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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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34.どう見ても悪い奴が使うような魔法

「こんにゃろーーー!!」


 風竜が落としやがった岩石に埋もれたものの、無理やり吹っ飛ばす。

 覆いかぶさって岩の直撃は全部俺が受けたからキピテルに大きなダメージはないと思う。


 キピテルは負傷した腕を抑えながら立ち上がる。


「この短時間で人生指折りの幸運と不幸と体験した気分だ」

「へぇ、具体的には?」

「不幸は竜に襲われたこと、幸運はお前と敵対しなかったことだな」

「そりゃ光栄だ!」

 

 態勢を立て直したところで仕切り直しだ。


 陽が沈み、空は夕暮れと夜闇の間のブルーモーメントの時間。

 影の色は既に濃くなり、もう間もなく辺りを闇が支配する。

 赤い月が辺りを照らすとはいえ暗くなれば攻撃を避けるのも当てるのも困難だ。


 風竜が落とした岩石の山を持ち上げて竜に向けてブン投げてみるものの相変わらず風の防壁に当たって砕ける。


「ヴァウゥ!!」

「ゲッカ!無事だったか!」


 ゲッカは闇の魔術で岩を破壊して難を逃れたようだ。さすが俺の相棒だな!

 俺たちの無事に気付いた風竜が苛立ちの篭った甲高い咆哮を浴びせてくる。


「ああもううっせーな!」

「――ヴァ!」


 咆哮と同時に放たれた辻風をゲッカが炎の魔法で相殺する。

 続けざまに黒い火球を浴びせるものの、風の防壁で炎も無効化された。守りが固い。


「あで!」


 サンダーバードの電撃が脇腹に直撃する。

 ザコの攻撃はともかく風竜の眷属の攻撃となるとそこそこダメージはある。

 地上を掃除しないとおちおち風竜と対峙もできない。

 

「ゲッカ!風竜の攻撃からの守りを任せていいか?」

「ヴォアォン!」



 ヴァナルガンド達が次々と取り巻き達を仕留めているものの数が多い上に統率して陣形を取られて攻めにくそうだ。殲滅には時間がかかるだろう。


「ゲッカ達が足止めしてる間に眷属を倒す!ちゃんと捕まってろよキピテル!」

「善処する」



 岩を持ち上げて眷属目掛けて次々投げつけた。風竜が崩したから岩石はいくらでもあるぞ!

 無造作に狙うと見せかけて本命は一番速度が遅いコカトリスだ。

 カマイタチとサンダーバーは早くてちょっと当たる気しない。


 投岩を避けられないと思ったのかコカトリスは頑強な脚で蹴り飛ばす。

 大きな音を立てて岩が粉々に砕け吹き飛んだ。

 やるじゃん、でもな!


