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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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25.眠る理由

 涼し気な風が吹く。

 目に痛いほどの赤と黒の光も、身を焦がす程の熱気もここには無い。


『多くのものを失ったな』


 この戦いで4体のヴァナルガンドが命を落とした。

 そして自身の欠けた前脚がもう走れないことを切実に語っていた。

 

『我は戦うことしか知らなかった』


 これまで当たり前のようにできたことが出来なくなった。

 寂しさはある。けれども残念だとは思わない。


『だが、我が仔は戦い以外のものを見て育ったようだ。この世界に違う景色があるなど想像もしなかった』



 どこまでもどこまでも駆けていくのが好きだった。

 けれどもいつしか大地は狭くなっていった。


 やがて戦いに明け暮れるようになった。

 そして進化して、そこで一番の獣となった。


 それでも戦いは終わらなかった。

 戦いのステージが上がっただけ。強くなれば強い敵が現れる。


 安寧の居場所が欲しかった。


『ゲッカ、良い名を貰ったな』

「ヴァウ」


 ゲッカとは、"月の光が差すところ"という意味だと魔人が教えてくれた。

 マーナガルムに相応しい名前だと思い、そして安堵した。

 安堵したら眠くなった。


『ラグナよ、我が仔を頼んでもいいだろうか』


 答えなど聞かなくても分かっている。

 甘く、優しすぎる男だ。


 案の定。

 もちろんと男は言った。


 ドラゴンは悠久とも言える寿命の大半を眠って過ごす。

 圧倒する力を持ちながらその時間を眠りに費やすドラゴンに、軽蔑とも呼べる感情を抱いていた。

 眠る暇などない。走り続けなければならないとカニスは思っていた。


 だがこの時、走り続けてきたヴァナルガンドはこの日初めてドラゴンが眠る理由を悟った。

 走り続けて疲れた。


 疲れたら休息も必要だろう。


 少し眠ろう。

 次に目覚めた時、風がどこまでも続くように祈りながら。


 王狼カシスは目を閉じる。


「おやすみカシス」


 声が聞こえた。

 眠る時にこんなに穏やかに声をかけられたのはいつ以来だろう。

 そういえば、自分はそのようなことはしたことがなかった。

 次に目覚めたら、優しく声をかけてみるのも悪くない。


 そう思いながら、カニスは意識を手放した。







「ゲッカ、思ったんだよ。この世界には休める場所がないんじゃないかって」


「穏やかに生きるというのは、こんなにも難しい事なのかな」


「ヴァウ」






挿絵(By みてみん)



 ◆





 スルトを倒して迷宮核を手に入れた。手に入れてしまった。

 迷宮核は俺をこのダンジョンの主だと認識した。


 迷宮核はすごい。

 神サマが光あれと願ったらそのようになったという話があるけれど、俺がこんな環境がほしい!と願ったらそんな環境になった!





「ナンデスカ、コレ」


「ヴァウ……」




 青い空、白い雲。

 夏だ!海だ!バカンスだ!!


 ヤシが生え、海が広がり美しいビーチが広がっている。

 そして海を臨む高台には天然の温泉だ。

 完璧だと思う!


 ……んだけど。

 ゲッカはため息をつき、クローバーは信じられないものを見るかのような顔をしている。

 こんなやりとりも久々だな!


「あっそうか、クローバー風呂苦手だったよな。でも他にも休めるところあるから自由に使っていいぞ」

「んなことはどーーーでも良いんですよ!何ですかこの環境!?」

「おれがかんがえた、さいきょうのだんじょん!!」


 砂浜で日光浴をしてもいい。

 海で遊んでも、木陰で昼寝してもいいし、ヤシの実をジュースにして飲んでもいいぞ!


 そう、ここはリゾート地!

 地球にいた頃ネットとか旅行パンフレットとかで見て一度来てみたかったんだよ。

 迷宮核の力であっという間に溶岩地獄からリゾート地にリフォームが完了した。

 やったね!


