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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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44.始まりの話

 アンデスを倒した、けど。


「……ん?いつもの通知が来ないな」


 LV上限が解放ってやつ。

 けれども理由はすぐに分かった。


 いつもなら魔片を破壊した時にLV上限が解放されるけど今回アンデスの魔片は両手の指輪にはめられていた。

 俺が攻撃したのは胴で腕は無事だったから魔片を破壊できてなかったんだ。

 さくっと壊してスキルポイントをいただこうと思ったんだけど。


「ハーイ、お疲れさん」

「お前は……サウス!?」


 アンデスの腕を先に回収したのはグリフォン使いの男だった。

 見かけないと思ったらこのタイミングで現れやがった。


「おう、コイツは回収させてもらうぜ」

「それはラグナさんの魔片です!」

「魔片の代わりに見逃してやるって言ってるんだ。それともこの魔片を装備した俺ともう1戦交えるかい?」


 クローバーが尖った歯を剥き出しにして威嚇するものの、相手は人間の最高戦力と言われる騎士団長。

 こっちはMP空っぽだし、魔片10個装備するこいつと戦うのは避けたい。

 それにクローバーだって消耗しているはずだ。アンデスとかアンデスとかアンデスのせいでな。


「んじゃ、引かせてもらうわ。行こうぜゲッカ」

「でも!」

「いいんだよ、こんなトコとっととオサラバしようぜ」


 アンデスの攻撃を受けたから心配したけどゲッカも問題なく走れそうだ。

 ゲッカは俺とクローバーを乗せて軽やかに走り出す。


「ラグナさんよ。お前が王である限りオレたちはまた会うことになる。次はもっと楽しくやろうぜ」

「カッ、やなこった。俺は別にバトルジャンキーじゃないんでな!」


 軽薄な笑顔を振り切って俺たちはインクナブラを後にする。

 サウスが見逃すと言った通り、追手の気配はない。



 インクナブラを脱出して目指すはキピテルとの合流地点の赤い柱だ。

 ゲッカなら数時間ほどで辿り着く。


 クローバーは意識こそはっきりしているものの満身創痍で疲れた様子だ。

 背中がズタズタだけど痕とか残らないよな?アンデスあのヤロウまじ許さねぇ。死んだけど。


「持ってきておいてよかった、ここならゆっくり食えるだろ。そら、これ食えクローバー」

「え……?」


 クローバーがのろのろと顔をあげる。

 袋から取り出したのは俺がこの世界に目覚めて間もない頃にエネルバ先生にもらった金のリンゴだ。

 けれどもクローバーはリンゴを見てすぐに首を振る。


「それは……、大切なものって言ってたじゃないですか」

「ああ、大切なものだ。だから食えって言ってんだよ、お前に」


 誰にでもあげるわけじゃないぞ、本当に必要な時に使おうと思っていたものだから。

 クローバーは遠慮しているのか口をモゴモゴさせている。ああもう、じれったいな。


「さっさと食わないと無理やり食わすぞ」

「もが!お、押し付けながら言わないで下さい」


 このままだと本気で口にねじ込まれると思ったのかクローバーがかじりだす。


「……ああ、そうか」

「ん?」

「今なら分かります。いただきますって、こういう時に言うんですね」


 そう言って、歯を浮かせて笑った。


 食べて少しするとクローバーの傷はみるみる塞がっていく。さすがエネルバ先生のリンゴだ。

 背中の傷はきれいになった。血がついてるから後で洗ってやらないとな。嫌がられるだろうけど。


 ところでクローバーの今の格好は布に頭を出す用の穴を開けてすっぽりかぶり、腰を紐で結んだだけという服と言うのもおこがましい粗末な格好。

 さらに鞭で打たれて背中部分が破けているから本当に露出が多い。

 下着もはいてないし、側面からいついろんなものが見えるか分かったもんじゃない。

 服、服が欲しい。この世界に来てから服や下着が欲しいと願い続けて来たけれど、まさか自分以外の衣類を渇望する日が来るとは思わなかった。


 とにかく目のやり場に困るな、他の事を考えよう。


「……なぁ、目は」

「こちらは無理でしょうね」


 クローバーは潰れてしまった左目に触れながら、少し寂しそうに言った。

 烙印で焼かれた目は二度と癒えることはないそうだ。

 肉体を完全再生させたカロンの力を借りればなんとかならないかと思ったけれどクローバーは首を振る。

 リンゴ効果で目を焼かれた痛みそのものは引いたけど傷跡は痛ましい。

 もっと早く来ていればと思わずにいられない。


「そんな顔しないで。ボクこれでも嬉しいんです。これから鏡を見るたびにあなたに助けてもらったことを思い出せますから」


 消えない大きな傷を負ったのに朗らかに笑って見せた。

 このネコはこんな風に笑えたんだなと今更ながらに思う。



「ねぇラグナさん、ゲッカさん。これは抱えたまま持っていこうと思ったんですけど死に損なってしまいましたから……ボクの秘密、聞いてもらえますか?」

「んん?暇つぶしに聞いてやるよ」

「ヴァウ!」


 キャスパリーグだの破滅だの言われたのにまだあるのか?

