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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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37.天敵

「襲撃だ!!」

「亜人が来たぞ!」


 突然の大声で目が覚めた。

 馬車に乗っていた乗客や御者の悲鳴が響き渡る。



 え?襲撃?亜人?



「「「大人しくしろ!命まではとらない!」」」

「「殺すなよ、大事な人質だ!」」


 数人の男達の怒鳴り声、そして混乱して逃げ惑う人間の声が聞こえる。

 亜人の襲撃者はあっという間に乗客たちを無力化したようだ。

 襲撃者たちが2、3人でまったく同じ発言をしているのが気になるな。息ピッタリかよ。


 人間を人質にするということは人間相手に交渉しようとしてるんだろうか。

 酒場のオッサンが処刑する亜人を助けようと仲間が襲撃に来ることがあると言っていた。

 クローバー以外にも3人処刑されるらしいからその中の誰かの仲間かな。


 空はもう明るいけど陽の角度からまだ昼ではないだろう。

 処刑までまだ時間があるとはいえ予定ならそろそろインクナブラ入りしてるはずだ。

 今外に出れば俺がいることがバレるし、かと言ってこのまま影に潜めば街の侵入が遅れる。

 どうしたものかと思案していると、状況はすぐに変わった。



「"煌星(ギャラクシー)一閃(スラッシュ)"!!」


 凛とした声と同時に派手な破裂音が鳴り響き、襲撃者たちが悲鳴をあげた。


「「な、なんだっ何が起こった!?」」

「「「後ろだ!」」」


 俺は、この技を知っている!



「そこまでにしてもらおう。怪我人は増やしたくないのでね」

「あなたは、勇者ユーリス!!」


 ユーリスだ!

 気高く声を張り上げ弱者を守るありようは以前会った時と変わっていない。

 元気そうで何よりだけど今日だけは会いたくなかったよ!


「司祭ステラ様まで……!来て下さったのですね!」

「あなた方は私が守ります。ユーリス、お願い!」

「こっちは任せろステラ!」


 ステラという司祭とユーリスが一緒に行動してるようだ。

 突如現れた勇者の参上に襲われた人間たちの感激の声が上がる。



「亜人たちよ、去るならば追わない。だがそれ以上こちらに近寄れば敵とみなす」


 ユーリスの忠告に亜人達も躊躇いを見せた。


「「クソ……」」

「「「どうする?」」」

「「勇者相手は荷が勝ちすぎている。一度引いた方がいいんじゃないか?」」

「「止むを得ないか」」


 襲撃者が悔しそうに歯噛みするもののユーリスの言う通り逃げることにしたようだ。

 しかしそれは叶わなかった。


「オレサマから逃げられると思うなよ亜人共!!"双頭炎月斬"!」

「「なに!?」」


「「ぎゃっ、うわあぁぁぁ!!」」


 若い男の声と共に襲撃者の悲鳴が響き渡る。


「おいユーリス。劣等種共をみすみす見逃すとはどういう了見だ?言い訳なら聞くぜ?」

「……ベクト、サンブラ!」


 ベクトとサンブラ、宿屋の店主が言っていたインクナブラに来ている勇者の名前だ。

 インクナブラに集う勇者が全員集まっている。

 ……俺、どのタイミングで出ればいいかな?勇者の前で出て行くのは避けたいんだけど。


「無能なユーリスの代わりにこのベクト様が劣等種を仕留めてやったんだ。感謝してもいいんだぜ。そうだな、感謝の証にお前の後ろの女でも……」

「ステラにさわれば貴殿を敵とみなすぞ」


挿絵(By みてみん)


