132 元気だしなさい
『巨狼変化』には度肝を抜かれたな。
陰鬱だった空気がだいぶ薄らいだ。シロには感謝だ。
薬研の方の試運転は諦め、ひとっ風呂あびてカンオケ部屋に戻ってきたのだが。
「遅いですよ?」
なんで当然のようにココで寝てるんだ?
イズミさんや。
「もう、このベッドでしか寝られないカラダにされてしまったのです。仕方ないのです」
さも俺がしちゃったかのように言ってるんじゃありません。
ステータス低下中だから『義務』は自粛、と決めただろ?
風邪引いたときはおとなしくするものだ。デスペナもそんな感じだろうと思ったのだが。
「して貰わないと目がさえて眠れないのです。逆効果ですよ?」
イズミも引かない。
デスペナルティ中だとは思えない元気振りだ。俺が気にしすぎてるのか?
「じゃ、軽くだけな」
イズミはうなずいたが起き上がろうとはしない。
悪戯っぽい笑みで俺を見上げている。
仕方ないので覆いかぶさる形で首筋に顔を寄せた。
「思い切り吸ってください。
ペナルティごと吸い取っちゃう感じで」
下から腕を回してくる。
コロンでも振ってるのだろうか、柑橘系の香りが包み込んでくる。
う、積極的じゃないか。
最初は嫌がってたはずなんだが。
だんだん慣れてきた、というか楽しくなってきたようだな。
まぁ、俺だって吸いたくないワケじゃないんだ。
イズミは可愛いし血は天上の甘露だ。だからこそだ。
一度、前のめりになってしまえば止まらない自覚がある。
そしてこの行為はギリギリのライン上だ。
顔を寄せる場所を少しずらすだけで、俺は永久追放、アカBANなのだ。
だから隠しなさい。その無防備で甘そうな唇とか。
とんでもない危険物だよ。
うふふ、わたしの勝利です。
『義務』はなによりも優先するのです。
デスペナルティ? そんなのポイで。
今夜のマスターは優しかったです。優し過ぎるほどです。
気にしてますね? わたしの死に戻りを。お見通しですよ?
意外とね、抱え込んじゃうタイプなんですよね。マスター。
きっと『俺が弱いせいだー』とか悩んでたに違いないのです。
まったく世話が焼けますねぇ。
「もっとね、一緒にやりましょうよ」
『義務』を終えて起き上がろうとするマスター。
その腕を引っ張って寝かせます。ええい、乗っかっちゃえ!
「イズミ?」
怪訝な顔のマスターをグッと覗き込みます。うふ。近いですね。
「調合も戦闘も、もっと一緒にできると思うんです。
薬草とキノコ、みじん切りなら自信ありますよ?」
ズルいですよ? ミライナさんとばかり。
わたしも混ぜなさい。
「中ボス戦だって、もっとわたし達をアテにしてくださいな。
守ってくれるのは嬉しいですけど、やっぱり一緒に戦いたいです」
「だけどダメージがな……」
「反撃できないくらいボコボコにしちゃえばいいんですよ。皆で」
反撃できないくらいボコボコに、か。
簡単に言ってくれるな、ウチの眷族ちゃんは。
「お強いマスターならこれくらい楽勝ですよ?」
信頼が重いね。
……やれやれ。前向きに考えてみるか。