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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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43.アンデスの狂気

 やらかした。


 俺こと狭間の王の宣告は終わり、赤い月はもう俺の姿を映すことなく月特有の淡い模様をたたえている。



 今の放送事故、俺が今まで知り合った人たちもみんな見たんだろうなーーー。



 ……いや気を持ち直そう。

 もともとこのバカげた戦いに唾吐くつもりだった。

 大陸の支配権を賭けた戦争とやらを茶番にできるならそれもまたよしと自分に言い聞かせ……てるんだけどクローバーが俺以上にダメージ受けている。


「王の宣告って神聖なものなんですよ!?こんなバカな話あります!?」


 などと喚きながら俺に巻きついてる布をひたすら引っ張っている。バカとは失礼だな、でも元気そうで何より。

 人間たちは皆逃げたようで広場にはもうほとんど人は残っていない。

 たまにヴァナルガンドと応戦している兵士がいるけど相手にもなってないな。相手できるとしたらサウスくらいだけどいつの間にかいないし離脱したのかな?


『主ーーっ!!』

「ヴァナルガンドか!」


 処刑台の下からヴァナルガンドに呼ばれた。

 狼たちの背には亜人が3人。うち1人は金髪の女だ。


「みんな助けた死もうここには用はないな。風竜と戦ったトコで合流するぞ」

『了!』


 クローバーを担ぎ直す。とっととこんなとこオサラバしよう。

 その時、空から幾つもの黒い柱が降ってきた。


「きゃあ!」

「うお、なんだ!?」


 ゲッカのひと吠えで間一髪避けたものの、柱が落下した地点は地面が大きく抉れている。

 クローバーを抱えたままゲッカに飛び乗る。


「逃がさんぞ!貴様の命を以て罪を生産するのだ」

「……アンデス!?」


 クローバーが叫んだ先にいたのはさっきからちらちら目に入っていた黒服の男だ。アンデスといえばステラが気を付けろって言ってたヤツだな。


「ケダモノが私の名を呼ぶな!」

「こんなロクな持て成しもできねぇ街にこれ以上用はねーんだよ!」


 アンデスの体がふわりと浮遊する。なんだあれ、俺もやりてぇ!


「災厄の化身か、丁度いい。アレを試すいい機会だ」

「ヴァウ!!」


 アンデスは俺が災厄の化身と分かった上で戦うつもりらしい。勝算でもあるんだろうかと思っているとゲッカがアンデスの手元に向けて吠える。


「あ!魔片!?」


 アンデスの手元を見れば、両手10の指に赤く輝く指輪がついている。その赤は紛れもなく魔片だ。


「教会に信者捧げられた寄贈品だ。そこらの人間でも魔片が5つもあれば街を落とす程の力が得られることは知っているな?」


 魔片1つだけでも並みの魔物を群れの長にするほどの力を与える。

 そんなのが10個あればどれだけの力になるんだろう。

 

 地面から極太の光線が幾つも撃ち上がり、俺の『常在戦場』スキルがガンガンと警鈴を鳴らす。

 1つ1つが身を焼くほど膨大な熱量を孕んでいる光線だ。幸いなのはゲッカの速度が光線が発生して撃ちあがるよりも早いこと。ゲッカは回避しながら走り続ける。


「なっ……んだよアイツは!」

「黒の神官アンデスはこの街の神官で亜人奴隷化を推し進めている中心人物でもあって……亜人排他主義者です!」

「ハァ!?神官が奴隷だの排他主義だぁ?肩書き間違ってんじゃねーの!!?」


 普通神官ってもっとこう、敬虔な祈りがどうとかしない?

 そう言ってる間にも地面からは光線が撃ちあがり空からはアンデスが黒い柱を次々と打ち落としてくる。


「ちくしょう自分は安全圏から遠距離攻撃かよ!」


 風竜みたいなことしやがって。

 俺も遠距離攻撃か空中移動する手段が欲しい。


「いくら魔片があるといっても相手は1人です。こんな大技いつまでも連発できないからMPが枯渇すれば――、」

「私が考えなしに攻撃をしているとでも思うのかね」


 そう言うアンデスが取り出したのは――首。それも焼けただれたまま石灰で固められたかのような、苦渋に満ちた顔。

 燃え切っていない、けれども朽ちることも許されない。窪んで空洞になった目の奥が紫に輝きゾクリとする。


「この供物によりこの地には無尽蔵ともいえるエネルギーが巡っている。私はこの地でなら息切れとは無縁なのだ」

「供物だと?」

「キャスパリーグ共々、貴様らの命ならバ供物(くもつ)としては最上のものとなる!」


 なんか物騒なこと言ってんな。


「最上の供物?……まさか処刑した人たちを供物に?」


 クローバーの言葉に既視感を覚える。

 似たような話がつい最近あった。命を犠牲にしようとした奴がいた。


 "地 ジョ ウ の命 スベ テ を く べて  神 の セ カイ への ネ ンリ ョウ  に する"


