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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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36.情報収集

 宿の部屋に入るなりねちねちとキピテルに文句を言われる。

 宿の店主との情報交換中に音出しちゃった件ですね。ハイ反省しています。


「悪かった、悪かったって!」

「声は潜めろ。ここは1人部屋だ」


 キピテルは器用に小声でキレてる。


「知り合いの勇者が来てて驚いたんだ」

「勇者と知り合いだと?」

「ユーリスって女勇者と意気投合してさ。いい奴だったぞ、亜人にも親切だし」

「光星の勇者か……だが立場上、出会えばお前の敵になる可能性は高い」


 そうだね、会わないことを祈っておこう。




 夕食まで時間があるので情報収集に出かける。

 イヤ出かけるのはキピテルで俺たちは影で話聞くだけなんですけどね。


 着いたのは酒場のようだ。

 お酒飲むのかな?てか未成年じゃないよな?と思ってけど飲んでるオッサンたちに話を聞くようだ。昼間から飲むヤツ結構いるんだなぁ、俺も昼間から飲むの好き。

 キピテルが頼んだ酒を差し出せばオッサン達は気前よく喋り出した。



「インクナブラの様子?最近は亜人の処刑が多いぞ。黒の神官がすぐ処刑にするからな」

「亜人の犯罪者はそんなに多いのか」

「ちょっとしたことで殺すぜ。処刑目当てで来るお偉方が高い金払って特等席で見物したりするからなぁ。それに処刑される亜人を助けようと仲間の亜人が来ることもある。もちろん襲撃者も残らず処刑されたけどな」


 知れば知るほどインクナブラの印象がストップ安。


「そんなことがあったから罪人は別の街に収容して当日ワイバーンで連れてこられるそうだ」

「別の街とは?」

「さすがにそこまでは分からんぜ。なんだ、兄ちゃんも処刑(ショー)を見に来たのか?」

「商人だからな。処刑場だろうが地獄だろうが人が集まるなら行くが」


 別の街に収容か。ということはまだインクナブラにクローバーはいないな。


「ガハハ、商人ってのは兄ちゃんみたいのばっかだな。今回の処刑は人がいっぱい見に来るぞぉ、なんせ宣告期間最終日だ。戦争がおっぱじまったらこんな悠長に酒飲みながら処刑とか見てられなくなる」

「大丈夫だって、勇者様がなんとかしてくれるからなぁ」

「明後日の処刑は何人だっけか?」

「亜人4匹だな」

「――だそうだ。お偉方、世界中の亜人を処刑する気なのかねぇ」

「なぁに、アイツらは虫だ。すぐ増える。アンタもそう思うだろ?」


「そうだな」


 キピテルの声に感情がないことに酔っ払いたちは気付かない。



 ひとしきり話を聞きだしたようで酒場を後にした。

 ………。


 心なしか足音が乱れている。怒ってるなコレ。

 俺も業腹だけど怒ってる奴が目の前にいると冷静になる。


 亜人は人間にとって虫か。

 冒険者や賞金稼ぎに悪意を向けられたことはあるけど、普通の一般人のオッサンもこんな認識なんじゃ亜人の肩身は狭いわけだよ。

 人間の商人として生きるキピテルはいつもこんな会話を聞いてるんだろうか。



 キピテルは路地裏に来たみたいだ。

 辺りに人の気配はないし喋っても大丈夫だろう。


「インクナブラにはクローバーはいないみたいだな」

「無駄足だった。今から収容施設を探すには時間が足りん」

「インクナブラにいないこと、時間直前にワイバーンで来るってことが分かっただけでも来た意味はあったさ」


 その情報がなければクローバーがインクナブラにいないのにインクナブラに行って探し回ることになっただろうし。


「インクナブラに腕利きの冒険者が集められている。冒険者タグは外して正解だった。冒険者と知られれば私も街の防衛に駆り出されていたかもしれん」


 疲れたかのようにキピテルは壁に寄り掛かる。

 インクナブラにいるのは騎士団、勇者3人、冒険者たち。あとは街の衛兵と教会の兵士が大勢ってところか。


 処刑とか見たことないから詳しくは知らないけど、なんていうか。


「公開処刑とはいえ過剰戦力だ。何か起こると確信でもしているのか?」


 キピテルが独り言のように呟く。

 やっぱそう思うよね?


 俺が行くことがバレてるとは思えないけど、乱戦の覚悟はしておかないとな。




 ◆



 結局この日はそれ以上の情報は得られなかった。


 部屋でキピテルが買ってくれた食事を食べる。

 1人部屋だからゲッカが出てると狭いけどずっと影に入りっぱなしだから食べる時は許してほしい。

 さっきの処刑云々の話のせいでイヤな気分だ。


「こういう時こそ飯で気分を変えるべきだと思うんだよ!」

「ヴァウ!」

「黙って食べれないのか」


 キピテルは呆れ顔だけど飯は大事だよ!!

