124 錬金術組合に
『迷宮樹の種』ショックからなんとか立ち直り、俺たちは午後の目的地へやってきた。
錬金術組合である。
さっそくミライナ先生のとこまで通して貰った。
「いらっしゃい。ヒジカタさん、イズミさん。
次のお仕事ですか?」
「はい。マスターがマンドラゴラ確保したので。
明日からお願いしようかと。かまいませんか?」
出てきたミライナ先生にイズミが親しげに笑いかけている。
向こうも笑顔だ。
ずいぶん仲良くなってるようだ。
俺のログアウト中も一緒に店を頑張ってくれたそうだから当然かもな。
なにより女の子同士だ。話も弾むのだろう。
「はい、大丈夫です。朝からまたお邪魔しますね。
ヒジカタさん、一昨日はイロイロご馳走になりました。
ありがとうございました」
ペコリ頭を下げる。
食べ歩きの件かな? 気にしなくていいのに。イイ子だ。
「こちらこそイズミにつきあって貰っちゃって。
これからもヨロシク」
「わたしとミライナさんはもうマブダチなので当然ですよ?」
仲良きことはイイことだ。
しかしドコで覚えてくるのやら、そんな言葉。
「あ、そうだ、マブダチ先生。
珍しい道具を貰ったんだけど使えるかな?
『魔女の大釜』っていうんだけど」
「え、えッ?」
「『魔女の大釜』ですって!?」
反応したのはむしろ近くで書き物してた職員さんだった。
驚くような大声だ。
「はぁ。叫びの森で森番の奥さんから頂きました。
コレなんですけど」
ドンと置いた大釜に、職員さんのみならず周りの研究員さん達もワラワラと集まってきた。
「これがあの『魔女の大釜』………」
「エルフの大師匠から譲られた?」
「ああーッ、使ってみたい、けど……」
貴重品だったんですね。
あと奥さん、そんな風に呼ばれてるんですか?
職員さんの話によると、この錬金術組合の創設者のさらに師匠があの奥さんなんだそうな。
またトシを聞いてはいけない女性が増えたぜ。
そして『魔女の大釜』は、ベテラン錬金術師である職員さん達でも使いこなすことができないコトが判明した。
なんてこったい!
それじゃあ、俺はもっとムリじゃん!
なんでも特殊な魔法スキルが必要なそうで、錬金術のスキルLV が高いだけでは創造系の作成はできないのだそうだ。
残念。まだ調合師だけどさ。
「ですが調合用の釜としても充分に上位の魔法具です。
より高品質の作成が可能になるかもしれませんよ?」
おお、それは良いニュースだ。
『傷薬☆3』に挑めるということだな?
「別に傷薬にこだわらなくてもいいのでは?」
「なんか楽しくなってきちゃってな。
傷薬ならまかせろ、というか」
『傷薬☆2』が即日完売したと聞いて地味に嬉しかったのだ。
頑張った甲斐があったというものだ。
それに『傷薬☆3』ができれば回復量が100の大台に乗る。
コスパを維持してこの回復量はかなりお買い得なんじゃないか?
「☆の多い作成物はより濃い経験値を与えてくれます。
上達への近道ですよ」
ミライナ先生もこうおっしゃっておられる。
邁進するぜ傷薬道!
「ですけどマスター。
この大釜、『傷薬』作成のどの工程で使用するおつもりで?」
妙なコト聞くね。
そりゃ、お前、素材を刻んですり潰してだな……。
……あ。無いわ。
大釜なんて全く出番ないわ。『傷薬』作成。ガーン。
作成工程がシンプル過ぎて挟むスキがなかった。
恐るべし、傷薬さん。
「そもそも『魔女の大釜』で『傷薬』作成とかモッタイナイ。
ここはミライナさんに『マナポーション☆3』を試して貰うべきでは?」
ううむ。ぐぅの音もでないぜ。
高価な釣り竿でザリガニ釣るようなものかね。
いや、ザリガニ釣りも面白いんだよ?
しかし『傷薬☆3』……。
まぁ、使えないんじゃしょうがないか。
「傷薬の品質向上なら、こんな特殊な魔法具は必要ありませんよ」
うっとり大釜を撫で回していた職員さんが教えてくれた。
素材をすり潰す作業に特化した道具があるらしい。
俺の『器具操作』スキルLVなら問題なく扱えるそうだ。
マジですか!
組合の予備を安く譲ってもいいということなのでお願いした。助かる。
その代わり『魔女の大釜』の使い心地をミライナにレポートさせてほしいと頼まれた。
いろいろ調べてみたいらしい。
お安い御用です。
「じゃあ、ミライナお願いね。生産も頑張るのよ。
期待してるわよ?」
「はいッ」
上司の激励にミライナ先生も気合い十分だ。
よろしくお願いします。