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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
84/163

33.風竜との戦い

 体に風竜のウロコを生やした魔物たちを解析する。

-----------

 種族:カマイタチ【風竜の眷属】

 LV:83

 HP:2338/2338(+380)

 MP:454/454(+105)

 速度:270(+49)

 所持スキル:

『電光石火A』『神出鬼没B』

『風魔術C』『冷気耐性D』

『鎌使いB』

-----------

 種族:コカトリス【風竜の眷属】

 LV:87

 HP:2866/866(+380)

 MP:297/297(+105)

 速度:103(+49)

 所持スキル:

『キメラD』『吸血C』

『風魔術C』『騒音B』

『毒攻撃B』『毒耐性B』

-----------

 種族:サンダーバード【風竜の眷属】

 LV:78

 HP:1952/1952(+380)

 MP:591/591(+105)

 速度:423(+49)

 所持スキル:

『電光石火A』『稲妻のヴェール』

『雷魔術S』『風魔術C』

-----------


 あいつらやけに強いな?

 魔片持ちで強化されている上に風竜の眷属だから風竜のステータスが加算されている。


 そして眷属カマイタチ、眷属コカトリス、眷属サンダーバードの背後からそれぞれ同種族の魔物が現れた。

 どうやら眷属の魔物がボスで、その部下たちみたいだな。

 集団全て合わせれば軽く100体を超えている。

 魔片持ち、普段なら嬉しいんだけど今急いでんだよ!


「ハァ、全く勝てる気がしないな」

「よ、弱気になるな!こっちにもヴァナルガンド達がいるから!」


 いつもと変わらないようでいてめちゃくちゃ諦めモードだな。

 そういえば風竜と以前会った時もクローバーが絶望的な顔をしていた。


「竜は天災。およそ地上の生物が相手取るような存在ではない」

「俺だって災厄の化身って呼ばれてんだよ!」


 不本意だけどね!


「ゲッカ、以前アイツに吹っ飛ばされたの覚えてるよな?」

「ヴァ!」


 あの時風竜を恐れたゲッカは今は立派な最強の狼マーナガルムだ。

 今やゲッカは恐れていない、やる気だ!


「よし、リベンジマッチと行くぜ風竜!」

「ヴァフッ!」

「では災厄の化身のお手並み拝見といくか」


 ヴァナルガンドたちが一斉に風竜に向けてそれぞれの攻撃を放つ。

 だが攻撃は風竜の目前で阻まれる。


『風ノ防壁デ、防イデル!』

「風のバリアか!」


 風竜が上空から辻風を落としてくる。

 風の塊の1つ1つが大地に直撃しては地面に大きなクレーターを作った。


『ギャ!』

『グゥ!!』


「あんなのに当たったら大変だ!一度距離を取ってくれ!」

「ヴァウウゥッ」


 けれども風竜の眷属たちが行く手を遮る。


「ち!」


 キピテルが弓をつがえ、風の魔術を乗せた矢を次々と放つ。

 カマイタチとサンダーバードは動きが速すぎて射止められず、そしてコカトリスには致命傷にはならない。


「自信を失くすな。飛ぶ鳥を射抜くなど造作もないと思っていたが」

「げ、元気出せって」


 風竜の眷属が風や電撃を飛ばしてくる。

 空からは風竜の辻風、地上からは魔物達による無数の攻撃。弾幕を避けるゲームを身をもってやってる気分だ。


「ゥグ!」

「ふげーーー!!」


 カマイタチの攻撃がキピテルの腕を掠めたと思いきや俺の頭にも風竜の攻撃が直撃した。


「いってーーーーぇ!!あんっのヤロウ!キピテル大丈夫か!?」

「……ッ、かすり傷だ」


 俺の頑丈さでも風竜の攻撃はさすがに痛い。

 キピテルへの攻撃は大ヴァナルガンドが回避したものの、攻撃が掠っただけで腕に大きな裂傷を負う。鮮血とごっそり持っていかれた袖がかすり傷で済まなかったことを示している。