「それを待ってたぜバカめ!」


 砕けた岩に紛れてコカトリスに特攻して捕え、そのまま首をへし折った。


『ギェゲゲェェ!!』


 断末魔と共にコカトリスの口から大量の紫の煙が洩れる。

 毒持ちってことは解析で分かっている。コカトリスをそのままハンマー投げの容量でサンダーバードに投げつけた。

 素早いサンダーバードに当てることはできないが、コカトリスの体から撒かれる毒までは回避対象に入ってない。


『ヂヂジヂヂ……!!』


 毒で動きが鈍くなったサンダーバードが苦し紛れに稲妻を飛ばしてきたが、電撃を手のひらで受け止めながらサンダーバードの頭を掴み地面に叩きつけた。


【LV上限が解放されました】

【LV上限が解放されました】


 よしよし、2匹撃破で魔片2つ入手だ。


 残るは尾と前足に刃がついた四つ足の獣、カマイタチ。

 さすがに警戒して距離を取り遠距離から斬撃を飛ばしてきた。

 眷属となったゲッカの力で俺の速度も上がってるんだけど、それでも素で早い敵は苦手だ。


「クソ、当たればワンパンで倒せるってのに」

「足止めすればいいんだな」

「キピテル!?」


 言うや否や、キピテルの背から大きな翼が生える。

 これまではターバンに隠れて気付かなかったけど翼が生えると頬や首元が羽毛で覆われるようだ。まるで変身だな。

 そして翼の次に目がいくのは猛禽類特有の鋭い脚の爪。


 自ら起こした風で高速飛翔し、一気にカマイタチに脚の爪から飛び込む。

 猛禽類の飛翔速度と握力を合わせたタックルの瞬間的な衝撃はライフルを越えると言われている。


『ギキキィ!』

「舐めるな!」


 ステータスとLV差があるせいでカマイタチを倒すことはできないものの、暴れるカマイタチを鋭い爪が押さえつける。それだけで俺にとっては十分だ。


「助かったぜキピテル!」


 渾身の魔人パンチでカマイタチの頭を殴りつければ頭部がパンッと消滅した。


【LV上限が解放されました】


「ヨーシ、眷属全員撃破!」


 風竜にとっては微々たるものかもしれないが、眷属を倒したことで風竜が受けていた眷属のステータスボーナスも消えたはず。

 統率者を失った魔物たちの動きが乱れ、勢いづいたヴァナルガンド達によって次々と捕食されていく。これで風竜に専念できる。


 翼をたたむと同時にキピテルがガクリと体勢を崩したので慌てて受け止める。もしかして出血が多い?


「だ、大丈夫か!ええとこういう時は出血箇所を心臓より高く」

「……くそ、さすがに眠い」


 いやコレ普通にただの寝不足だわ。

 ここまで数日休まず飛んできたらしいしな。


「そこのヴァナルガンド!キピテルを任せる!」

『任セロ!』


 風竜の攻撃さえ気を付ければ地上はもう大丈夫のはずだ。


「ゲッカ、待たせた!風竜と決着つけるぞ!」

「ヴァウ!!」


 風竜とゲッカはまだ対峙している。

 ゲッカの攻撃は風の防壁で防がれ、風竜の攻撃はゲッカの闇に吸い込まれてお互いの攻撃が当たらない。


 俺たちそろそろ砂漠行きたいんだけどいい加減見逃してくれやしませんかね。

 風竜は俺を見てまた不快な咆哮をあげている。そんな気はなさそうだ。


 空はいよいよ暗くなってきた。

 風竜の攻撃が判別しにくいのが問題だな、そう思っていると傍らのゲッカの体がずるりと溶ける。


「うお!?」

「ヴァルルル!!」


 よく見れば溶けたのではなくゲッカ自身の影と体が一体化していた。


 ゲッカが得意げに鼻を鳴らす。

 進化した際に会得した闇魔法で影に溶けることができるようだ。


『闇魔法、影ガ濃イホド、強クナル!』


 キピテルを乗せたヴァナルガンドがまるで自分のことかのように誇らしげに言う。

 つまりゲッカは夜を待っていたのか。暗闇が支配する夜はゲッカの独壇場。


 赤い月を浴びた月の犬ゲッカはこれから始まる夜に向かって気高く吠え、ヴァナルガンド達が呼応するように吠え続けた。

 風竜がわずかにたじろいだ。惨劇の時間が始まる。


「ガウ!!!」


 遠吠えが終わると同時にゲッカの影がみるみる大きく濃くなり辺り一面を完全な黒に変えた。

 スルトと戦う時にも見た、まるでそこだけ切り取ったかのようなどこまでも黒くて暗い色彩だ。

 同時に地の底から大きなエネルギーが沸き上がる。


 ヴァナルガンド達がみな一様に新たなボスであるゲッカを見ている。


「グゥオオオオオオゥウ!!!」


 ゲッカの鬣が逆立てば地面に巨大な目玉が現れた。

 虹彩を金に光らせながら目玉は二、三度ギョロギョロと動いた後まっすぐに風竜を見据える。


挿絵(By みてみん)


 なんていうか、闇の深淵に浮かぶ目玉ってどう見ても敵とか悪い奴が使うような魔法だな?



 黒の大地から無数の影が伸び、実体のない影は風竜の防壁をすり抜け、風竜に突き刺さった。


 突き刺ささったこと自体にダメージは無いようで風竜は苛ただし気に鳴くが、影が膨大な生命力を吸収しはじめる。

 風竜は嫌がって身を捩るものの貫いいた影は風竜を掴んで放さない。


「ヴァゥ!ウルル!」


 ゲッカが拘束するからトドメの魔法が欲しいと吠える。

 確実に倒せて、かつ静かな魔法。コレがあった!


「来い、殃禍魔法(カタストロフ)、"灰色の炎(アフーム=ザー)"!!」


 魔方陣を展開する。神を燃やし凍らせた魔法だ!

