136 試乗会
「キィイヤァーッ!? た、たすけてぇーッ!?」
店の庭先を巨大なケモノが駆け回っている。
『巨狼変化』使用中のシロである。
デカイ。軽自動車ぐらいのサイズがある。
「楽しそうだな、ミライナ先生」
「本当に。シロの育ての親ですから。
立派になったシロの姿は嬉しいでしょうね」
まったくだ。
ライドオン1番乗りを譲った甲斐があったよ。
巨狼シロの背中にしがみついているのがミライナ先生である。
生まれて初めてジェットコースターに乗せられた幼児のような、そんな初々しさで叫び続けている。楽しそうだ。
「ワワウッ!」
シロもまた大好きなミライナちゃんの歓声に興奮してギアを上げる。
今度は跳ね回り始めた。
ドッスンドッスンと超弩級のロデオだ。
「ぎゃぁあああーッ⁉」
「迫力が凄いな。確かに多少素早さは落ちてるみたいだけど」
「重量感がありますね。体当たりしたらエネミー吹っ飛びますよ?」
うむ。破壊力がありそうだ。
巨狼体当たり、連携コンボに組み込めるんじゃないか? 有望株だな。
「二人乗りも試してみたいな。イズミ、頼む。
それと騎乗したまま呪文が使えるかも試してくれ」
「はい。可能性が広がりますね」
「全くだ」
「た、たすけてぇーッ!?」
「ああぁぁぁ……。シロぉ、気持ちいい……」
ミライナ先生がウットリとあえいでいる。
寝転んだ巨狼シロの腹毛の中である。
巨狼モフモフの検証だ。
トロトロの顔になってフカフカの毛皮にくるまっている。幸せそうだ。
まるで授乳する母犬子犬みたいな心暖まる風景。関係が逆転しているな。
さっきまで狂乱の試乗会に大興奮だったのが、今は恍惚の表情である。
「効果凄いな」
「完全にダメになってますね。あ、寝ちゃいましたよ?」
これアレだ。人間をダメにする毛布?
「回復効率も凄そうですね。なにしろ寝てますし」
「攻守にスキがないな。『巨狼変化』スキル」
イズミが加わっての二人乗りも、巨狼シロは全然へっちゃらだった。
これ、単純に長距離移動の手段としても使えるよな。
『叫びの森』まで今は歩きで3時間ほどかけてるが、コレなら30分くらいで行っちゃうんじゃないか?
もし可能なら凄い時間短縮になる。
さっきまで駆け回り跳ね回ってた様子なら、それぐらいは楽勝ぽい。
「乗った状態で呪文も使えましたし、戦闘の幅も広がりそうですね。
乗り心地は大変でしたけど」
鞍もアブミもないから乗ってる間は毛皮を掴むしかないのだ。
戦闘中に鞍を乗っけてる暇は無いからな。
それは慣れるしかない。
しばらくして巨狼状態は自動解除された。
効果は1時間か。充分だ。
Zzzzzz……。
子犬に戻ったシロは、寝息を立てるミライナ先生に抱きしめられている。しばらく起きそうにないな。
遊び疲れたシロもなんだか眠たげだ。
店の中で寝かせとくか。
俺はミライナ先生を、イズミがシロを抱え上げた。
軽いなー、ミライナ先生。
「わたしのベッドを使えばイイですよ」
「おつかれさん。しばらく寝てていいですよ?」
朝から規定外労働を強いてしまったな。
なんか埋め合わせしないと。