 キピテルが買ってくれたのはパンと肉とココナッツのジュース。ゲッカには干肉。


 さっそく食べてみよう!

 ……。


「パンも肉も固い……」


 いや魔人の体だから全然噛み切れるんだよ。でもパンを噛んでガキッていったた時のガッカリ感分かります?

 パン生地発酵させてないんだろうなぁ、固い以前に普通にまずい。

 ココナッツならハズレないだろ!と思ったら味がうすい。砂糖入ってないから当然か。砂糖を入れれば……嗜好品ですかそうですか。

 俺初めて人間の街に来て人間の食事食べたんだけど、こんなもんなんだ……。


 一方キピテルが食べてるのは宿屋が用意したパンとスープ。1人部屋だから1人分。

 パンは俺のと同じものっぽい。

 でももしかしてスープは旨いのでは?ひと口せがんだら分けてくれた。


「……びみょい」


 なんというか、素材の味を活かさない、いや殺す味付け。そのくせ変に味は薄い。


「ヴァウゥ」


 ゲッカはどう?干し肉はさすがに大きなハズレはない……と思ったらしょっぱくて固い。腹を満たすために無心で食ってる。

 ユーリスが宮廷料理より俺の料理の方が旨いって言ってたことを思い出してしまった。


「宿の食事に何を期待してたんだ」

「飯っていったらもうちょっとこう、あるだろ!いやよくお前表情変えずに食えるな?」

「こんなものだろう」


 そっすかこんなもんすか。

 この世界の食の事情まじさぁ!


「これが飯とか納得いかねぇ!そのうち俺が作ったウマい料理食わせてやるから覚悟しろよな!」


 タブレットでレシピ調べられるようになったからね!カレーとか作ってみたい!


「それは楽しみだな。だが舌が肥えてしまえば宿の食事が食べれなくなる」

「やっぱ宿の飯不味いと思ってんじゃん」

「私はこんなものだと言った。旨いなどとは言っていない」


 ……食事に思うところが無いわけではないようだ。


挿絵(By みてみん)


 この世界の飯が不味いことは置いておいて。


 

「街に居ない、収容場所も分からない以上ケットシーを助けるなら処刑当日を待つしかない」

「それしかないよなー」


 収容場所を見つけられれば一番よかったんだけど。


「なら早めにインクナブラに着くのも良くないか」

「ケットシーが輸送される前にお前が潜伏していることがバレれば処刑どころではなくなる。見つかるリスクは避けたい」


 強い奴らが集まるのだから、長く居座るほどゲッカの潜伏が感知される可能性が上がる。


「輸送中のワイバーンを狙うのは難しいよな?……となると」

「処刑寸前にかっさらうしか無いな」


 ……一番乱暴でやりたくない方法だな。




 ◆



 翌朝。

 処刑まであと1日。


「では私はここまでだ」

「いろいろありがとうな」


 キピテルとはここで別れる。クローバーを救出した後、風竜を倒した赤い大地でもう一度合流する予定だ。


「インクナブラ行きの便が出ている。適当に利用客に近付いて影を合わせるから客に移れ」


 暑さに強い魔物に砂漠用の馬車を引かせて移動するサービスがあるので、利用する乗客の影に潜ってインクナブラまで移動する予定だ。


 キピテルが行商人に何気なく話しかけ、影が重なった間にゲッカが影から影へ移動して行商人の影に潜伏することに成功した。

 インクナブラまで丸1日かかる。ゲッカが走れば1~2時間で着く距離なんだけどね。

 処刑時間は正午だ。そして俺たちは明日の朝に着く。


 インクナブラに着いたら適当な影に潜んでクローバーが現れるのを待とう。





 影の中はどんなところかっていうと、本当に何もない、暗くて小さな部屋って感じ。

 この空間そのものがゲッカの中のようで、俺の声はゲッカに聞こえるけどゲッカの姿を見ることはできない。


 影の中って結構暇なんだよな。暗い揺り籠の中でずっと揺られているような感覚だ。


 そういえばインクナブラは揺り籠という意味なのだとキピテルが教えてくれた。

 一体誰の揺り籠なんだろう。

 つーか揺り籠で公開処刑を見世物ってどうなんだよ。



 夜を迎え影が濃くなれば外がはっきり見えるようになった。


 赤い月が爛々と輝いている。

 処刑の日は宣告期間最後の日だ。バタバタしているうちにあっという間にこの日が来ちゃったな。


 俺がどんな王になるか楽しみだとクローバーは言っていた。

 この1週間で俺なりの答えは用意した。答えを見せてやろう。


 そんなことを考えていればいい感じに眠くなってきた。

 明日、ワイバーンでクローバーが連れてこられるまでできることは無いし、心を落ち着けて眠ろう。

 そして明日、いつも通りの俺で処刑場に行く。


 ……目が冴えちゃってるんだけどな。ん、お前もかゲッカ。

 早く外に出て動きたいって?だよなぁ、ずっと動いてないもんな。


 眠りに就いたのは夜が更けた頃だった。

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