27.成長結果
ほぼステータスの話です。
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どこかの場所。
「氷の神が、目覚めた」
深い闇の中に16の蝋燭に15の灯火が揺らめいていた。
たった今、16の炎が15となった。
神が眠りから覚めたに違いない。
それは彼らの信仰する神であった。
敬虔な老信者が消えた光を見て、焦点のあっていない目から涙を流す。
地上を去った女神カートルはいつか必ず舞い戻る。
そう信仰するカートル教に対して彼らが信じるのは地上を去るでもなく地上に取り残されたでもなく、大地と同化した16の神だった。
カートル教団からは邪神を信仰する異端者と見なされ教団は壊滅させられた。
だが彼らは地下でひっそりと信仰を続けている。
「旧き氷の神アフーム=ザー!」
「どうか、我らを導き給え」
敬虔な信仰者たちによる祈りの唄は闇の中でどこまでもこだましている。
◆
こんにちは。
王のスキルに目覚め、あれよあれよと王になることになった魔人です。
現在の進捗。
王様になって王の宣告をすることになった。宣告内容を考えないといけない。
それからゲッカがヴァナルガンド達のリーダーになった。
最初は面食らってたゲッカだけど、"各自好きにやれ、必要なら呼ぶ"と放任スタイルなので、リーダーになったからといって、これまでと特に変わったことはない。
俺たちの拠点は俺が主になったダンジョンをそのまま使うことになった。
迷宮核で天然の要塞にもできるしな!今はリゾート地になってるけど。
人間も魔族も簡単に来れない辺境にあるから厄介事とかそうそう起こらない……と思いたい。
そういえばこの辺の地名とかってあるんだろうか?
「この辺りは最果てと呼ばれています。と言っても人間領の未開の地数千キロをまとめてトゥーレと呼んでるんですけど」
「未開ってそれ人間領って言わなくない?」
しかもめちゃくちゃ広いじゃん。
「リティバウンド山脈の東が人間領、西が魔王領なので一応人間領です。たとえ最寄りの人間の集落から何千キロ離れているとしても」
お隣さんまで数千キロとかもうね。回覧板とかなくてほんと良かったわ。
現在俺たちはテントの中でゴロゴロしている。
今日は疲れてるからもう動きたくない!と言ったらクローバーが食事当番を買って出てくれた。夕飯はシチューだろうな。
手伝おうかと思ったらお疲れでしょうと休むよう促されたので甘えることにしてゲッカをモフモフ。
ゲッカと眷属の契約を結んだ時、俺の胸の魔片とゲッカのおでこが共鳴するように赤く光り、ゲッカのおでこに俺とおそろいの菱形の魔片が現れた。
眷属になると従者の体に何かしらの変化が現れるそうだ。
「そういえばカニスやスルトと連戦でステータス全然確認してなかったな。眷属になった変化でも見てみるか!」
「ヴァウ!」
眷属になるとステータスが加算されるらしいし、それに『狭間の王』や『常在戦場』についても確認したい。あと『異邦人』とかいうスキルも追加されたんだっけ。
というわけでゲッカのモフモフに身体を預けながらタブレットを開くと見慣れぬ文字が表示されていた。
【眷属契約ボーナスを選択しますか?現在の眷属LVは1です】
【はい】
【いいえ】
「契約ボーナスLV1?」
「ヴァウ!」
契約ボーナス辺りに触れると別の画面に変わる。
【眷属契約ボーナスLV1についての説明を読みますか?】
「お、頼む」
するとタブレットからずらずらと解説が流れてきた。
【眷属の契約に成功すると主と従者それぞれにお互いの力が流れ強化されます】
【従者は全能力に主の能力の10%が加算されます】
主の攻撃力が100だとしたら従者に10のボーナスが加算されるわけか。それも全ステータスだから、主が強いほど従者の受ける恩恵も強くなる。
【主側は従者のステータスを1つ選択して10%のボーナスを受け取ることができます。一度選択したら変更できません】
逆に従者のステータスも主に流れてくる。
従者と違ってひとつだけだけど、従者は1人の主しか持てないのに対して主は複数の従者を持てるからな。
当然だけどどちらかが死ぬと契約は解除されてボーナスによる能力も戻る。
「魔王ともなれば優秀な眷属がたくさんいるので配下の魔族を倒さないと勝負にならないそうですよ」
横から説明してくれるのはクローバー。
勇者がいきなり魔王に挑むのではなく、魔王の配下を倒してからなのは眷属を倒すことで上がった眷属契約によってステータスを戻すためだそうだ。
「ステータスは分かった。眷属LVってのは?」
「主従関係を深めるとLVが上がり、さらなる恩恵を受けられると聞きます」
仲良くなればいいのかな?ならそのうち上がるな!
