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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
91/163

40.少女の宝物

 ◆


 宝物を探していた。

 この世界に存在するかも分からない輝かしいものを。


 クローバーは空を見上げた。

 これから向かう場所には不釣り合なほどによく晴れた空だった。

 あの人と初めて会った日も、こんな空ではなかったか。


 きれいな景色だ。



 クローバーは思い出を振り返る。


 出会った日、荷物を盗んで追いかけられて、その後は当たり前のように肉を焼いて分けてくれた。

 蔦に襲われた時は身を挺して守ってくれた。

 ノームとリザードマンの共同作業をした帰り、さりげなく自分の歩幅に合わせて歩いてくれた。

 月が綺麗な夜に亜人の理想郷を作ろうと誘ってくれた。

 商人達に素材を売り込む前は頭を突き合わせて打ち合わせをした。

 王狼が向かった裂け目へ行くために頭を下げられた時、生まれて初めて無理してでもどうにかしてあげたいと思った。

 大きくてごつごつした手に似つかわしくない優しい手つきで頭を撫でてくれた。


 全部、覚えている。


 知識だけの自分に、いろいろなものを教えてくれた。

 あの人はきっと自分で思っている以上にいろいろな物を他人にあげている。



 王とは何か。

 何度も自分に問い続けてきた。


 王とは誰もが羨む、誰も持っていないものを持っている人だ。

 武力かもしれない。権力やカリスマ性かもしれない。優秀な部下かもしれない。


 それなら自分には何があるだろうかと思ったけれど何もなかった。

 何か持ち合わせてみようと知識を集めてみても、王を名乗れるとは到底思えなくて。


 けれども今なら言える。

 思い出がある。



 神々がこの大陸に降り立った黎明期以来この地上には数えきれない程の王が現れたけれど、どんな王だって持っていないような鮮やかな思い出。輝かしい景色。

 全部、大切なものだ。



 収納魔法の中の荷物は全部置いてきてしまった。

 置いてきた物の中にはあの人が使うには小さすぎるものもあるけれど、あの人がこれから作る居場所では必要になることもあるだろう。

 あの人のもとにはきっと多くの亜人が集まるから、人が集まれば自分の知識がなくてもきっとやっていける。


 だから自分にはもう何もないけれど。

 思い出だけは全部もっていこう。



 これは誰に奪われることもない、自分だけの宝物なのだから。




 ◆


「文字通り、万死に値する所業である!破滅の怪猫、呪われし"キャスパリーグ"の処刑を行う!」



 無慈悲な宣告が告げられてなお、処刑人の言葉がクローバーの心を動かすことはなかった。

 今はただ、懐かしい気持ちに浸っていたかった。

 処刑を目前にしてクローバーの心は凪いでいる。



 ひとつだけ心残りがあるとすれば、あの人の宣告を聞けなかったことだろうか。

 ずっと暗い部屋にいたから宣告はもう終わったのかもしれない。

 それともまだで、これから宣告をするのだろうか。


 そうだとしたら、今してくれたら嬉しいな。

 とはいってももう時間はほとんど残されていない。


 赤い月が輝く中、戦いから降りた猫の王は断頭台へ歩みを進める。


挿絵(By みてみん)


 分厚くて重い手枷が外された。

 数日間つけていたせいで手首は腫れている。

 左右から押さえつけられ、首を固定される直前、クローバーはこれから自分の命を奪う大きな刃を見た。


 刃の重さは人間一人分の重さがあれば十分だけど、頑強な亜人を処刑することも多いこの街の断頭台は特別で数倍の重さにしているそうだ。

 苦しむことなく一瞬で意識を刈り取ってくれるだろう。


 高い処刑台から見下ろせば、多くの人間の視線が自分に集まってる。




「烙印を」


 黒服の神官アンデスが処刑人に指示を出す。

 神官の顔はクローバーにも見覚えがあった。

 処刑の時、傍にはいつもこの人がいた。この地に住むネコの目を通して何度も見て来た。


 烙印は罪人や奴隷であることを示すもの。

 これから死にゆく者につけて何の意味があるのだろうと思う。


「一度つけたら最後、どんな薬でも癒しの術でも永久に癒えないまじないが込められた烙印だ。よく見るといい」


 思い出に浸って心は夢見心地だったのに、下卑た処刑人の笑いがクローバーを現実に引き戻す。


 烙印は腕の良い治癒術師にかかればきれいに消えるが呪いが込められた烙印は永劫癒すことはできない。

 この烙印をつけることが処刑の儀式的な意味合いを持っているのは理解しているけれど教会が呪いを使うとは笑えてしまった。


 きっと、熱くて痛い。

 元よりまともな死に方など期待していない。


 ぼろ布のように汚らしく殺されると頭では理解していたし、覚悟もしてきたけれど。

 やはり目の前に熱く燃えた鉄が付きつけられれば恐怖がやってきた。



「さて、どこにつけたものか」

「目だ」


 アンデスはまるで、昼食を決めるかのような気軽さで言い放った。


「片目だけにしろ。両目を焼けば民衆たちの蔑む顔も、嗤う顔も見れないからな」

「へぇ、了解です」


「……ッ!」


 首を固定された上で、処刑人たちに前髪を引っ張られる。

 両腕が拘束されている以上、少しも抵抗はできなかった。


「……はっ、はぁ、はっ……」




 覚悟していた。

 ロクな死に方はできないと。


 大勢の前で嘲笑され、嬲られて死ぬ。


「ウ!……ウゥッ!!」

「そら、もっと鳴いて見せろ、愚鈍種」


 左目を開かせられ、目を閉じることすら許されない。


 赤々と熱された黒鉄が眼前に迫る。

 その色を見て、ラグナさんの魔片みたいだなと場違いなことを考えた。



「さぁ、生まれてきた罪を清算する時だ」

 おまけ

 クローバーのステータス(改竄なしver.)

-----------

 名前:クローバー

 種族:キャスパリーグ★

 LV:41

 HP:162/162

 MP:1043/1043★

 速度:194

 所持スキル:

『破滅の怪猫★』『猫の王★』『改竄』

『亜空間S』『収納魔法』『召喚魔法★』

『博識A』『並行処理C』

-----------

 ★が改竄してる箇所。


【『破滅の怪猫』自分・周りに災禍を招く】

【『猫の王』猫の王の証。王の宣告を行える。全てのネコを支配し、出会った猫とどこにいても意思疎通ができる】


 一言で言えば生まれた時点で人生詰んでるステータスとスキル。

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