 今更何言われても大抵の事じゃ驚かないぞ。


「ボク、あなたと同じ王様だったんです。猫の王っていう」

「ヴァウ!?」

「は?」


 ごめんウソです、驚いた。


「お前、ほんっっっとポロポロ出てくるな!?」


 つまり『猫の王』っていうスキルを持ってるわけか。

 王の宣告の作法にこだわったり詳しかったのも頷ける。クローバー自身が宣告の資格があるわけね。


「幻滅しました?自分以外の王はジャマですか?」

「アホか。言ったろ、俺は全部受け止める王だって」

「知ってた。そういう人ですよね、あなたは」


 クローバーの声はいつになく穏やかだ。


「ボクは人望が壊滅的ですから戦いに参加する気はありません。それでも王に相応しいネコになろうと勉強したし、どんな王になるかの答えだけは用意したんですよ」

「どんな王になるつもりだったんだ?」


 魔王は蹂躙の王、人王は支配の王。カニスは生き抜く王で俺は受け止める王だ。

 どれも王のあるべき形だろう。王によって答えは違う。


「王様はね、誰もが羨むような良いものを持ってるんですよ。だからボクはずっと探してたんですよ、宝物を」


 ユニークコアを見つけた時、クローバーは宝物を探すために旅に出たと言っていた。


「ボクは、とてもいい思い出を持てました」


 何度も隠し事をして嘘をついたクローバーだけど、今の表情には一切の嘘は無さそうだ。

 もう隠す必要も嘘をつく必要もない。


 喜ばしいことだけど、だからこそ聞き捨てならない。


「バーカめ」

「え?」

「思い出で終わるなよ。本物の俺たちより思い出の方がいいって言うのか?」

「ヴァウ!」


 クローバーは賢くて知識もあるのに存外抜けてるところがあって、目の前のことを見落としたりする。


「あ……。そうですね、ええ。本当だ、今なら胸を張って王様だと言えます。ボクは恵まれた王様です」


 花のような笑顔を咲かせる。

 この笑顔をいつまでも見られるように守っていきたい。

 俺とゲッカはクローバーの最高の宝物となってクローバーを王たらしめた。


「そんじゃ、お前も宣告するか?」

「ご冗談。ボクはあんな恥ずかしい宣告ゴメンですよ」

「さっき宣告したばっかの俺の前でそゆこと言う!!?」


 俺の宣告が放送事故になった原因はクローバーにもあるからな!?


「えへへ、それも冗談です。だけど、王様よりもずっとずっと、なりたいものができたんです」

「なりたいもの?」

「ねぇ、ラグナさん。どうかボクをあなたの眷属にしてください。あなたにならボクの全てを捧げられる。ボクの知恵も破滅も心も、全部受け止めてください」


 以前眷属になれないと言っていたクローバーは今、自ら眷属になりたいと言い出した。

 俺の答えは、決まっている。

 

「俺は前から眷属にならないかって言っただろ。それに俺は受け止める王だ。来いクローバー!」」


 そう言うと胸の奥が熱くなって。

 ゲッカの時と同じくタブレットに通知が流れ込む。


【信頼の証を得ました。眷属の契約成功率が100%になります】

【キャスパリーグ・クローバーを眷属にしますか?】


 躊躇う理由なんてひとつもない。



 俺の胸の魔片が光り、同じようにクローバーの薄汚れた衣類からのぞく胸元が赤く輝いて魔片のような石が浮かび上がる。ゲッカの額に赤い宝石ができたのと同じだ。


 でも今露出がホラ、あれだからね。

 いくらぺたんこでも目のやり場に困る。そう思って視線をさりげなく目を反らしているのに。


挿絵(By みてみん)


「えへへ。お揃いですね!」


 このネコときたら見せつけてくる。

 もうちょっと貞淑にだな。

 いや好きでこんなボロ服着てるわけじゃないのは理解してるけど。


「たくさん知識をつけてきたけれど、知識だけではこの気持ちは一生分からなかったでしょうね」

「カッカ!経験に勝る知識なしとも言うからな」

「ヴァ!」



 こうして俺は2人目の眷属を迎え入れた。


 それにしても。

 惨劇の狼マーナガルム、破滅の怪猫キャスパリーグ、そんで災厄の化身である俺。

 これ漫画とかゲームだと絶対(ヴィラン)側の肩書きだよね。


 まぁ俺はこの目覚めた時から世界の敵だったし今更だな。

 どんな理由であっても人間や神が作ったルールを否定する俺たちはこの世界にとっては悪。

 穏やかに生きたいけどそれすら難しいなら反逆の1つ2つ必要になる。それなら俺たちは悪でいい。



 これは、世界の敵となった俺たちの始まりだ。

 この大陸のルールに縛られることなく俺たちは生きていく。


 今日までの出来事は俺たちの物語の序章に過ぎない。

 けれど後に振り返った時、きっと俺はこう思うんだろう。



 "俺たち3人の大切な始まりの話だった"と。

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