7.遺跡の番人
エネルバ先生に別れを告げて先に進んだ俺たちを待っていたのは遺跡だった。
地底湖、密林ときて遺跡ね。
建物の中にも関わらず意外と暗くないから外が近いのかもしれない。
少し歩けばさっそく魔物がお出ましだ。
現れたのは骨の魔物。今度の魔物はアンデッド系か。
相変わらず電光石火でゲッカが仕留めてくれる。
楽だけどおかげで俺のLVが上がらないな!
ゲッカは相手が格上か格下かを判断できるらしく、自分だけで勝てる相手には率先して飛び込むけど強敵が相手だと慎重で俺の動きを待つ素振りを見せる。
つまりゲッカが飛び込んでいく奴は安心して任せられる。お、もう全滅させた。
「よーしよし、頑張ったなゲッカ!」
褒めるのは忘れない。
俺は褒めて伸びるタイプ&褒めて伸ばすタイプ。
頬をわしゃわしゃしてやると気持ちよさそうに目を閉じる。
ここか、ここがいいのかー。
道中で前の密林エリアに引き続き俺は片っ端から魔物の解析をしてしていた。
最初に俺のステータスを見た時俺のMPが極端に低いかもと思ったけれど、実際密林のボスたちよりも高い。HPが高いから相対的に低く見えただけで別にMPは低くない。
問題はMPをバカ食いする魔法の方。
聞いてるか一撃でMPを9割近くもってく消費MP330の"嘘つきの炎"!
次に覚える魔法はコスパ良いやつだといいよな。
「ヴァウッヴァフッヴァッヴァ!」
「……ん、どうした。腹減ったのか?」
ちょっと目を離したうちにゲッカが倒したスケルトンの骨をかじっている。
カルシウム獲りたいとか?
密林でも毒のある生き物を食べて吐いてたな。
ゲッカは食べれないものも齧ろうとするけどクセかな。矯正した方がいい?
どうせ食べるなら肉とかどうよ。前のエリアで捕まえた猪肉が残ってるぞ。
エネルバ先生がこのエリアでは食料を取れないと言っていたけど確かに骨ばかりのこのエリアに食料は期待できないな。
助言に従って食料を確保しておいて正解だった。ありがとうエネルバ先生。
◆
遺跡エリアは室内にも関わらず広大で、俺とゲッカは定期的に休憩を取りながら進んだ。
2人いるからどちらかが寝ててももう片方が見張りをできるのが良いところ。
この遺跡どこまで続くんだコラといい加減うんざりしてきた頃、ひと際広い部屋に辿り着いた。
「こりゃまた……とんでもない部屋だな」
「ヴァウ!」
屋内サッカーでもできそうな広さだけど床一面スケルトンだらけの趣味の悪い部屋だ。小動物と思われる小さな骨からどんな生き物だよと突っ込みたくなる巨大な骨まで十把一絡げに積まれている。
歩くたびにパキポキベキッと骨が割れる音がする。早く抜けよう!
フロアの奥には扉が見えた。
「あそこが出口っぽいけどこのフロア絶対何かあるよな……」
「ヴァウヴァウ!」
これみよがしに骨を並べてただの通路でしたなんてありえない。
具体的に言えば、ボス戦的なやつ!あるでしょ!
さっさと通り過ぎるに限ると足場やに部屋の真ん中まで進んだところで案の定床がカタカタ揺れはじめ、骨のプールの中からひときわどでかい頭蓋骨が現れた。
どでかい頭蓋骨に骨が集まって巨大なスケルトンが形成される。
ゲッカが激しく唸る。
強敵だ!
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種族:ギガントスカル
LV:70
HP:2360/2360
MP:361/361
速度:37
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解析すればこれまでの敵とは一線を画すステータス。
「ヴァフ!ヴァウ!」
ゲッカが訴えるように吠え立てる。
ゲッカが促す先は頭の骨、がらんどうの後頭部に魔片がある。お約束通りこいつも魔片持ちだ!
大きさ、ステータス、魔片。こいつがボスであることは疑いようがない。
『此処マデ来タカ。封印ノ魔人』
「うおっ!喋った!?」
喋るとは思わなかったのでびっくりした。
骨には声帯とか無いハズなのにどこから声出してるんだ?
『我ハコノ迷宮ノ番人。聖女トノ約定ニヨリ、ココハ通サヌ』
「俺はこんなところで一生を終える予定はないからな。押し通らせてもらうぜ!」
マイホームでのんびり暮らす夢のために、こんなところで人生終わらせてたまるか!
『ナラバソノ命、貰イ受ケル』
ギガントスカルがカタカタカと骨を鳴らすと周りの骨が次々に組み上がり大量のスケルトンに形を変えた。
どうやら数で押しつぶす気のようだ。人海戦術はシンプルに強力。
「ゲッカ、応戦してくれ!」
「ヴァウ!」
俺の頭に乗ってゲッカが炎を吹き続く。
スケルトン達の骨が炎に焼かれてもろくも崩れる。ザコはゲッカに任せよう。
「来い、ギガントスカル!」
そう吠えればギガントスカルは骨の山から大きな骨を拾い上げ、俺目掛けて棍棒のように振るうので両腕で受ける。
問題なく耐えられる魔人の体バンザイ!