 軽薄なベクトの言葉にユーリスが静かに闘気を漲らせる。

 蚊帳の外の行商人もベクトにやられた襲撃者たちも、勇者同士の険悪な雰囲気に声も出せないようだ。


「2人とも喧嘩なら仕事が終わってからにしてくださいよ。ぼくのいないところで」


 関わりたくないと言わんばかりの3人目の勇者サンブラの声で一触即発の空気は一旦は収まった。


「しゃーねぇな。とりあえずこのボケ共を街に連れてくか。いやはや処刑の日に騒ぎを起こすなんてまさに飛んで火に入るなんとやら。オイお前ら、劣等種を運ぶから手伝え!」

「は、はぃ!」



 ベクトに怒鳴られ乗客たちが慌てて起き上がる。

 勇者にしてはやけにチンピラっぽいなこいつ。


 勇者のスキルを持って生まれた人間は王都で勇者としての教育を受けると聞いたけど、ユーリスとベクトが正反対のスタンスのように勇者と言ってもいろんなのがいる。


「「「人間の犬が!」」」

「おーおー、今日も劣等種がよく吠える。てめぇらが巫女を取り戻しに来ることは分かってたよ。だからオレサマたちが招集されたんだしな」



 うーん、ここまでの状況を整理すると。


 巫女とやらを救出するために亜人たちは一般人を襲って人質にしようとした。

 でもそれを予想していた人間たちは招集をかけた勇者たちにこの辺りを守らせていたってとこか。

 処刑があるとはいえやけに過剰な戦力を集めていたと思ったけどこういうことか。



「喜びな劣等種。お前らの大事な巫女の処刑をしっかり見せてから後を追わせてやる。()えある殉死ってやつだ」

「「おれたちを殺したければ殺せ」」

「「だが今ごろ仲間がウッドゴーレムを連れてインクナブラに入ってるはずだ!」」


 襲撃者たちをベクトはせせら笑う。


「ああ、それさっき片付いたって連絡来たぜ」

「そ、そんなハズは!300体のウッドゴーレムだぞ!?」

「六刃星のサウスが来てるからな。アイツら騎士はオレサマも敵に回したくないぜ」



 勇者や襲撃者の反応からして騎士団の強さは確かのようだ。


 ベクトがこのスタンスである以上ユーリスが襲撃者たちを逃がすことは難しそうだ。

 いや待てよ、勇者たちはこの襲撃者たちをインクナブラに連行して処刑するだろうから、影に潜り込めば一緒にインクナブラに入れるのでは?

 処刑は正午。

 悠長に過ごしてる暇はないけど処刑前に騒ぎを起こす訳にもいかない。


「襲撃に備えて処刑を2時間前倒しする発表あったけど、このザマなら必要なかったなぁ?」

「それはぼくも思うよ」


 そうそう処刑が2時間前倒しで……。


 って、え?



 は?



「「な、何だって!?」」

「知らねぇか?そうだよな、今朝決まったことだからな!お前らが助けたくて仕方がない巫女様もあと1時間くらいの命で……」


「ちょっと待てーーーーーーーーーーーー!!!!?」

「ヴァウウゥゥ!!!!」


 衝撃的すぎて俺とゲッカは飛び出した。


「だーーーーーー!!!??」


「え、えぇ!?また亜人?どこから来たんだ!?」

「貴殿は!!」


 ユーリスが驚愕の顔で俺を見る。いやユーリスだけじゃなく、その場にいた全員が俺たちをみて驚いていた。そりゃそうだよな!


 俺が入っていた影の行商人さんは足元から俺が出てきたことに驚きすぎたのか口から泡を吹いて倒れてしまった。ごめん、でもそれどころじゃなくってね!


「2時間前倒し!?あと1時間!?バッッカじゃねぇの予定コロコロ変えんなよこっちはスケジュールにあわせて行動してんだよ!!」


 俺は土壇場で予定変える上層部が嫌いだぞ!

 いかん、この世界にない社畜時代の思い出が蘇った。


「ナンだてめぇ!どっから出てき――」

「うるせぇチンピラ!」

「がぶ!?」


 チンピラベクトがいきなり斬りかかってきたので殴っておいた。

 こいつは嫌いだから思わず力が入る、とはいえ勇者ってくらいだから殴っても死にはしないだろ、知らんけど!


「お、お前は!手配書で見たぞ!魔人ラグナか!!」

「「魔人……?何故ここに?」」


「どうもね!でも今お前らの相手してる場合じゃないんだわ!!ゲッカ、合図を送れ!」


 ヴァオオォォオオオオォオォォン!とゲッカの遠吠えが地の果てまで空気を震わせる。これでヴァナルガンド達が集まるはずだ。


「ひっ、ひいぃぃ!?」

「どどどどうか、命ばかりは……」


 商人達が身体を震わせ抱き合って震えている。失禁してる人もいるけど見なかったことにするのも優しさだな。

 基本的に俺たちに危害を加えないヤツには手を出さないからそんな怯えないで欲しい気持ちはあるけど2m以上あるでかい狼がいきなり吠えれば怖いよな。



 高い石壁に囲まれた街が見える。あれがインクナブラで間違いなさそうだ。

 ゲッカなら5分もあれば着く距離だな。


 この場にいるのは行商人4人・御者1人・襲撃者5人。

 それから勇者のユーリス、坊ちゃんカットにチンピラ、あとは司祭ステラ。全部で14人か。


「ゲッカ、まとめて無力化だ!」

「ヴァルル!!」


 ゲッカの影が伸びてその場にいる奴らの意識をまとめて刈り取る。

 峰打ちなのでそのうち目覚めるだろう。どこが峰かは気にしない。


「なんでこんなところに魔人がいるんだ!」

「魔人、ラグナ……!」


 加減した攻撃だったこともあるとはいえ坊ちゃんカットの勇者サンブラが分厚い本から紫の光を放ち攻撃を防いでいた。どうでもいいけどそれって勇者より賢者とかソーサラーとかそういう職業じゃない?

