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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
74/163

23.ラグナの作る世界

『キャキャ、ゲキャキャ。ここまで長かった。ムシケラのように這いずりながらイシザルに化けるだけの力を取り戻し、猿王に取り入って猿と犬共が潰し合うのを待ってたんだからな』

「何者だお前!」


 解析を開く。


-----------

 名マ:____

 種族:タヒヲ?

 ??蝗:9594

 巫ケ:昜イ4(救済)

 女:?ォ|564 テ?

 ハ : __?

 ドコ?体?ガナ 1

-----------


「うっわ気持ち悪!なんだこりゃ!?」


 見るからにバグっている。


「ヴァオオォ!!」


 ゲッカの火炎がイシザルの形をした何かに直撃した。

 だがソイツは炎に包まれながらも口を三日月型に歪めて笑う。


『グキャキャ、全能なる我々にムシケラの炎が効くものか!』


 イシザルの体がぐにゃりと歪み、迷宮核を取り込んで赤黒い液体状に融けていく。

 胴だったものは風船のように膨張し、体の表面には気泡が沸々と浮かんでは爆ぜる。真っ黒な泥に発光する体は赤と黄の油を混ぜたようだ。

 やがてイシザルは溶岩を纏う巨人へと変貌を遂げた。


『ぎゃは、はは ははは! はは  は!よ  うやく !ようやく 仲 間のモとへ行 ける! ! >


 その言葉は途中からは生物が発する声と呼べるものではなく、空間に沸く異音へと変わる。


<長 かっ た! 今、スルトがそちらに行くぞ!>


挿絵(By みてみん)


「スルト!赤い巨神の名前です!」

『廃棄神か!!』


 カニスが忌々しげに叫ぶ。


「廃棄神?」

「神々が地上を去った際、何らかの理由で地上に取り残され地の底で眠ったと云われる神の総称です」

「ハァーーー!?なんでそんな奴がこんなトコにいるんだよ!」

「ボクが知りたいですよ!!」


< ム シケラ  は 我 を そ  う 呼ぶ のか  ! ハイ キな ど、 笑 わせ る>

「!?」


 脳と心臓を一度に鷲掴みにされ揺さぶられるような声。

 それだけスルトは強大で圧倒的だった。


<わ  レは 、ずっ と待っていた チ カラ  を 得られ る 時 を!>


「ヴァウゥ……」

「ううぅぅう!頭が!」


 耳を塞いでも目、肌、全身がスルトの不快な異音が聞こえて頭がグシャグシャになりそうだ。

 意味がないと分かっているけど耳を押さえずにはいられない。

 