ただし踏ん張っていた足場の骨の方が粉々に砕けてバランスを崩す。
骨だらけの足場は戦いにくく、ししかも足場の骨がいつの間にかスケルトンになったりするから余計にタチが悪い。
再びギガントスカルが棍棒を振り下ろすタイミングでスカルの腕を蹴りあげればギガントスカルの骨はパキリと砕けた。
しかしギガントスカルは棍棒として使用していた骨を砕けた骨と入れ替えて修復する。この骨の部屋じゃ修復し放題だ。
密林のボスと同じく魔片がある限りいくらでも再生するのかもしれない。
「物理じゃキリがねーな!」
ギガントスカルの裏側に潜り込んで膝裏の関節を蹴りとばせばギガントスカルは体勢を崩した。
スカルの足を折ったがどうせすぐに入れ替えて修復するだろう。
「こういう時こそ魔法の出番だ!せっかくだし派手にいこうぜ!」
「ヴァオ!!」
ゲッカが元気に吠える。
今回は魔法の使用に賛成のようだ。
今覚えている火の魔法嘘つきの炎は辺り一面を燃やし尽くす魔法。
こんな石造りの建物の中で使えば酸素を使い切ってこっちが窮地に陥りそうだな。
自分達まで燃えかねないし。
いい機会だし新しい魔法を試そう。
タブレットを開けば残りスキルポイントが表示される。スキルポイントは2。
「まず火属性にスキルポイントを1振る!」
『派生属性』というものがどういうものか気になっていたので振ってみる。
火から派生する属性だから火に近い性質を持っているんだろうけれどどんなものかは実際見てみないと分からない。
【火属性のLVが2になりました】
【天属性・爆発属性・光属性が派生しました】
【NEXT:消費MPが減ります】
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所持スキルポイント:1
火属性LV2 Next:火属性魔法の消費MP減少。
∟天属性LV0 Next:魔法を修得します。
∟爆発属性LV0 Next:魔法を修得します。
∟光属性LV0 Next:魔法を修得します。
水属性LV0 Next:魔法を修得します。
風属性LV0 Next:魔法を修得します。
地属性LV0 Next:魔法を修得します。
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天・爆発・光属性が追加された。どれも火に連なる属性らしい。
この中でスケルトン達に有効なものを考える。
戦いの最中なのに俺はどこかワクワクしている。
新しいことができる瞬間って楽しいものだ。
なんとなくどれも良さげに感じる。
すると頭に乗っていたゲッカが追加された3属性のうちの1つを前脚で指した。
「ヴァウ!」
「それがいいって?よし、それでいくか!」
『終ワリダ。魔人』
修復が終わったギガントスカルが骨の軍勢を連れてこちらへ向かってくる。
物量で圧死させるつもりなんだろう。
「天属性にスキルを振る!」
骨の群れが迫る。
【天属性がLV1になりました】
【災厄魔法"伏ろわぬ神の雨"を修得しました】
【Next:消費MPを軽減します】
こっちも来た!
新しい魔法、やらいでか!
「行くぜ!"伏ろわぬ神の雨"!!」
……。
あれ?
不発?
表情のないギガントスカルがニヤリと笑ったような気がした。
その時。
幾つもの黄金の塊が天上を突き破りながらスケルトン達に降り注いだ。
「だあああーーーー!!?」
「ヴァオオオオオン!!!」
それは隕石だった。
朱と金に眩く輝く灼熱の隕石がギガントスカルを砕いていく。
幸いというかさすがにというか、術者の俺には降ってこないようで、俺も俺の体に乗っているゲッカも無事だ。
ギガントスカルの骨は灼け、胴は砕け、脚は潰れた。
『ガ、クカ……。ルナ、リア……サマ、今、ソチラヘ……!』
最後にひと際大きな星がギガントスケルトンの頭を砕いたところで全てのスケルトンが動かなくなる。
「ヴォオ!」
「やったか!」
パキン!
砕ける音と、いつもの通知音。
隕石が魔片を砕いたようだ。
【LV上限が解放されました】
「やったなゲッカ!」
「ヴァウ!!」
辺りが静まり返ったところで新しく覚えた魔法を確認する。
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伏ろわぬ神の雨 天属性 MP345
天から黄金の星の雨を降らせる災厄魔法。
黄金の光を見た者に精神干渉し、ランダムで混乱、恐怖、高揚状態にする。
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安定のMPバカ食い魔法だった。
うん知ってた。
「……この建物にも大穴あけちゃったな」
俺は空を見る。
そう、空。隕石は建物をぶち破って降ってきた。
赤い空だ。夕焼け時かな?
この世界で初めて見た空はどこまでも鮮やかな茜色だった。
……ところで遺跡壊しちゃったけど弁償とかしないとだめだったりする?
逃げていいかな。どうせここに戻ることはないだろうし。
骨だらけのフロアは精神衛生上よくないし先へ進もう。
骨部屋の奥、ギガントスカルが守っていた先にあるのは。
「外だああーーーーー!!!!」
「ヴァオーーーー!!」
目覚めて数日。ようやく俺たちは地上へたどり着いた!