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錬金堂繁盛記 絵無し版  作者: 三津屋ケン
135/607

135 ひと区切り

「おはようございます。マスター」

「わうッ」

「ああ。おはよう。イズミ、シロ」


 よく寝たからかカラダが軽い。スッキリ爽快な朝だ。


 結局あのまま二人して寝てしまった。


 警告のインフォとかはないから運営的にはセーフなんだろう。

 まぁ、やましいコトはナニもしてないし。

 ちょっとハグして首筋から血を吸ってるだけです。健全です。




 それよりも、だ。


 昨夜の出来事というのは、思い出してみるとなんというか。


 ……恥ずかしい。


 特に泣きながら帰宅してきたあたりの部分は、オトコとしてどうなのか。


 どうも俺はイズミに依存し過ぎてるんじゃあるまいか。

 毎晩吸血して一緒に寝てるもんだから距離感を見失ってるというか。

 イロイロと口が滑ってしまうのだ。


 他人じゃない感とでもいうのか。恥ずかしい。




「はい、コーヒーです。パン、もうすぐ焼けますからね」


 ああ、ありがとう。

 うん、朝の一杯は美味いな。


「イイんですよ?

 他人じゃないんですから」


 フッと囁いてからスッと離れる。

 何食わぬ顔でコーヒーを楽しんでいる。


 距離感を見失ってるのは俺だけじゃないようだ。注意せねば。




 さて、俺もココまでイロイロあった。


 吸血鬼になったり、眷族ちゃんができたり、店を持ったり、ペットが増えたりしたわけだが。


 なんか、やらなきゃイカンことが増え、かつ放置しちゃってるな。


「ちょっと優先順位を整理しよう。

 アタマが混乱しそうだ」

「そうですね。整理整頓は大事ですよ?」




 まず締め切りのある仕事からだな。

 後回しにできない分だ。


「まずミライナさんと商品の調合ですね。

 新しい道具の調子も見ないと」


 うん。これがまず今日の最優先だ。

 お金も派手に使っちゃったしな。


「そして販売。商品のラインナップも増やしたいですね」


 これは明日以降だな。

 俺のログアウト中の通常業務だ。頑張っていただきたい。


「次にマスターの錬金術師への転職ですね。

 商品の調合を頑張って『調合』『器具操作』のスキルLVをアップしてください」


『錬金術』スキルで俺の装備が強化できるようになる。

 吸血鬼シリーズは自前で付喪神化しちゃってるが、防御力自体は紙のままだ。これもなるべく急ぎたい。


「次にわたし達全体の戦闘能力の底上げですね。

 マスターの仰ってた連携コンボの成否が大きな鍵になると思われます」

「わぉんッ」


 シロもやる気だ。是非とも頑張りたいですなッ!

 連携コンボはロマン。


「次にカーミラ様から預かった『迷宮樹』のお世話。

 発芽はまだです」


 コレは芽が出てからだな。

 とりあえず『蒸留水☆2』をまいとこう。

 育成の方向性は決まっている。楽しいダンジョンだ。


「あとは……、『転売屋』さんへの対処でしょうか。これは放置で?」


 うん。基本放置で。そういうプレイも有りだろうし。

 ペナルティを外す情報とかあったら教えてあげてもいいけど。今のトコロないし。


 じつは密かに彼には期待しているのだ。

 是非ともこのまま『転売屋』としてがんばって頂きたい。

『転売屋』ルートを経て『転売屋』ENDに至る、そういうプレイヤーがいてもイイと思うのだ。

 できれば経過を公表してくれたら最高なんだが。


「あと個人的な課題として、わたしは『料理スキル』の強化ですね。

 和食レシピも覚えたいので。マスターは?」


『見切り』『五体連動』の強化、それと新たなダメージ源の模索だな。

 連携コンボとはまた別口で頑張りたい。


 やっぱしさ、先頭でガンガン暴れたいワケですよ。

 男の子なので。


「まぁ、その辺はご自由に。

 ただ、一人で危ないコトしちゃダメですよ?」


 はい、気をつけます。

 もう高LVの中ボスに突っ込んだりしません。


「最後に長期目標、『グランドクエスト』ですが」


 うむ。


「わたしは『オムライス☆5』を目指します。

 至高のオムライスですね」

「俺は『イズミを人間にする』だな。ジックリやるぞ?」


 俺たちは目を合わせ、ニヤリと笑った。

 なかなかにハードな目標だ。



 イズミの『オムライス☆5』は、かなり遙かな道のりだと思う。

 この間の、最高に美味かった大将の『唐揚げ定食』でさえ☆4なのだ。

 大将の談によると、豊富な経験と最高の素材と天井知らずの努力。

 この3つが組み合わさって初めてできるのが『☆5の料理』だそうな。

 それを聞いて、臆するどころかなおさら燃え上がってるのだからイズミも凄いよな。


 そして、俺の方は完全に手探りだ。

 俺の思いつきが現実に通用するのか、詳しい人にイロイロ相談したいな。

 カーミラさんは当然だが、リアルでも相談相手が欲しい。

 なんせ俺はタダの高校生。カネもツテも知識も無いのだ。


 ただ若いから時間はある

 このゲームの中ならそれを6倍にできる。

 リアルで15年、ゲーム内で90年もかければ大概のコトはできるだろう。 


 いけるいける。


 リアルの100年をマルマル突っ込んだ爺サマに比べれば甘ちゃんだ。

 ジックリ楽しんでやればいい。


 ただ、イズミの希望はなるべく早くとのことだ。折り合いはつけないと。


「わたしが人間になれても、マスターがヨボヨボのお爺ちゃんじゃ意味ないじゃないですか」


 えーと、そう、なのか?


「適齢期とかありますし、あんまり年の差があるのもねぇ。

 あ、でも、マスターがトシ取ったら肉体だけ取っ替えちゃうのもアリですかね?」


 え? 


 NPCをインストール可能なら、プレイヤーも可能?


 そうなるか?


「いっそ肉体なんか捨ててNPCとして生きるのもアリ? 

 その時はご一緒しますし。完全にゲームの中で生活できますよ?」


 完全にゲームで生活?

 じゅるり。魅力的なアイデアすぎる。


 ……い、いやいや気軽に人間辞めさせないでくれ。

 だいたい、そういうのが可能になったら現実社会がメチャクチャになるぞ?

 リアルとゲームの境界が消失してるし。

 俺にとって魅力的なのは間違いないのだが。夢の境地だ。




 今の話、カーミラさんに聞かせたらどんな顔するだろうか。


 ドン引きか?


 それとも『なら魔界も混ぜちゃいなさい』って悪ノリか? ありそう。


 怖いな。ヤだぞ。

 クエスト達成したら世界が滅びましたとか。




 錬金堂繁盛記 プロローグ Fin



 続きますよ?

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