「迷宮核をどうするつもりだ。目的は何だ!?」


<仲間 タチ のトコロ へ行く>


「仲間?神々のことか?」


<ソウ 、 ソノタ め のセ カイ 。 ヨロ コべ、 地 ジョ ウ の命 スベ テ を く べて  神 の セ カイ への ネ ンリ ョウ  に する>


 頭がガンガン揺さぶられるけど、『この世界の命を燃やして神の世界へ行く』と言っていることは分かった。

 いや分かってたまるか。

 信じられんほど迷惑なこと言い出したな。何だよくべるって。


<手 ハ ジめに ここ を スベて ワ レ で満 タす 。 おま えタ ち ヲ、もやし ワ レを おお き く する !>


「神なら迷宮核だの他人に頼らないで自力でどうにかしやがれ!」

「もうまともな思考は残っていないんです!壊れた神なんですよ」

『同感だ。また廃棄し、地の底へ送り返すしかない』


 クローバーとカニスがスルトに拒絶の意思を示す。勝手に薪にされちゃたまらないよな。


 その時、今度は足元が揺さぶられた。


「ま、また地震!?」

「ダンジョンがスルトの望む形に変貌しています!」


 迷宮核の力で迷宮が歪み、スルトの願望を反映していく。

 床が熱くなり、続いて天井も壁も床も全てが灼熱の溶岩と変化していった。


<どウ し た ムシ ケ ラ ! モえ ろ  ヨロ コ べ  !>


『全能を自称するだけの支配者気取りが!調子に乗るな!』


 熱した鉄板のように熱くなっていた足場がカニスの冷気によって冷やされる。


「た、助かる!」

『フン』


 しかし足場はすさまじい勢いで白い水蒸気を放つ。

 氷の下で溶岩が俺たちを飲み込もうとしている。


『魔人、手を貸せ』

「そのつもりだ。そら」


 俺はリュックに入れていた手持ちの食料を差し出す。

 例によって肉が中心だ。


『ぬ……?』

「腹が減っては戦はできぬって言うだろ」

『フン、挨拶代わりに食ってやる。よこせ』


 カニスは3本の骨付き肉を一口で丸呑みにする。やっぱお腹空いてたんだな。


<がは はは は ! はは  は ! もウ すぐ だ! 天上 の クニ へ !>


 溶岩そのものとなった天上から溶岩の大岩が落下した。

 思考は破綻しているがスルトの力は紛れもなく本物だ。

 武器を使い切ったから体で防ぐしかないかと思っていたら炎を纏ったゲッカが溶岩の弾丸を脚で弾いた。


「ヴァウ!!」

「ゲッカ!助かった!」


<あ  ああ 楽し ミ ダ ! ム  ダに あが く  ムシ ケ ラ のハナ シ  ナ カマに したい>


「うるせぇ!!」


 しかし魔人の体が頑丈とはいえ溶岩の塊を物理的に抑え込むのは無理だろう。


『同胞たちよ、攻撃せよ!この大地を奪われるわけにはいかぬ』

『ガアァアアアウウウウウウ!!!!』


 ヴァナルガンド達が次々にスルトに向かって氷を放つ。

 氷はスルトの体を僅かに冷やして消える。文字通り焼け石に水だ。


『駄目ダ!牙ガ立タナイ!』

<そぉ ラ ! ! 吞み 込 マ レてし ま エ!>


 溶岩の壁が押し寄せる。

 噎せ返るような熱気と発火した硫黄で息が苦しい。溶岩山塊が飢えたドラゴンのようにぱっくりと灼熱の口を開いている。


 状況を打開するために俺も魔法を撃ちたい。

 水魔法は効くだろうか。いや溶岩で熱された水に俺たちも巻き込まれるな。ナシ。

 撃つなら氷魔法、氷魔法だけど……。


「MPが足りねぇ!」


 さっきの地震で俺の残りMPはわずか41。バカ食い燃費はこういう時に困る!


 カニスは冷気で足場を凍らせつつ溶岩でドロドロに溶け醜く歪んだスルトの顔面に氷柱を放つが、刺さる前に蒸発して決定打にはならない。

 カニスが力尽きれば足場の氷が解け俺たちは焼け死んでしまう。


「ああんもう!ホントは地上に介入しちゃいけないけどコトがコトだからね!ラグナ氏、今こそラティちゃんを使って!」

「何か案があるのか?」

「ラティちゃんは万能魔法使えるって前言ったよね!」


 言ったっけ?

 あ、そういえばここ来る前にステータス見せてもらったな。


「ラティちゃんは魔法でMP付与できるんだよ!」

「え!?やるじゃん!頼む!!」


 そういえばユーリスと同じ『万能魔法』を覚えていたな。ユーリスもMP譲渡ができた。


「サインはあとあと!さぁいくよ!受け取ってラグナ氏!ラティちゃんの愛を!!」


 サインはいらないし愛もともかくとして、ラティの力が流れ込んで来るのは助かる!

 ……、ん、んん?


 MPチェック。


-----------

 MP:86/371

-----------


 うん。

 確かにMP増えたね、86だね。

 ……え、これだけ?


「ハァッハァッ!これでどう!?」

「悪い、全然足りねぇ」

「ええ!?ラティちゃんのMPありったけ譲渡したのに!?」

「えーーー!!???」


 これで全部……え、ショボ、いやごめん悪口言う気はないんだけど。

 そうだ、思い出した。ラティのMPは最大45だ。


「ラティさん!ボクのMPもラグナさんに譲渡できますか!?」

「で、できる!できるよ!任せて!」

「それだ!」


 ラティが名誉挽回という目でクローバーに掴みかかる。

 ヴァナルガンド達があたふたしてる俺たちを横目で見てる。

 ごめん、いやごめん。もうちょっと待って!クローバーのMPは400以上あるはずだから!


