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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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39.処刑場への道

「行くぞ!」

「ヴァ!!」


 ゲッカに乗りこむとユーリスが駆け寄ってきた。


「インクナブラの門をくぐれば大通りになっている。そこをまっすぐ行けば処刑所の大広場だ。亜人たちは処刑台東の建物に一時収容されているはずだ!」

「助かる、ありがとう!」


 まっすぐ走り抜ければ広場、そこにクローバーいなかったら東側を探せばいいわけだな。


「ヴァウ?」

「ん、どうした?」


 走り出してすぐにゲッカが怪訝な表情をこちらに向けた。

 後ろに何かある?と振り返ればさっき勇者に倒された襲撃者の1人がゲッカの大きな尾にしがみついている。


「げ、なんだお前!降りろよ!」

「ま、待ってくれ、さっきの話を聞いたんだ!あんた仲間を助けに処刑場へ行くんだろ!?」

「だったら何だよ」


挿絵(By みてみん)


 腰から魚のような尾が生えた襲撃者は白フードの服を着ているから顔は見えないものの必死そうな声だ。

 でもジャマするなら振り落とすのもやむなしだぞ。


「頼む、我々の巫女を助けてくれないか!」

「厄介事はうちのネコだけで間に合ってんだけど!?」


 いやそりゃクローバーだけ助けて他の奴らを見殺しってのも夢見が悪いけど。


「見かけたら考えてやる、約束はできねぇ!捕まってるヤツの名前は?」

「金髪に長い耳の女性だ。名はメルムだ。どうか頼む!」

「分かった。ホラもうすぐ街だ。足手まといだからさっさと仲間連れて逃げろ」

「た、頼んだぞ!」


 ゲッカが一瞬速度を緩めれば亜人の男はゲッカの尾から手を離した。

 勇者含めて人間たちはユーリスとステラ以外気絶してるし、ユーリスなら見逃してくれると思うから他の勇者が目を覚ます前に逃げるんだぞ。



 インクナブラにはすぐに到着した。

 補給地点は簡素が木の門が配置されていただけだがさすがに大都市ともなると立派な門が建造されている。入口は鉄の扉で固く閉ざされており、必要な時だけ門番が開けるスタイルだ。


「そこで止まれ、なんだ貴様は!」

「突き破れゲッカ!」

「ヴァウゥ!!」


 ゲッカが黒炎を放てば分厚い鉄の門を蝋のように溶け出して大きな穴を空けた。


「馬鹿な!!鋼鉄の扉だぞ!?」


 立ちはだかる門番たちを薙ぎ払いながらゲッカが開けた大穴に飛び込む。

 インクナブラに侵入成功だ。


「し、侵入者だ!!侵入者が門を突破したぞ!!!!」



 門番の声は遥か後ろだが、声と同時に信号弾が打ちあがる。

 できれば静かに侵入して、怪盗のように鮮やかにお姫様もといウチのネコを盗み出したいところだったけれど結局こうなるんだよな。

 こうなったらとことん突っ切るしかない。


 宗教都市というだけあって、砂漠の街ながら道も建物も整備されているし、街のあちこちに厳かな彫刻が飾られていた。

 高い建物に大きな天文時計が飾られている。9時40分。正午に行われる処刑は2時間前倒しと言っていたから処刑まであと20分か。

 処刑があるからか、歩く人の姿はほとんど見当たらない。走りやすくて好都合だな。


 大通りを走ると街の至る所から低い声が聞こえてきた。



『それではこれより処刑を開始する!罪人を広場へ連れてこい』


「え?わーーー!待て待て待て!」


 いやまだ早いだろ、あと20分あるはずだ。

 声は街の至る所に配置されたスピーカーのようなもので街中に拡散されているようだ。

 子供とか心臓の弱い人もいるだろうに亜人の処刑をそこまでして知らせたいのかよこの街。


『――これより最初の罪人の罪状を読み上げる』



 罪状読み上げ!?できるだけ長くお願いしますね!長ったらしく!ゆっくりでいいぞ!校長先生の朝礼の挨拶レベルで!倒れる人が出るくらいの長さで!!!

 そして急いでるっていうのに道の先にガラの悪い武装した男たちが通せんぼしている。雇われたという冒険者だろうか。


「止まれ!こっからは先は通行止め――」

「道の真ん中にたむろってんじゃねーよ!」


 ゲッカで轢いておしまいだ。

 けれどもスピーカーから処刑を告げる声はまだ続く。



『最初の罪人の名はクローバー』


「ヴァウ!?」

「ギャーーー!!よりによって最初かよ!」



 いやでもクローバーってやらかし案件多かったはずだ。ねっとりゆっくり全部言いあげてくれ。詳細に説明していいぞ。俺が到着するまで時間かけて!


「まさか本当に侵入するバカが現れるとはな!てめぇを倒して報酬――」

「お前らと違って俺は暇じゃねぇんだよバァカ!」


 なんか足止めする人間たちがいるけど邪魔オブ邪魔。

 ゲッカが頭を踏みつければ沈黙する。


 いくらゲッカの足が速いと言っても広場まで地味に遠い。大きな街はこれだから!



「奴隷共ォ!肉壁となって不届きものを止めろ!」


 鎧を着込んだ指揮官とみられる男が声高々に指示を出す。

 何十人もの武器を持った亜人たちが現れた。

 亜人達の目は焦点があってない。正気ではないことが一目で分かる。


「どいつもこいつも!」


 この忙しい時に次から次へと!


 苛立ちが募る間にもクローバーの罪状が読み上げられていく。



『――教会の秘宝である"導きの笛"を盗み、半年間逃亡した』


 悪い事をしたんだろう。

 それでも、もしこの世界がもう少しだけクローバーに優しかったらと思わずにはいられない。


『そして、タブースキル【改竄】を持っている。罪なき民を恐怖と混乱に陥れる悪魔のスキルである』


 腹立つのはこれだよ。タブースキルを持って生まれたクローバーは生まれることすら許されなかったとでも言わんばかり。


『さらに、自身のステータスを改竄。身分をケットシーと偽った』

「えっ」


 目の前に奴隷の亜人達が迫ってきてるのに思考が一瞬停止した。

 いや、あいつ自分でケットシーって名乗ってなかったっけ。

 解析でも『種族:ケットシー』って出てたはず。

 いや改竄があったから偽るのはできるだろうけど種族名偽る理由なんてある?


「亜人共!死にたくないなら前に出ろ!あの狼を押し返せ!!」

「アホが、命大切にしろや!」


 正気の色が見られない亜人達はどうやら操られてるみたいだ。

 亜人の奴隷化を進めてるとか聞いたけどこういう使い方ある?

 押し寄せる亜人たちを、ゲッカは大きく跳ねて飛び越えた。


「くそ!役立たず共が……ぁ、うガブァ!?」


 壁をむしりとって目障りな司令官に投げつければ汚い音を出して沈黙した。

 こういう時はヘッドを黙らせるに限るな。


「くそ、ケットシーがどうとかどうでもいい!!急げゲッカ!クローバーが殺されちまう!」

「ヴァウウゥウゥ!!」


 ゲッカの速度が上がる。

 くそ、広場はまだか!なんでこんな無駄に広いんだよインクナブラ!



『――以上。文字通り、万死に値する所業である!これより破滅の怪猫(かいびょう)、呪われし"キャスパリーグ"の処刑を行う!』




「破滅の怪猫?呪われしキャスパリーグ?」

「ヴァウゥ……?」


 また初めて聞く物騒な単語が出てきたんだけど、ホントどうなってんだよアイツ!

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