 発動まで時間がかかるのが玉にキズだけどゲッカが完璧なサポートをしてくれる。


 風竜は無数の影から離れようともがくものの、金の目玉が風竜を捉え続ける限りどこまでも影は付き纏う。

 風竜は苛立ちと共に目玉に向け風のブレスを吐くけれど、攻撃のために地面に近付いたのは悪手だった。

 今度は実体を持った別の影が次々と伸び、四方八方から竜の翼を貫いていく。



『グガガァアアァァアア!!』


 風竜が暴れるが影に串刺しにされ生命力を抜かれ続ける風竜に逃れる術はない。

 やがて俺の魔方陣が完成し、凍てつく炎が顕現した。

 実体のない影を燃やすこと無く、冒涜的に風竜だけを心の臓まで凍らせて、風竜の脈動はとうとう潰えた。



「っしゃー!リベンジマッチ成功だ!!」

「ヴァウ!!」


 モフモフしつつなでなでしてやればゲッカは嬉しそうに顔を寄せる。

 夜のゲッカ最強なのでは?こりゃ最強の狼と言われるワケだよ。



 ◆



「ハァ、だいぶ時間食っちまったなぁ」


 寝不足の上に負傷したキピテルは大丈夫かなと思ったら凍った風竜を眺めていた。風竜を倒せたことが感慨深いのだろうか。


「風竜の素材を持ち帰れば商圏の勢力図がひっくり返る……なんとか持ち帰れないものか……」


 違うわ。竜の素材を持ち帰りたくて眺めてただけだわ。

 でもこんなバカでかい竜持ってけない……あ、そうだ。

 

「クローバー助けたら収納魔法で回収できるな」

「……さっさとケットシーを連れ戻さねば」


 一瞬で踏ん切りがついたようだ。


 他の魔物に食われたりするのではと懸念してたのでヴァナルガンドを2体見張りにつけておく。

 商人たちには現在進行形で世話になってるからこのくらいはしておこう。



 気を取り直して夜明けまでに砂漠を目指す旅に戻る。


 キピテルが今にも眠りそうなので腕で抱えてゲッカに跨る。

 抵抗しても無駄と分かってるのか意外と大人しくしている。寝ても大丈夫だよと言ってるんだけど。


「200年前、お前が現れた日に金の流星が降り注いだ。以来金色の星と流星は不吉の象徴だ」

「……いや、教えてくれるのはありがたいけど大人しく寝ろや」

「お前は常識を知らなすぎる。叩き込んでおかねばまた凶星を落とすなど言いかねん」


 さっきから世界の常識についてずっと喋っている。

 俺が歴史や人間の常識に疎いのはその通りだけど欠伸噛みしめながら言われてもね。


「"魔人討ちし者、神々の叡智と力を得る。神々の力宿す者が現れる時、混沌の時代を終わらせ新たなる世界の王となる者なり" 。魔人を倒せば力が手に入るという逸話だ。お前が狙われる理由の1つだな」


 何それ、そいつは初耳だ。


「まだだ、あとエトランジェ信仰とカートル教についても知らねば必ず厄介事を招くぞ」

「まだあんのかよ!寝ろよ!」


 俺が知らないといけないこといっぱいあるのは分かったけどこいつ寝る気ある?

 キピテルは俺の上半身の布を引っ張る。


「ゲインはお前に賭けた。取引の足を引っ張ったら私がお前を許さん」


 ああ、無理していた理由が分かった。

 ゲッカがカニスに連れていかれた時は何としても追いかけようと思ったし、今もこうしてクローバーを助けるために強行している。


 それと同じことで、そしてキピテルは何よりもゲインのことを大切に想っている。

 だからこんな辺境まで無理をして俺の手助けをしている。


「ちょっと羨ましいよ、お前たちが」

「何の話だ?」


 怪訝な顔をされたけどみなまで言ってやる気はない。

 キピテルも追及する気はないらしい。


「約束がまだだったな。助けてもらったこと、感謝する。ありがとう」

「何だよ、言えるじゃねーか」

「商人に必要なものは信頼。約束を違える商人など三流以下だ」


 そう言いながら首元にマフラーのように巻き付けたターバンを口元まで引き上げる。それきり言葉は途切れた。

 


「信頼か」


 "ボクは、その、いろいろ言えないことがあるので。信頼できないでしょう"


 眷属に誘った時のクローバーを思い出す。話したいことは、たくさんある。

 インクナブラまで、あと少し。

おまけ。キピテルのステータス。

-----------

 名前:キピテル

 種族:バードマン

 LV:52

 HP:714/714

 MP:159/159

 速度:112

 所持スキル:

 『形態変化』『鷹の目A』

 『風魔術C』『電光石火E』

 『弓使いB』『武芸百般』『博識E』

-----------

 ヒト形態のステータス。有翼形態だと一部スキルとステータスが変化。

 亜人と分かる要素はクローバーが人間に見えるように改竄してます。

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