-----------

 MP:258/371

-----------


「こ、これで全部?」

「その、召喚魔法で結構持ってかれたのと何度も使った収納魔法で減ってて……」

「あ、あー……」


 俺もホイホイ収納頼りまくってたわ。

 武器を1つ出すのに収納魔法を出すのとしまうので計MP4使用する。

 いくらMPが豊富でも塵も積もればでなくなる。


「いや、まだだ!スキルポイントを氷にありったけ振る!」


 相手は神。出し惜しみしてられない。

 確か属性LVを上げれば消費MPが下がるはずだ。

 残しておいてよかった!残りポイントは5だ。


【氷属性のLVが2になりました。消費MPが減ります】【深く昏い国 MP330→MP297】

【NEXT:消費MPが減ります】


【氷属性のLVが3になりました。消費MPが減ります】【深く昏い国 MP264→MP231】

【NEXT:威力が上がります】


【氷属性のLVが4になりました。威力が上がります】

【NEXT:消費MPが減ります】


【氷属性のLVが5になりました。消費MPが減ります】【深く昏い国 MP231→MP198】

【NEXT:威力が上がります】


【氷属性のLvが6になりました。威力が上がります】

【NEXT:???】


「これなら一発撃てる!」


 消費MPが減った上に威力も上がったみたいだ。

 威力は元々凄かったから差とか分からないが今の状況なら威力は高い程良い。

 なんか意味深な???表記があるからあと1振りたいところだけどもうポイントは無い。


「行くぜ氷属性の……"深く昏い国(ニヴルヘイム)"!!」


 指先から心臓まで体がどこまでも冷たく遠くなるイメージを乗せて魔法を放つ。

 何千度の熱を持つ溶岩を永久に凍り付かせるだけの冷たさ、熱を奪い光を遮る冷たい冬をここに呼べ!


 灼熱の溶岩に一陣の冷たい風が流れ込み、目が痛いほどの溶岩光の空間に暗闇が訪れ、溶岩が凍りつく。

 この魔法は一度発動すれば俺が消さない限り半永久的に続くからもう足元も大丈夫なはずだ!



<ム シ ケラ が  無  駄 な こと  を ! !>



 スルトの体の大部分が凍りつくが、スルトは冷え固まって岩石となった腕をギシギシと嫌な音を上げながら伸ばしてくる。

 砕けた氷の隙間から水蒸気が上がり、凍ったはずの岩石の腕がまた赤黒く発光する。


「スルトの火力が災厄魔法を上回ってます!」

「お、おい!半永久的に氷の世界にするんだろ!?もうちょっと頑張れよ"深く昏い国(ニヴルヘイム)"!?」

『一発では足りん!まだまだ撃ち込め!』


 災厄魔法ってそんな連発するような魔法じゃないと思うんだけど!

 でも今は相手が曲がりなりにも神だ。やるしかない。


「MP分けてくれればもっと行けるぞ!」

『魔人!モッテケ!』

『オレノ魔法ハ役ニ立テナイ!使エ!!』

「ラグナ氏!MPチャージいくよぉ!!」


 自分たちの魔法では敵わないと悟った狼たちが寄ってくる。

 ラティの力でガンガンMPが流れ込んで来るからまだいけそうだ!


「もう一度だ、"深く昏い国(ニヴルヘイム)"!!」」


 2度目の氷魔法。

 氷魔法は発動地点を中心に氷のフィールドを作り上げる魔法だから、二重にすればより威力が上がるはず。


<ジャ  マ  をする な! >


 氷がスルトの腕に纏わりつくがスルトは強引に炎の腕を叩き下ろす。

 冷気の世界にヒビが入っていく。


「さ、災厄を砕くだと!?」


 災厄魔法が破られるなんて初めてだ!




<ア ハハ ハ ハハ 。 ハ  は ハ ハは ! !>


 上も下も右も左も溶岩と化したダンジョンでスルトの笑い声が響く。

 勝利を確信している笑い声。いや、初めから敗北など考えていないのだろう。


 俺たちにより絶望を与えるためだろうか、それともおかしくなってたが故か。

 災厄魔法をまるで玩具を与えられた幼児のように弄び壊していく。


『……ここまでか』


 カニスが歯噛みする。

 ダンジョンそのものが溶岩になっているのが厳しすぎる。

 カニスが一歩前に出る。


『ここは我が受け持つ。貴様らはここから去れ。』

「おい待て!何のつもりだ」

『我は貴様に負け、この裂け目を拠点とする野望も潰えた。どのみちここで終わる筈の命』


 カニスはスルトを正面から見据える。

 堂々とした立ち振る舞いだが体中傷だらけだ。


『我がスルトが取り込んだ迷宮核を奪い、このダンジョンが消えるまで食い留める。そうすればいかに奴でもダンジョンと共に消滅する筈だ』

「それお前が無事のビジョンがミリも見えないじゃねぇか!」


 ついでに言えば成功のビジョンも見えない!