「そりゃ迷宮核は主が望んだ環境を作りますけどね……いいのかなダンジョンがこういうので……」


 クローバーがため息をつく。何言っても無駄だと諦めたようだ。


「皆疲れてるから休めるところが欲しいなーって思ったらこうなったんだよ」

「大きいお風呂ある!ラグナ氏一緒に入ろーーー!」

「入らねーーーーーよ!」


 ヴァナルガンドたちは思い思いの場所でくつろぎ始めている。

 眠るヤツ、思う存分食べるヤツ、仲間とじゃれあうヤツ。

 こうしてみるとかわいい犬だな。


 俺?ゲッカをモフモフしてるよ。

 ゲッカは俺よりも大きくなったから全身預けられるようになった。

 全身でモフモフを堪能できる。出会った頃は片手で抱えられるくらいだったゲッカがこんなに大きくなるなんてな。


「ところでカニスはどうしました?」

「ああ、長い眠りについた。……いやそういう意味じゃなくて、ヴァナルガンド達が言うには冬眠みたいなモンだってさ。いつ目覚めるかも分からない。数ヶ月か数年後に目を覚ますかもしれないし、もしかしたら数百年後かもしれないって」

「そうですか」


 カニスは迷宮の最奥で眠っている。

 ここなら静かに眠れるだろう。


「いつになるかは分からないけど、カニスが目覚めた時、みんなが笑って過ごせるティルナノーグを見せてやりたいんだ」

「ヴァウ!」


 ゲッカが喜んでいる。


「お、やっぱゲッカも嬉しいよな。親父さんだからな!」


「えっ」

「ヴァ」

「え?」


 え。

 何?


 クローバーは残念そうな物を見る顔をしてるしゲッカに至ってはコイツマジかみたいな仕草。

 待って、どうしたの。

 いつもなら教えてくれるじゃん。


「ヴァウ……」

「え?なになに?今ラグナ氏おかしなこと言った?」


 待って。ラティがそゆこと言うと間違えた感じがすごい加速するんだけど。


「カニスってメスですよね?」

「ヴァウ……」


「「えっ」」


 俺とラティが同時に声をあげた。


 えっウソでしょ。

 いやむしろなんで皆知ってるの。


「へ!?そうだったの!?なんで皆ラティちゃんに教えてくれなかったの!?」

「なんでと言われましても……」


 仲間がいて良かった。いやよくないんだけど。

 ごめんゲッカ。

 親父さんかと思っていたらおふくろさんだったんですね。

 ごまかすようにいっぱい撫でつつモフっていると、ラティが目を輝かせた。


「いいなぁ!ラティちゃんもゲッカちんに触りたい!」


 ゲッカは胡乱な目でラティを見てる。

 うーん、ここまで来るのに協力してくれたからちょっとだけ許してやってくれるか?

 いい?

 いいか。ヨシ。


 よし、ラティも堪能していいぞ。




「なんだかんだでラティには世話になったな。これからどうするんだ?」

「ちょっと休んだら帰るつもり!帰ってニュースまとめないと!ニュースはスピードが命!」

「一応聞くけど、ニュースになって俺たちの居場所が知られて、とかないよな?」

「ラティの国はよほどのことがない限り地上には干渉しないよ!安心して記事にされたまへ!」


 ラティの言葉を信じるしかないか。変な奴だけど悪い奴じゃないだろう。

 数日間の付き合いだったけど、なんかまた会いそうな気がする。

 ツインロッドがある限りな。



 まぁゲッカとこうして再会できたし眷属にもできたし!長かった戦いは終わったことだし、今日はゆっくり休んで……。



「ラグナさん、今後の話なんですが」

「えーーーー!?今日はもう休んで明日にしようぜ!?本日の営業は終了しました!」

「またワケの分からないことを。最低限方針だけでも決めさせてください。明日ラグナさんMP疲れで動けるか分かりませんし」


 そういえばクローバーが1日に何度も改竄した翌日、MP使い過ぎでずっとぐったりしてたな。

 今日一日で災厄魔法を何度も使ったし、新しい魔法も使ったから明日を迎えるのが怖い。


 話と確認は今日のうちにした方が良いとクローバーが食い下がる。

 話し合いだけならまぁいいか。



「まず変化した『狭間の王』のスキルと"王の宣告"の話なんですけれど」

「ギャーー!」


 しょっぱなから聞きたくない話キター。

ブックマーク100越えておりました。

読んでいただいてどうもありがとうございます!

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