 スルトは地上全ての生命を燃やして神々の世界へ行くと言っていた。生命を燃料にして。


「ラグナさん」


 クローバーが苦虫を潰したような顔で俺を見る。

 答えが出かかっているのに、靄がかかって答えに行き着けない俺の思考を後押しする言葉を紡いだ。


「処刑はカモフラージュで狙いは生贄……亜人たちの命をすり潰して街の霊脈に流している。魔片は制御と威力の底上げに使用しているに過ぎません。殺された亜人の命を魔術の燃料にしてるんです」

「ほう、察しが良いな。だが少し違う」


 アンデスが黒い双眸を向けた。

 多くの亜人たちの命を踏みにじった顔は狂気に歪む。


「カモフラージュではない。苛烈な処刑をすれば必ず仲間を救おうと愚かなケダモノが現れる。そのケダモノ達をも殺す、いわば永久機関に必要な装置だ」



 苛烈な処刑は民衆の期待に応えるためと思わせながら、より多くの亜人を呼び込むためのもの。実際白い服の襲撃者も仲間を助けるために来た。

 呼び込んだ亜人を逃がさないための過剰戦力。

 悪辣さに吐き気に近い気持ち悪さを感じるが俺の思考はクリアだった。


 処刑され燃料になった命の効果はこの街限り。

 街から逃げればアンデスは追ってこれないだろう。だけどこの街はこの醜悪な装置を使いこれからも命を奪い続ける。


「2人とも悪い。野暮用できた」

「ヴァッ!」


 アンデスをこのままにはしておけない。

 ゲッカが攻撃を避けながらも身体を反転させ、アンデスに向かって走る。


「おいアンデス!なんでそこまでする!?」

「決まっている。神がこの世界に存在を赦しているのは我ら人間のみ。我々以外の生き物をどうしようが自由だろう」


 根本的に話通じねぇな。


「この街の全ての人間ならざる者を始末し、やがてこの力を大陸全土に適応していく。神の意にそぐわぬもの全てが死に絶える日が必ずや訪れる!」

「妄言は飽きた!必死に生きてる亜人(俺たち)の邪魔すんな!」

「亜人などこの世界の塵芥に過ぎぬ!」


 この世界は隣人の存在を認めない、何度も思い知らされてきたことだ。


「神が人間のみの存在を赦すなど人間によって都合よく解釈された戯言です。あなた達人間も、あなた達が嫌う魔族も大昔に等しく廃棄されました。他ならぬ神によって」

「そうだ、穢れた魔の者達によって我々まで捨てられた!」


 人間と魔族はもとは1つの種族だった。そして人間と魔族の間から狭間の者と呼ばれる亜人が生まれた。


「全ての魔族の血でこの大陸を洗い流し、全ての亜人の血肉をすり潰して大陸の糧とする。そうしてようやく彼方の神々を呼び戻せるのだ。それこそが我らが悲願!」

「いつまで神に縋ってんだよ!いい加減独り立ちしろや!」

「ほざけ魔人!我々が地上を導くのだ。亜人の命の使い方は研究されている。ケダモノの効率的な使い方をな!」



 狂信的な目は嘘を言っているようには見えない、それがアンデスの本心なのだろう。

 俺たちは相容れない。全ての隣人と仲良くするには、神サマが作ったルールが根付いてから時間が経ち過ぎた。

 


「タブレット!天属性にスキルを振る!」

「――え、天属性って……」


 クローバーが制止しかけて、やめた。俺の意図を汲んだらしい。


「ゲッカ、先に広場の中央へ行ってくれ!――ここは俺が潰す!」

「ヴァウゥ!」



 この地に縛られすり潰された命の魂のために破壊しかできない俺にできることは、この忌まわしい場所を消し去ることくらいだ。

 残りのスキルポイント2つをつぎ込む。


【天属性のLVが2になりました。消費MPが減ります】【伏ろわぬ神の雨 MP345→MP311】

【NEXT:消費MPが減ります】


【天属性のLVが3になりました。消費MPが減ります】【伏ろわぬ神の雨 MP311→MP276】

【NEXT:威力が上がります】


 使用MPは276。ギリギリ撃てる!