『だから甘いと言っている。かつて我が憧れた魔人とは別の考えを持つ魔人よ』

「昔の俺は関係ないだろ!」

『弱者と共に歩む、か。我の世界にはなかった考えだ』


 熱気は勢いを増す。

 カニスと俺の魔法で辛うじて足元の足場は維持できているものの、スルトはじわじわと溶岩の面積を増やしていく。

 巨大で醜いマグマの顔が、他に手のない俺たちをせせら笑う。


『我々は弱き者を食らう。そういう世界を生きて来た。だが貴様がそうではないようだ』


 こんな時なのにカニスはどこか笑っているようだった。


『真に誰もが共に歩める新たな世界を望むなら、我が仔らを貴様の世界へ連れて行ってやってくれ』


 ゲッカを見て穏やかな顔をするカニス。

 その前脚には魔片が輝いていた。


 まだ終わりじゃない。魔片がまだ1つあった!


「答えはノーだ!俺の世界、お前も連れていくぞ!!」

『敗北した王に残るのは死のみ。それが古の王たちが決めた決定だ!』


 大陸を支配し続ける人間の王は全ての敵の王を殺し続けてきた。そして200年前、魔人ラグナもまた王を殺した。


 戦いにおいて王の姿は戦の象徴。王が立ち、戦えと指揮をとる限り戦いは終わらない。

 戦いの最中か降伏した後かは状況によるが、大抵は王の首をはねて戦いは終わる、けれど。


「そんなクソルール知るか!!ほっとけほっとけ」


 そんなルールはノーセンキューだ。

 カニスはどこか疲れたように言う。


『大陸戦争のルールに則って名乗りを上げた我がここで決まりを無視するのは筋が通らぬだろう』

「そんなにルールが欲しいなら俺が王になって新しいルールを作ってやる!俺がルールだ!!!」

『自分が何を言っているか分かっているのか!?』

「意地でも俺はお前たちとここを切り抜けるぞ!ここで死ぬだけの覚悟があるならカニス、お前の魔片をくれ!ダメかもしれないが……あと1つで状況を変えられるかもしれない!」


 スルトに氷魔法は効いている。ただスルトの前に威力が足りないだけだ。

 それならさらにレベルを上げるしかない。

 氷魔法のレベルをあげた時、【NEXT:???】という表記が出たからこれまでと違うことが起こるはず。そこに賭ける。


 話をしている間にもダンジョンの温度は上がり続ける。

 迷いはある。氷魔法全振りで良かったのか、他属性でどうにかできたんじゃないか。

 スキルを振っても実際に蓋を開けてみないと何が起こるか分からない。

 それでもこのまま全滅するくらいならやるしかない。


『……王と言いながら頭を下げるのか、貴様は』

「王だのなんだの、こんなのただの言葉遊びで戯言だ。俺は何も変わらないぞ!俺が目指すのは皆で穏やかに生きる居場所だ!」

『フ、未だかつて、戯言で王を名乗る王などいただろうか』


 カニスは自身の前脚に噛みついて魔片ごと肉を千切った。

 血が流れ、前脚の爪先がかろうじて僅かな肉で繋がっているものの、まともに歩けないのは明白だ。


 プっと口から食いちぎった脚の一部を吐き出す。血まみれの肉に魔片が貼りついている。


『使え。我らと歩もうと言うのなら、この世界に抗う覚悟を我らに見せてみろ、魔人ラグナ!!』


 もう戻らない脚。

 これはカニスなりの覚悟なんだろう。

 走り続けてきたカニスが脚を失う意味は如何ばかりか。


「カニス、確かに受け取った!俺は神々(ルール)に反逆する!」


 -ピコン-

  

 ん?

 ここでタブレットに通知?


【王を名乗ったことで『狭間の???』が『狭間の王』に変化しました。】

【王の宣告を行えるようになりました。】



「は????」

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