【眷属契約ボーナスを選択しますか?】
さて、最初の質問の画面に戻ってきた。
選択すればゲッカの力の一部を受け取れる。ただし選択は一度きり。
正直攻撃面も防御面も特には困っていない。俺が困ってるのはMPと速度だ。
MPについてはもう魔法の消費量がバカ食いするからどうしようもない。
属性のLVを上げることで6割まで減らすことはできるのでこっちで対処を考えた方がいいな。
俺の現在のステータス、カモン!
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名前:ラグナ
種族:魔人
LV:16/16[LIMIT]
HP:2896/5302
MP:53/383
攻撃力 [LOCK]
防御力 [LOCK]
魔法力 [LOCK]
抵抗力 [LOCK]
速度 100
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【固有スキル】『異邦人E』『狭間の王』
【常時発動スキル】『武器解放SS』『常在戦場』
【所持スキル】『災厄魔法』『憤怒D』『神殺し』
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LVが最大になってた。
神だけあってスルトの経験値が多かったんだろうな。
ゲッカはどうだろう。
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名前:ゲッカ
種族:マーナガルム
LV:62
HP:828/2072(+530)
MP:108/539(+38)
速度:722(+10)
所持スキル:
『惨劇の狼』『悪食A』『月の加護B』
『解析A』『炎魔術B』『闇魔術B』『神速S』
『毒耐性B』
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おおう。
もうこんなに成長したのか。
「ヴァウ、アウアウ」
スルトの炎をかなり食べたもんな。
(+530)が眷属によるステータス補正値のようだ。うん、俺のHPの10%だな。
契約したことで主もゲッカのステータスの1つを選んで10%のボーナスを受け取れる。
やっぱり速度が欲しいな。速い敵に対応できないのが現状最大の弱点だし、MPは少し増えたところでどうにもならないくらい消費が激しいし。
タブレットから速度のボーナスを受け取ると選択すると、途端に体が軽くなった気がした。
【魔人ラグナの速度が100→172になりました】
一気に1.5倍以上になった。お手軽パワーアップだな!
それからクローバーも。
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名前:クローバー
種族:ケットシー
LV:41
HP:125/162
MP:8/561
速度:194
所持スキル:
『改竄』
『収納魔法』『亜空間S』
『博識A』『並行処理C』
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こっちも成長していた。
と言ってもLVの割にHPは相変わらず低いままだな、MPはガンガン伸びてるけど。
次はスキルを見て以降。
裂け目にいる間に追加、もしくは変化したスキルは4つだ。
スキルその1。
【『異邦人E』:異なる次元から来訪した者。魂と体が持つ記憶を再現する<このスキルはこの世界の生物には見ることはできない>】
死にスキルだった『異邦の魂』が変化したものだ。有り体に言えば異世界転生したよってスキル。
魂は俺の、体は200年前の魔人ラグナのこと。
カニスとの戦いの最中に『常在戦場』を会得したけど、このスキルがかつてのラグナが持っていたスキルを再現させたんだろう。
スキルその2。
【『狭間の王』:狭間の者の王の証。王の宣告を行えるようになる】
罰ゲーム……じゃない、王の宣告をするためのスキル。狭間の者って何だろう?
特に大きな効果があるようには見えない。
スキルその3。
【『常在戦場』:相手の行動を予測する常時発動スキル。戦闘経験が多いほど精度が上がる】
カニス戦で修得したスキル。
このスキルを得た瞬間カニスの動きがほぼ予測できるようになり、スルトのビームなんかも予期できてすごく有用だった。
戦闘経験が多いほど精度が上がるっていうけど、予測精度が異様に高かったことを考えると多分この体、200年前の魔人ラグナが経験した戦闘がカウントされてそうだな。
防御だけじゃなくて回避もできる完璧な魔人になってしまった。
スキルその4。
【『神殺し』:神を殺した者が持つ業。神と戦闘時、全ステータスが上がる】
イヤなスキル手に入れちゃったな。業とか言ってるし正直見なかったことにしたい。
神と戦う時ステータス上がるとか言ってるけどもう神と戦う予定なんかねーよ!!
「というか神殺しなんていかにもヤバイ響きじゃない?これタブースキルだったりしない?」
「いや神を殺した人なんてそうそういないので……。人間は女神を信仰してるので歓迎されることはないでしょうね」
「だよなーーーー」
ですよね、知ってた。
スキルはこんなところだ。
それから新しく覚えた魔法も確認だ。
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殃禍魔法・灰色の炎 氷属性 MP330
触れたもの全てを凍てつかせる炎を召喚する。
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シンプル!
いやスルトを凍らせたから強いのは分かってるけど。
この名前にスルトがえらく反応してたんだよな。
アフーム=ザーってヤツ、知り合いだったっぽいけど廃棄神の知り合いということは神の名前かな?
クローバーに聞いてみたけどクローバーも分からないみたい。なら考えても仕方ないか。
それよりこんなヤバイ魔法をまた使うことがないことを祈る。
殃禍とか言っちゃってるしな。