーダーだ。
こういっちゃナンだが、プレイヤーの中じゃけっこう有名人だ。
我が『フレイムクリムゾン』はガチの攻略組。
特にダンジョン探索では1、2を争う実績をたたき出している。有力パーティなのだ。
「『マナポーション☆2』の受注生産を依頼したい。
代金は標準の2倍出す」
ダンジョン探索においてMP補給の重要性は言うまでも無い。
魔法職のMP残量こそがパーティの継戦能力そのものと言ってもいいからだ。
だからこそ忙しいさなか、リーダーの俺直々に調達に来ているのだ。
断じて店員の可愛いメイドさん目当てではない。
「スミマセン。そういうのやってないんで」
ヒジカタと名乗る白衣の店主はそうアッサリ断った。
紫肌の可愛いメイドさんもそうだったな。
お前らどんな関係だよ。
「攻略の手助けするのは生産職の義務だろう」
「そういうのやり出すと、『マナポーション』作るだけのゲームになっちゃいそうなんで。
それは避けたいんですよ」
「ひょっとして、生産専門じゃないのか?
店まで構えてるのに」
「そうなんです。
だから受注生産や予約販売は今後もしない方針です」
白衣の店主はそう言い切った。
むむう。これは手強いな。
錬金堂の店主は奇妙な男だった。
まず服装が奇妙だ。白衣にマフラーとか、なんともチグハグだ。
地味な生産者かと思えば、頬には意味不明のタトゥー。
丸眼鏡の下からは怪しい眼光が洩れている。
地味なのか派手なのか、やはりチグハグだ。怪しい。
『マナポーション』を作成してる生産職だから、ローブ姿の魔法使い系を想定してたのだがハズされてしまった。
むしろ科学者系の見た目だ。
「ご期待に添えず申し訳ありません。
『マナポーション☆2』は明日から販売再開の予定です。またご利用ください」
そう言って軽く頭を下げる。
口調は柔らかだが、依頼を引き受けるつもりはないようだ。むう。
「ならせめて、今ここで売ってくれないか?」
「まだ準備中なもので。申し訳ありません」
取りつくシマも無い。
サービス精神とかないのかよ?
「わかった。じゃあ、明日またくる。
だけどウチの依頼を断ったんだ。
ヨソの連中にも同じ対応で頼む。
俺たちは互いに競争相手なんだ。
依怙贔屓は無しでお願いする」
「そういうコトなら。善処させて貰いますよ」
そうとだけ答えて、柔らかく笑う。
余裕かよッ。
クソッ、結局なんの言質も取れなかった。完敗だ。