 ヴァナルガンドがサンダーバード達のくちばしを食いちぎるが死角から現れた別のサンダーバードが電撃を飛ばした。

 キピテルが風で軌道を僅かに反らし直撃は免れたがターバンが電熱で焼けて乱れた髪が風に流れる。


「風竜の加護を受けているな。私の風が通じん」


 風を統べる魔物にキピテルの風の魔術は効きにくい。

 怪我は大丈夫かと見てみれば口と右手でターバンを腕にきつく巻きつけて止血している。

 応急処置にも手馴れているけれど、これ以上攻撃を受けさせるわけにはいかない。


「役に立たない私を見る暇があるならあの竜をどうにかしたらどうだ」

「心配してんだけど、悪態つかないと会話しないルールでもあんの!?」


 発言はともかくこんな状況でも冷静なのは助かるけどな。伊達に場数は踏んでいないのだろう。

 ヴァナルガンドが回避をするものの相手の攻撃の物量が多く、このままだといずれ決定打を受けてしまう。

 なら逆に、あえて受ける方向にチェンジだ。


「ゲッカ、キピテル回収してくれ!」

「ヴァウッ!」

「おい!?」


 ゲッカの影が伸びてキピテルを引き寄せた

 そのままゲッカの背、俺の前に乗せる。


「回避は無理だ。俺を盾にしとけ!」

「守られるのは性に合わんが止むを得んか」


 こんな時でもコレだよ。


「素直にありがとうとか言えないのかね!」

「これを切り抜けたら考えてやる」

「カッ、言ったな、忘れんなよ!」


 つくづくこのキピテルをよくゲインは相棒として御せるもんだ。


「ヴァナルガンド!散ってザコから片付けてくれ!」

『オォ!!』


 相手が多い。まず数を減らさないと。

 ゲッカは岩の柱の間を縫うように駆け抜け、風竜の辻風を避けながら黒い炎を飛ばし魔物の攻撃を相殺している。


 俺?俺はザコの攻撃ガンガン食らっているよ。

 風竜ならともかく雑魚の攻撃なら問題ない!その攻撃で大怪我したキピテルはかなり複雑そうな顔してるけど。


 けれども風竜は執拗に俺たちを追い続ける。

 時折ゲッカが風竜に炎を飛ばすが風の防壁はゲッカの炎も弾き、本体に届くことは無い。

 風の防壁による物理的な防御力はかなりのものだ。


「ヴルルル……」


 ゲッカが苛立っている。何が嫌かって風竜は上空でつかず離れずの位置キープしながら一方的に遠距離攻撃してくることだよ!


「なんだよそのチキン戦法!降りて正々堂々戦えよ!!」

「下々の輩の元に降り立ち頭の高さをあわせてやる必要がどこにある。対等に見て欲しいならお前が上空へ来い、と思っているのだろう」

「おめーどっちの味方だよ!?」

「……すまない、空を飛ぶ身として本音が出た」


 バツが悪そうに目を反らしている。キピテルさん普段そんなこと思ってんですね。


挿絵(By みてみん)


「だったら風のバリアごと突き破ってやるか。空にいるならこの魔法だ!」

「……待て、何をする気だ」


 手を空に掲げて力を込めているとキピテルに思いきり髪をひっぱられた。

 痛いわけじゃないけど気持ち的に痛いから普通にやめてほしい。


「何って、隕石降らせて攻撃するつもりだけど」

「隕石、凶星か!?絶対に駄目だ!」

「え、なんで」

「物知らずが。以前凶星が降った時にどれだけ騒ぎになったか知らんのか」


 なにそれ初耳。

 隕石もとい"伏ろわぬ神の雨(アマツミカボシ)"はまだ1回しか使ってないけど。封印の墓標ででかい骨相手にした時ね。


金色(こんじき)の星は魔人の象徴だ。星が降り注いだ時、多くの人間が魔人の再来に恐れ(おのの)いた」


 そういえば光を見た相手に精神干渉して混乱とか恐怖状態にするみたいな説明ありましたね。


「今落としてみろ、付近の街という街の警戒態勢は厳重になり最悪処刑の日程を早められるぞ」

「よし別の方法考えるか!」


 この場所はインクナブラからそこまで離れていない、魔法によっては人間達に視認される可能性があるわけね。じゃあ空に影響しない魔法を使うしかないか。

 燃え上がる火の海は却下。地震、暴走植物、洪水は当たらない。却下!


 こっちが考えてるってのに風竜ときたらおかまいなしに空から雑に風を連射してくる。

 けれども俺たちが弱る気配がないことにしびれを切らしたのか、風竜が翼を光らせた。


「大技が来るぞ!」


 キピテルの声と同時に巨大な暴風が巻き起こる。

 風の塊はそびえ立つ岩の柱という柱に命中し、岩柱を粉々に砕いていく。

 そして砕けた岩石の行く先は俺たちの頭上だ。


「ヴァウゥ!!」

「ウッッソだろ!?」

「グ……!」


 逃げ場も逃げようもなく、数千万トンの岩石が重力に導かれ降り注ぐ。

 落岩の隙間から俺が最後に見たのは、夕陽に照らされ勝ち誇る様子の風竜だった。



 あいつ絶対許さねぇ!!!泣かす!!




 ◆インクナブラ郊外



「顔色が悪いわユーリス。無理しているんじゃないの?」


 警備が終わり部屋へ戻る途中、旧友ステラに声をかけられユーリスは慌てて笑顔を作る。

 そして直前まで自分が勇者らしからぬ表情をしていたことは否めない。 


「……ステラ。すまない、キミにはお見通しだな」


 ユーリスがインクナブラに連れてこられて数日。

 無茶を押し付けられるかと思ったが、日中は街の警護を任され夜は休息を与えられるなどまっとうな扱いだった。

 勇者であるユーリスは子供たちからの人気も高く、街を歩けば声を掛けられる。


 子供は好きだ。子や、子を連れる大人の笑顔を見れば心は晴れる。

 第三者から見ればいささか過剰なくらい市民に時間を割いていた。


 それでもユーリスを咎める者はいない。警護の人数は十分足りており今は六刃聖将まで駐留している。

 勇者の存在は民を元気づけるからと黙認されていた。

 甘い勇者だが、その戦闘力は相手が人間でなければ一騎当千。有事の時に役に立ってもらえれば良いということだろう。


 自分が大目に見られていることはユーリスも理解していたけれど、市民の笑顔を見ている間は忘れられるのだ。

 処刑のことを。


「早く休んだ方が――」

「何故、公開処刑などするのだろうね」


 司祭ステラは目を伏せた。

 神に祈る場で、神の名のもとに虐殺が行われている。

 


 初めは重い罪を裁くためだったのだろう。いつしかそれは過激化していった。

 目的と手段が入れ替わり、裁くための処刑ではなく処刑のために裁くようになったのはいつからだろう。


 渇きは水や食事を与えれば満たされる。

 けれども心の渇きはどうすれば満たされるのだろう。

 ユーリスには全ての魔族や亜人を排斥したとしても群衆が満たされるとは思えなかった。



(亜人が虐げられることのない場所、最後の楽園か)


 友となった魔人が語っていた夢物語を思い出す。

 不安もなく穏やかに生きられる、そんな居場所がどこかにあればと切に願った。

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