「この地の底まで降り注いで全部砕け!!災厄魔法(ディザスタースペル)、"伏ろわぬ神の雨(アマツミカボシ)"」


 アンデスの悲鳴じみた叫びが聞こえるがもはや俺の耳には届かない。

 金色(こんじき)の流星、魔人の象徴とされる凶星が広場に降り注ぐ。処刑台も収容所も処刑器具も、多くの血が流れたこの広場にも。金の星が降り続けた。


 鎮まらない魂たちが少しでも安らぐことを祈って。




「全部、砕けましたね」


 広場は地下深くまで地盤が砕かれ周辺の建物も瓦礫の山となった。

 ここが広場だったと言われても信じない程度にはボコボコだ。


「――、ヴァグッ!!」

「だっ……!?」


 その時地の底から黒い柱がゲッカを打ち付けた。

 完全な不意打ちにゲッカが体をよろめき、バランスを崩したゲッカから俺とクローバーが落下する。


「ニャ!」

「なんだぁ!?」


 血の底から這いあがってきたのはアンデスだった。

 残った力で流星から身を守り直撃だけは免れたらしいが出血し肩で息をしている。


「まだ生きてんのか!」

「クク……今の私ではまだ届かないか」


 倒すなら今しかない。それなのに蛇のような笑い顔に嫌な予感がする。


「この地は霊脈ごと潰した!もうさっきみたいに戦えないだろ」

「そのようだ。だがまだ私は力を蓄え続ける。亜人を使うのがこの街だけだと思ったか」

「!?」

「私の息のかかった者が大陸中に暗躍しているのだ。より効率的な使い方を模索しながらな」


 こんなバカな考えしてる奴が他にもいるのかよ!


この大陸(アバンドナル)は激動の時代を迎える!魔族が死に絶え、全ての亜人が人間に使われる時代が来る!」

「妄想はあの世で語ってろクソッタレ!!」

「この魔片と我が同士がいる限り何度でもやり直せる。魔人よ、貴様を殺すのは難しい。だが貴様のペットや、他の亜人共はどうかな?」

「はぁ!?」


 アンデスは蛇のような目を細めて二ィと嗤い指輪を光らせ宙へ浮いた。

 俺たちの攻撃の届かない所へ。


「あんッ……のヤロ!!逃げる気か!!」

「今回は引いてやろう。だが忘れるな魔人よ。これから毎日大陸のどこかで亜人共を捕え、皮ウロコを剥ぎ、生きたままくべてやろう。貴様らケダモノ共の断末魔を女神降臨の目覚めの唄とする」

「てめぇ!降りてこいアンデスッ!!」


 逃げ切る自信があるのだろう。

 アンデスは宙で高笑いしながらも、ふざけた願望を垂れ流す。


「クハハ!その顔を見るだけで溜飲が下がるというものだ!ケダモノの王よ、悔しければ止めて見ろ!大陸中のケダモノを守ってみろ、できるものならな!!」

「――ヴァ!!」


 ゲッカの炎がバリアのようなもので防がれる。。

 アンデスは10の魔片を俺に見せつけながら空高くへ上昇していく。ダメだ、今倒さないと、また多くの亜人が傷つくことになる。

 攻撃が届けば一撃で終わらせられる、なのに攻撃が届かない。


「クハハハハハ……ハッ!?」

「あ!?」


 宙に浮くアンデスの動きが止まった。

 まるで何かに足が引っかかってるような、引っ張られているみたいな動きだ。

 宙に引っかかるものなんてあるはずが……。


「お前だけは、逃がさない!!」


 クローバーの低い声。両手を合わせているのはよく見る収納魔法を展開する時の格好。

 同時に何が起きたか理解した。


 ジッパーはクローバーの視界の範囲なら好きな空間に顕現させられる。

 宙に現れた収納魔法のジッパーがアンデスの足を挟みこんでいた。


挿絵(By みてみん)


「ナイス!!!クローバー!!!!」


 心と腹の底から感嘆の声をあげる。

 ジッパーが足を捕らえる限りアンデスは逃げられない。


「おのれッ……!おのれ、放せケダモノが!!」

「きゃあ!」

「させるかよ!!」


 アンデスの放つ爆炎の蛇がクローバーに襲い掛かる。


 クローバーが爆発に呑み込まれるその前にクローバーを腕の中に抱えるとクローバーは腕に縋りつくように抱きついてきた。

 爆撃が俺の肩を焼き、ちりつく痛みを覚える。

 けれどもクローバーや今まで殺されてきた亜人達の痛みはこんなものじゃないはずだ。


「ゲッカ、頼むぜ!」

「ヴァウ!!」


 ゲッカの闇魔術で実体を持たない影が空中階段に変化した。

 爆炎をかきわけながら階段を駆け上がり、アンデスに迫る。


「バカな……!!」

「言っただろうが!俺とのケンカは高くつくってな!!」


 苦し紛れの攻撃が飛んでくるが、焦りの攻撃の威力などたかが知れている。

 ジッパーは未だアンデスの脚を挟んで離さない。チェックメイトだ。


「やめっ……やめろ!!私は!私は神に選ばれた者だぞ!神の使徒に手をかければ、貴様はあらゆる命から呪われ――」

「お生憎サマ、こちとら既に神を殺してるんだよ。なんせ災厄なんでな!!」


「ラグナアアアアァァァアァア!!」




 体が消し飛び、憤怒と絶望の表情を貼り付けたアンデスの頭が手足と一緒に自由落下した。

 その様子はまるで。


「まるで断頭台で首でも落とされたみたいですね」


 ジッパーを消したクローバーがころりと笑う。


「奇遇だな、俺も同じこと考えてたとこだ!」

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