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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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26.迷宮の主になりました

 "そんなにルールが欲しいなら俺が王になって新しいルールを作ってやる!俺がルールだ!!!"

 "俺は何も変わらないぞ!皆で穏やかに生きる居場所を作るだけだ!"


 ……と。


 軽い気持ちで。

 それこそ売り言葉に買い言葉みたいなノリで言いました。


 それをこの世界のシステムが「おっ、こいつ王になる気あるんやな」とでも思ったのか『狭間の???』スキルが『狭間の王』に変化した。


 違う、違うんだ。そういうつもりじゃなかったんだ。

 いや、負けた王は死ぬべきだと言うカニスに、俺が王になって違うルールを作るとは確かに言ったけど。


 弱肉強食に生きたカニスは弱者を食う世界しか知らなかった。

 いろんなヤツがただ一緒に安心して暮らしていける、そんな優しい世界を見せてやりたい。

 だから俺は王になってルールを作ることにした。



 まぁ王になるって言ってもやることが大きく変わるわけじゃない。

 俺の目的はのんびり暮らすこと、これに行き着く。だから王うんぬんは良しとするよ?


 ただね、王の宣告とかいうこっぱずかしい演説だけがちょっと、あの、うん。

 アレやらなきゃダメ?


「自分はこういう王になるって宣言するだけですから気楽に考えて大丈夫ですよ。例えば戦う王とか、守る王とか」

「な、なるほど」


 どういう王になるか宣言か。うーん、俺ってどういう王だと思う?なぁゲッカ。

 ゲッカをモフモフしながら考える。


「王の宣告の形式なんですが。"王とは〇〇である。我は〇〇する者。我が信ずるは〇〇の道。我は〇〇する者なり"と高らかに宣告する決まりになっていまして。内容はラグナさんの任意で変えて下さい」

「ヤダーーーーーーーー!!!!!!!」

「駄々こねないで下さい!皆やるんですよこれ!!」


 このウルトラ恥ずかしい宣告を赤い月が出ている宣告期間中にやらないといけない。

 しかも期間はあと10日。

 何がイヤって演説中に赤い月に顔面が映されて大陸中に生放送されるってこと。


「こんなん公開処刑じゃん!!!!」


 クローバーの耳がピクリと動いた。

 そして気まずそうに軽く頭を掻きながらため息をつく。


「いや、正直ボクも恥ずかしいとは思ってますけどね……」

「だろ!?」


 やりたくない気持ちが爆発雨あられ。

 嘆いていると、ゲッカをモフっていたラティが顔をこちらに向けた。


「冗談かと思ってたんだけど、ラグナ氏マジのホントに王になるの!?」

「しょうじきやめようかとおもってる」


 クローバーにジト目で見られた。

 ハイハイ冗談だってやるよやりますよチクショウ。


「こうしちゃいられない!ただでさえ裂け目にスルトとニュースてんこ盛りなのに!ラグナ氏が宣告するよりも先に"魔人ラグナ、王の宣告に参加か!?"って見出しを書いて配信しなきゃ!!」


 ラティが体を起こせばリラックスしていたゲッカが急に動いたラティの気配に目を開く。


「そして実際ラグナ氏が宣告すればラティちゃんは今回の裂け目のニュースと併せて先見の明がある美少女レポーターとして評価うなぎ上り!高評価バチバチ押されること間違いなし!」

「お、おう」


 動画配信者って大変だなぁ。

 いや内容は裂け目とか宣告とかわりと普通に真面目なニュースなんだけど。


「帰って動画作る!!皆がラティちゃんを待ってる!!」

「え、おい。今か?」

「急ですね」


 ラティは元より荷物は少ない。もうジェットを背負って飛び出す気満々だ。

 見送りくらいするかと俺たちも迷宮の外に出ようとすると、思い思いにくつろいだり眠りこけていたヴァナルガンド達が起きて慌て出した。


『行ッチャウノ!?』


 行っちゃうのって。

 いや、見送りするだけだと伝えるとヴァナルガンド達は安心していた。


『魔人、スルト倒シタ』

『迷宮核持ッテル』

『魔人ガ迷宮ノ主。居ナクナラレタラ困ル』


「えっ」


 流れというか、持っていたから迷宮核使っただけなんだけど、これってやっぱ俺が迷宮の主になったんかな?


「迷宮の主を倒すと主が入れ替わります。このダンジョンは今ラグナさんを主と認識しているでしょうね」


 マジかよ。


『俺達、ココ住ム!ゴ飯オイシイ!』

『ベッド、気ニ入ッタ』


 旨い飯とフカフカベッドお気に召したようだけどキミたち災害獣って呼ばれるつよつよモンスターじゃなかったっけ。

 発言がただの堕落したわんこだぞ。


 迷宮の主といえばいつだったか、ダンジョンをマイホームにするって話をしたことがある。

 迷宮核があればリフォームし放題、そして主の強さに比例してダンジョンは広くなる。

 そしてここは人間領から遠く離れているから隠れ住むには悪くない。


「トラブルを避けるためにある程度人間の街から離れてるのはありがたいけど、あまり離れすぎても商人とのやりとりがなぁ」


 商人達とのやりとりは継続しているけど距離が遠いとその分買い出しが大変になる。

 商人との待ち合わせ地点に片道一ヶ月とかかかるんじゃない?


