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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
1章 災厄の目覚め
9/163

8.凶星が落ちた日

 ◆


 その日、大陸中に激震が走った。


 かつて地上にあらゆる戦いと災いをもたらしたと言われる魔人がいた。

 魔人が現れたその日、空から黄金の流星が降り注ぎ、黄金の星は災いの凶兆と恐れられるようになった。



 その日、空を見上げることができる者は見た。

 空を見ることのできない者は聞いた。


 彼方に凶兆とされる黄金の星が落ちたその光と音を。

 星は魔人が封印された"封印の墓標"の方角へ落ちた。


 地の果てより訪れる終末の光。遅れて音が雷鳴のように鳴り響く。

 この日この時、各地で魔物達が一斉に暴れ出した。




「魔人が復活する!世は再び混沌に塗りつぶされる!災いの化身が、終末の王が世に放たれたのだ!!」


「暴動を押さえろ!くそっ、なんたってこんなことに!」


「もう終わりだ!終わりだ!全て呑まれる!!我々は魔人に食われるんだ!」


「たとえ魔人が相手であろうとも我らはこの国を守る。我らは国の盾。民の守護者。子らを次へ繋ぐ者である!」


「魔人の復活ね。こんな時にこそ商機は見逃せないわ」


「魔人を倒した奴は神の力を手に入れ、新たな世界の王になれるって噂だぜ」


「こんな世界、いっそ魔人に壊された方がいいんじゃねぇか?」


「太古の神よ、奴隷達の血を捧げる。どうか魔人を討ち滅ぼし、我らを守り給え!」


「その魔人って奴はそんなに強いのか?腕が鳴るなァ」


「魔人は天災そのものだ。のさばらせておくわけにはいくまい」


「世界中のS級冒険者を集めれば倒せるかもしれん。見返りは大きい。何せ世界を作り変える力が手に入ると言われている」

 

「バカバカしい。魔人が復活などするものか。ただの偶然だろうよ」


「魔人を懐柔する手段はあるか?かの力があれば我らに仇なす者を根絶やしにすることも出来るやもしれぬ」


「この村にだけは来るなよ。魔人だかなんだか知らないが、巻き込まないでくれ。俺には妻と娘がいるんだ」


「いいかい、みんな夜に外に出てはいけないよ。魔人にさらわれてしまう」


 ある者は恐れ、ある者は機に目を光らせ、ある者は使命に燃えた。

 この日の混乱は後に『凶星が落ちた日』と呼ばれることとなる。




 ◆封印の墓標より南の渓谷



「……なんだったんだ、さっきの光は」

「空から降る金色の光か。まるで伝説の魔人の逸話みたいだったな」

「バカ言ってんじゃねえ、魔人はとっくに死んだだろが!クソッ、あの光が降らなけりゃ獲物を見失わずに済んだってのに……」


 大柄な男が仲間の背を強めに叩けばぐぇ、とくぐもった声が洩れる。

 男は構わず他の仲間に声をかける。


「おい、そっちはどうだ?」

「駄目だ、こんな夜道じゃ痕跡があったかも分からねぇ。どうするガソッド」


 5人の男が渓谷で何かを探していた。

 空はとうに夜の(とばり)が降りて物を探すには不向きなのは誰の目にも明らかだ。


 ガソッドと呼ばれた男は葉巻を咥え直して頭を掻きむしる。


「今日はこれ以上探しても意味ないな。クッソ、ケダモノ如きが手こずらせやがって。捕まえたら街に連れてく前に犯し潰してやる。生きてりゃ賞金は出るだろうしな」

「おいおいガソッド、お前あんな動物くせぇ女が好みなのか?」

「ゲテモノは珍味って言うしな、味見くらい試してみてもいいだろ」

「ははっ、ガソッドみてーなモノ好きがいるからケダモノにも辛うじて存在意義があるんだろうよ」


 品の無い会話は彼らの苛立ちを少しだけ慰めた。

 昨日の今日で遠くへは行けないはずだ。この渓谷に逃げたのは間違いないとガソッドは葉巻を(くゆ)らせながら思案する。


 彼らの探し物は追われ続けて食料も尽きている上に戦闘力は皆無だ。

 放っておけば逃げる力も失うはず。そこを見つければいい。


 ガソッドは獲物を捕らえられなかったことに苛立ちこそ覚えたものの冒険者としての知識はそれなりに持ち合わせており、その判断力と実力があるからこそ仲間が付いて来ている。