 あとステラもユーリスが守りきる。かっこいいぜユーリス。本当に今会いたくなかった!


「て、でめえぇえ!よ、よぐも、やりあがっだな……!」


 チンピラが垂らした鼻血を押さえながら起き上がる。

 チンピラらしからぬ耐久力だな。勇者だけあってさすがにタフだ。


 残っているのは双剣使いベクト、片手剣のユーリス、魔法職サンブラ、司祭ステラ。ゲームの王道パーティみたいだな。相手してる暇はないけどな。


「悪いが先を急いでるんだ。行くぞゲッカ!」

「オイ!待ちやが……」

「"聖域展開(サンクチュアリ)"!」


 ステラが叫ぶと同時に乳白色の光がステラを中心にサークル状に広がり、光の壁でできた大きなドームを作りあげる。どうやら結界のようだ。

 構わずゲッカが黒炎を飛ばして突き破ろうとするが、なんとゲッカの炎が弾かれた。


「ヴァウグッ!?」

「か、固いなこの結界!?」


 俺が殴ってみてもビクともしない。

 今までどんなヤツもどんな物でも殴れば壊れたのに俺の力で壊れなかったのは始めてだ。

 勇者にばかり意識を持っていかれたけれど、この司祭さては強いな?


「魔人ラグナ!ここで会うとは思いませんでした」

「ステラ!よせ!」


 ユーリスの制止を振り切ってステラが前に出る。

 俺急いでるんでさっさとここ出してほしいんだけど、清廉な雰囲気の司祭が俺をめちゃくちゃ睨んでいる。そんな怖い顔するなって。

 俺そんな恨まれるようなことしたかな?……いや心当たりかなりあるわ。

 200年前やらかしたことについて言及されたら、あ、ウン、ソウダネ。としか言えないし。



「この結界は200年前あなたを討つ時に使用された、あなたが破ることができなかった結界と同じもの。逃がしません!」

「は、はぁぁ!?」


 急いでる時にそういうことする?

 200年前ヤンチャ全盛期の俺に破れなかったならそりゃ簡単には破れないだろう。

 術者であるステラを気絶させれば結界は消えるかな。


「"光の音色(ヒュムヌス)"!」


 ステラの杖先が再び白く光り、白い光の弾が次々打ち出された。


「いで、あだだだだ!!いってぇ!?」


 このくらいなら今までも何度も受けた、と思ったら想像以上に痛い。


「き、効いてる!」

「ははっ……なんだ、魔人つっても案外柔いじゃねぇか。ここで魔人を倒しゃあ大出世だぜ!!穿て、"双炎突"!!」

「ぼくも……!いけ、"ファントムランス"!!」


 今を好機と見たチンピラと坊ちゃんカットが同時に飛び出してきた。

 炎の双剣と宙から出てきた黒い槍が向かってくる。


 パキン!


「は?」

「へっ!?」


 チンピラの自慢の赤い双剣はパッキリと折れ、坊ちゃんカットが出した黒い槍は俺に当たって霧散した。


「な、なにいぃぃーーーーィ!?」

「そんなバカな!」

「ジャマなんだよ!」


 驚愕する2人の勇者の頭を掴んで頭を互いの頭をぶつければベクトとサンブラは沈黙した。

 だがステラの攻撃は止まない。


「"断罪の矢(ペッカトゥム)"」

「だーー!!さっきから痛てぇなちくしょう!!!」


 俺の肩を光の矢が掠める。

 先ほどの攻撃が散弾なら光の矢はライフルのようで一撃が重い。これ受け続けるとマズイやつ!

 剣も弓も効かない俺の体に大ダメージを与える人間がいるとは。


「お前勇者より強いじゃねーか!お前が勇者やれよ!」

「私はこのインクナブラを守る司祭です!」


 ステラの光の矢の追撃をゲッカの黒炎が撃ち落とした。


「ゲッカ、助かる!」


 ゲッカの攻撃で相殺できるのは幸いだ。

 これ以上ステラの攻撃は食らいたくない。ちくしょう、処刑まで時間がないってのに!


 強敵と判断して解析だ。


-----------

 名前:ステラ

 種族:人間

 LV:34

 HP:237/237

 MP:219/219

 速度:42

 所持スキル:

『魔人特攻A』『慈愛の心C』

『信仰B』『純潔』『逆境C』

-----------------


 特別強いステータスじゃないな、と思っていると。


 いや待って、『魔人特攻A』とかいう文字が見えるんだけど?

 いかにも魔人に対して強いですよってスキルだろこれ!!


「俺ピンポイントの特攻持ちってアリかよ!!」

「インクナブラは、私が守ります!!」

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[気になる点] ステラがこの後どう心境が変化するのか、しないのか注目です
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