123 唐揚げ定食と『タネ』
シンクロの件はしばらく棚上げだな。
魔界的には問題ないそうだが。
というかイズミをどうにかするほうが早い、コトが判明した。
「ほれ、お待ちどう。話はそこまでにしてさっさと食え。
美味いぞ」
本日の日替わりは大盛り唐揚げ定食か。
見ただけでハラが鳴るぜ。
「凄いッ。☆4ですよ⁉」
「ワウッ!!」
イズミとシロが大興奮だ。
ワンコ皿にも唐揚げが山盛りだ。みそ汁付き。
シロはドッグフードも好きだが、ヒト用のオカズもいけるんだよな。
リアルなら酷いメタボ犬になっていることだろう。
ゲームでよかった。
「いい鶏が手に入ったんでな。こいつは美味いぞ?」
「「いただきますッ」」
「わうッ」
俺たちは手を合わせ唐揚げに襲いかかった。
うーん、美味いッ!
唐揚げって店の実力がホント出るんだよな。大将の凄腕さがわかる。
サクサクジューシィにして奥深い味付け。
間違いなく俺人生最高の唐揚げ。
付け合わせのレタスとニンジンのサラダもいい。爽やかな水気が唐揚げの油を洗い流してくれる。
青ネギを細かく刻んだナメコのみそ汁も優しい。
すべてが調和している。美味い。
「白ご飯も☆4。はぁ、なんて甘い……」
「がううん」
「若い子達の食べっぷりは気持ちいいわねぇ。お酒が進むわぁ」
上機嫌に杯を揺らすカーミラさん。
そこに大将が小さめの皿を差し出した。
「アナタも食べてくださいよ。飲んでばかりないで」
「ツマミにはちょっと重いんだけど……」
「おろしポン酢がけです。サッパリ風味ですよ」
なら頂こうかしら、とハシを取った。
上品な箸使いだ。ホントにヨーロピアンか?
「あの時はホント、すみません」
「あーらぁ、そんなコト気にしてたのぉ? いーのよぉ」
食事を済ませた俺は頭を下げて謝罪した。
あの最初の朝のコトだ。
非礼を詫びた俺を、カーミラさんはあっさり許してくれた。
食後のコーヒータイムである。
ここの日替わりはドリンク付きなのだ。
「逆上して、そのままバンパイアハンターになっちゃう子もいるぐらいだし」
あはははは、と手をパタパタ振りながら笑っている。
そんな漫画ありそう。
「そういう作品の方々も魔界にはいるのでしょうか?
コッチに来たり?」
「居るんだけど、そこまで自由に動くには年季が足りないかしら?
あと百年経って忘れられてなければ来るかもねぇ」
イズミの問いにちょっと考えながら答えている。
スケール長いな魔界。
「逆に私達みたいな古典のベテランは気軽に来れるわぁ。
そういうヒト達を受け入れる準備が必要なんだけど。
……そうねぇ。丁度いいかもねぇ」
「カーミラ様?」
「まぁまぁ、いい機会よぉ?」
眉をひそめる大将を制して、カーミラさんはカウンターに手を置いた。
白い手が戻ると、そこには奇妙な球体?が置かれていた。
光るクルミ?
「これは『迷宮樹の種』。
植えて成長すれば迷宮、つまりダンジョンになるわぁ」
おぉー!?
そりゃ凄い。ダンジョンの卵ですか。
「私達が育てると強力な裏ダンジョンになるの。
それはそれでイイのだけど」
ニッコリ俺たちを見る。悪戯っぽい笑顔。
「コレを貴方たちに預けるわぁ。
楽しいダンジョンに育てて欲しいわねぇ」
『魔界飯 新宿』を出た俺はその場に立ち尽くした。
光るクルミを両手のひらに捧げもって。
「非礼を詫びたら凄いモノをもらってしまった……」
「礼儀ってホントに大事ですよねぇ」
いや、本当に。
大将の様子からみると俺たちなんかに渡していいモノじゃなさそうなのだが。
いいの? イズミ、どう思う?
「まぁ、もらってしまったモノは仕方ありません。
大事に育ててあげるとしましょう」
うちの眷族ちゃんは肝が据わってるなぁ。
まぁ、それしかないか。
今すぐどうこうというモノでもないようだし。
まず普通に土に植えて発芽するのを待つ。
発芽後、肥料代わりにアイテムを捧げていくことで樹は成長していくらしい。
そのアイテムの傾向によってダンジョンの育ち方が違うということだ。
やり込み前提の裏ダンジョンにしたいなら、高LVエネミーのレアドロップとか捧げまくればいいそうだ。
そんな貴重品持ってるワケも無いが。
「そもそも、『楽しいダンジョン』ってゼンゼン心当たりがないんだが」
二人して考える。
しばらくしてイズミがポンと手を叩いた。
「戦闘のドロップ品より、生産の作成物の方がそれっぽいんじゃないですか?
手頃な回復薬とかおいしい料理とか。平和的で」
なるほど。確かにそうだな。
ナイスアイデアだイズミ。
そうだ。
なるべく暢気なモノがいい。
のんきで楽しいダンジョンに育ててやろう。