「人間は壊すと面倒だが好きなだけ遊べるのがケダモノの良い所だ。なんせヤツらは壊してもお咎めナシだからな」

「やっぱり好みなんじゃねーか」

「あーあー。あのケダモノを突きだせばあの"瑠璃星"だって抱ける金が入るってのに、目の前のケダモノに意識持ってかれすぎじゃねぇのか?」

「なんだよ。捕まえたらお前にも使わせてやろうと思ったのにいらねぇのか?どうせ溜まってんだろ」

「いやそれは使うけどな」


 ハハッと誰からともなく笑い出す。

 これからの稼ぎに想いを馳せれば酒が飲みたくなるが今は切らしていた。


 あの獲物を捕らえれば浴びる程飲めるしいくらでも良い装備を用意できる。

 魔片を手に入れることもできるかもしれない。


 そうすればオレたちはもっと上へいける。

 ガソッドは己の腕に埋まり赤々と輝く魔片を見てニタリと笑う。


 その表情はたき火に照らされ濃い影を落とす。




 ◆封印の墓標にて。ラグナ視点



 迷宮を無事に突破した俺とゲッカは迷宮の傍で最後の一晩を過ごし夜明けと共に出発した。


伏ろわぬ神の雨(アマツミカボシ)も封印した方がいいよなー」

「ヴァウ」


 俺は覚えたばかりの金の星を降らせる魔法を思い出しながら呟く。

 金色に光るでっかい隕石を落とした、それもたくさん。


 かつて地球で恐竜が絶滅したのは巨大な隕石が落ちたせいと言われている。

 落下の衝撃は想像を絶する程で、砂煙を吹き上げて太陽を遮り、地球を冷え切った星に変えたとかなんとか。そんなヤバいやつ。


 火の海と隕石の魔法、被害的にはどっちがマシかなぁ。

 いずれにせよ使わないに越したことは無いな。



 そんなことを考えながら、俺たちは渓谷の道を歩いていた。

 迷宮を出たらそこは渓谷で一本道がどこまでも続いている。

 切り立った山のせいで俺が歩む道がどこへ繋がっているかは分からないけれど、道ならばどこかに辿り着くだろう。


「ヴァーウッ!」


 足もとのゲッカが機嫌良さそうに吠える。

 風がたてがみや尾をふさっと揺らしていて気持ちよさそう。


 そう、風だよ。

 ここは渓谷、つまり山々の間の風の通り道。

 ビルの隙間風みたいなやつで時折突風が吹く。


 ここで1つ重要な問題発生。


 俺の格好は裸の上半身に申し訳程度の包帯が巻かれている。

 そんで下半身は太腿までの腰布と頑丈なブーツ。以上。


 半裸な上に穿いてないこの格好どう思います?

 少なくとも日本だと通報待ったなし。


 さらにね、腰布がね。

 この渓谷の強風でめっちゃ風に煽られるから絶対ハタから見たら丸見えなんですわ。

 ついでに風で中身も結構揺れる。

 変なクセできそうなのでどうにかしたい。


「下着だ。よし、まず下着を手に入れるのが当面の目標だ!」


挿絵(By みてみん)


 パンツの形式は問いません。

 ブリーフでもトランクスでもボクサータイプでも間違いなく今よりマシと言えるので。

 そんなことを考えていたら一段と強い風が吹いたので腰布を押さえる羽目になった。


「……人里に出たら下着を手に入れようなゲッカ」

「ヴァフ!ウルルル……」

「ん?どうした」


 突然ゲッカが唸りはじめる。

 ゲッカが顔を向ける先を見れば少し離れたところに動く影。


 あれは……。



「人間か!?」


 間違いない、この世界で初めての人間だ!

 ゲッカが見つけた5人の男達は何かを探してるようだった。


 男達はすぐにこちらに気付き、こっちに歩いて来る。

 記念すべきファーストコンタクトだ、失礼のないようしよう!


 と思ったら。

 5人組のリーダーっぽい男がこちらを見て嫌そうな顔と舌打ちコンボをキメて俺の心は一気に消沈した。そんな失礼なことある?


「ようやく見つけたと思ったら男かよ」

「ガソッドさん、例の女を見てるかもしれません。聞いてみればどうすか?」


 ガソッドと呼ばれた男に媚びるように痩せぎすの男が提案する。


「そうだな。オイお前、ここらでケダモノの女を見なかったか?」

「ケダモノ?えーと……メスの魔物か?」


 今日はまだ魔物は見てないな、と思ったら色々違っていたようで。


「いちいち説明させるんじゃねぇ、獣の耳が生えた女だよ!」



 ……確かに人に会いたいと思ったけどこういうのが来ちゃったかーー。

 超絶関わりたくないし、これは適当に対応してとっととオサラバしよう。


「今日は人も魔物も見てないな」


 ガソッドは俺を()めるけど知らないものは知らない。

 少しして取り巻きの男がガソッドの袖を引いた。


「さすがにこっちまでは来れないんじゃないっすか?この先には魔物が出る遺跡しか無いっす」

「……そうだな、引き返すか。だがその前にこっちの収穫もしないとな?」



 ガソッド達はニヤついた視線を俺に向けてくる。

 なんかすごい嫌な予感してきた。


「おいダーリ、あいつのLVは?」


 ガソッドが顎をしゃくればダーリと呼ばれた取り巻きの男がレンズのついた白い装置のようなものを俺に向ける。


「たったの4っす。見掛け倒しってあいつのためにある言葉っすねぇ。犬の方は37ありますが子供だしステータスは低そうっす」

「LV4!LV4って生きてて恥ずかしくないのかぁ?そこらのガキでももっと高いだろ」

「ガソッドは41だしなァ」


 会話からしてあのレンズはタブレットと同じ解析アイテムかな?

 LV4でLV50を倒す俺みたいのもいるからLVで判断は危険だぞ、とは黙っておく。


「へっ魔片持ちの雑魚とかとことんついてるぜ」


 大剣を肩に担いだガソッドがニタァと音がつきそうな程に歪んだ笑みを見せる。

 ガソッドが剣を掲げたかと思えば振り下ろし――その時、剣先から黄色い閃光が見えたかと思えば衝撃波を受けた。


 さらに痛みを感じた次の瞬間、衝撃がそのまま爆発する。





 砂埃が舞い上がり、ガソッドの満足げな声が聞こえて来た。



「いっちょあがりっ……てな!」

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