「ヴァウ!」


 ゲッカが自信満々に胸を張る。

 移動は自分に任せろ、どんな距離も走り抜けてやるという顔だ。


 そうだった、大きくなったゲッカは俺を乗せて走れるし脚も速い。

 移動をゲッカに任せて、荷物をクローバーに任せれば距離があっても商人に会えるし荷物も運べるのでは?

 あれ、いけちゃうな?それなら。


「よっしゃーー!今日から俺がこのダンジョンの主だ!!」

『ワーー!!』

『主バンザーーーイ』


 ヴァナルガンド達が器用に拍手している。


「ねぇアレ乗せられてるだけじゃない?」

「シッ!黙っておきましょう」


 ラティとクローバーが小声で話してるけど聞こえてるからな。

 ちゃんと考えて決断してるぞ!!


『主トボス、ココニ住ム。安泰ダ!』

「主とボス?」


 主は俺のことだな。じゃあボスって?


『ゲッカノ兄貴!!』

「ヴァーウウゥ!?」


 突然の白羽の矢にゲッカが驚く番だった。


挿絵(By みてみん)


 これまで狼のボスはカニスだったがカニスが眠ったことで新たなボスが必要になった。

 そこで王狼カニスの子であり、スルト戦の功績者であり、スルトを倒した俺の相棒であり、狼の頂点マーナガルムとなったゲッカをボスにしようとヴァナルガンド達の間で満場一致で決まったそうだ。ゲッカの了承も得ずに。

 確かにヴァナルガンド達から見ればボスにしたい要素が役満レベルで揃ってる。


『マーナガルム、狼ノ頂点!』

『ゲッカニ忠誠ヲ!!』


 ゲッカは困惑している。うん……頑張って欲しい。

 でもこの迷宮にヴァナルガンドが住みつくのは悪くないね。


 俺も出かけるからいつもこのダンジョンにいるわけじゃない。

 迷宮を留守にしている間に迷宮核を奪われる可能性だってある。

 核を魔物に奪われたり冒険者なんかに持ち去られたら全部終わり。でもヴァナルガンド達がいれば防いでくれるだろう。番犬としては申し分ない。


「ご飯は用意しよう。代わりに俺たちが留守にする時は迷宮核を守ってくれるか?」

『任セテ!!』


 食欲優先かい。まぁいいけどな。


「これで迷宮を離れても大丈夫かな。ちょっと心配だけど」

「災害獣が22体近くもいるんですから余程じゃない限り心配なんてないですよ」

「や、なんか威厳がないっていうか普通の犬っぽいなって……」

「……ヴァウ、ガウ!」


 俺からみればどんな魔物もペットだって?それはそう。




 さて、俺たちは改めてラティを見送りに迷宮の外に出る。

 外に出ると、入ってきた時と同じ一面の荒野。あるのは魔物の骨と岩山くらい。

 殺風景なこの場所を住みやすい場所にしていかないとな。


「それじゃもぐもぐ夢の旅人ラティちゃんはもぐラティちゃんを待ってる人たちの所に戻もぐもぐもぐ」

「おう、食ってから言おうな」


 お土産に肉の串焼きが欲しいと言うので持たせたんだけど既に食っている。

 お別れなのに最後までしまらないなぁコイツ。

 

「今度はもぐもぐラティちゃんがお土産もってくるよごっくん!それじゃあね!!」


 空へ飛んでいくラティに俺たちも手を振って送り出す。


「最後まで自由なヤツだったなぁ」

「ヴァウ!」


 俺の言葉に頷くゲッカ。

 なんかラティちらちらこっちを見てるな。またコートの中を見られないか気にしてるみたいだ。


「……いや、空飛ぶならあのスカートみたいな服をやめた方がいいんじゃないか?」


 俺も腰布の下はけてないから結構気にする気持ちは分かるけどな。




 ラティを見送った後、先ほどまで話していた王の宣告について考えてみた。

 どんな王になるか。俺はどんな王になりたいんだろう。


「魔王エクスヴァーニは蹂躙する王、王狼カニスは生きる王だと宣言していました。蹂躙も、生き延びることも王の素質と言えます。彼らなりの王の像、王としての信念なのでしょう」


 戦で蹂躙すること。生きて一族を守ること。

 ベクトルは全く違うけれども確かに王のなすことと言えるだろう。


「王とは何か。考えておいてくださいね、狭間の王ラグナさん」


 ……思ったよりも、難しい問いを突き付けられてしまったようだ。

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