128 帰宅
「お帰りなさい、マスター。遅かったですね?」
俺はへたり込んだ。
いる、イズミが。
いつも通りリビングに。
よ、よかったぁ……。
「マスター?」
だいじょうぶ、俺は大丈夫だ。
ちょっと腰が抜けただけだから。うん。
「もう、なにやってるんですか。
それに、ほら、これで顔拭いてください」
座り込む俺の顔にタオルを押しつけてくる。え、なに?
「涙と鼻水でグシャグシャですよ?
花粉症のステータス異常でも食らったんですか?」
その状態異常攻撃は絶対に導入して欲しくない。
どうやら俺は泣きながら帰ってきたらしい。
シロを見やるとワンとうなずく。
うわッ、恥ずかしい。
「そんなに負けて悔しかったんですか? 子供じゃあるまいし」
いや、勝ったみたいなんだけどさ。よく分からんけど。
そうじゃなくて。
「そりゃ泣くだろ。お前が死んだんだぞ?」
「え?」
なにキョトンとしてやがる。のんきだな。
やっと帰ってきたマスターの様子がオカシイです。
なんですかその泣き顔?
ちょっとカワイイじゃないですか。
「平原からココまで、俺たちがどんな鬱な気分でトボトボ帰ってきたか。なぁ、シロ」
「わう」
シロと顔を合わせてウンウンうなずきあっています。
仲良しですね。
「ゲームなんですからやられても死に戻るだけですよ?」
「そんなの分かんないだろう。
そのままロストのゲームだってあるんだ」
まぁ、たしかにそうかもしれませんけど。
「爺サマのコレクションで重要ヒロインが序盤で死んじゃうゲームだってあった。
あんときゃビックリしたぞ。育ててたのに」
その時も泣いたんですか?
「そんなワケないだろ。
お前はもっと自分を大事にしろ」
珍しくマスターがキレ気味です。
「絶対に今日みたいなマネはするな。
俺なんか庇わなくていいから」
だけど、主人を守るのは眷族の義務なんですよ?
「それは魔法と料理で頼む。
物理の壁はダメだ。約束しろ」
ぶーッ。
せっかく頑張ったのに怒られてます。納得できません。
わたしだって痛かったんですよ?
デスペナルティだって貰ってます。
もっと褒めてくれたっていいんじゃないですか?
ケチ。
「…………あのな。俺はお前が好きなんだよ」
「だから、お前が死に戻ったり、痛い目に遭ったりするのはイヤなんだ。わかるか?」
わ、わかってますよ。そんなコト。
だからそんな真剣な顔で見つめないで。
目をそらせません。
「自分の身を守ることを、俺を守ることより上位に置いてくれ。
それが俺たちの義務だ。吸血鬼はいくらでも蘇るんだから」
ううう。そんな風に言われると困っちゃうじゃないですか。
「さっきあんなコトになってしまったのは、ゼンブ俺の判断ミスのせいだ。
それをお前が身を挺してひっくり返してくれた」
肩を掴んでジッと目を見るマスター。
近い。近いですよ?
「お前は最高の眷族だよ。
だけど、お前が死に戻って俺たちはとても悲しかった。
今後は命大事に、な?」
ず、ズルい。そんな距離でそんな角度でそんな目で。
「……はい」
こう言うしかないじゃないですか。
ハメ技です。