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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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20.絆の勝利?

 昔、大地は今より広かった。


 ある時、大地を管理する全能なる者が現れた。

 2本の足で歩く生き物が、全能なる者と共に生きるようになった。


 それから天の炎がこの地上を幾千廻る程の時間が経った。

 祖父から親、親から子、子から孫へ気の遠くなるほど長い時間をかけて伝えられてきた話だ。

 カニスもまた両親から自由だった頃の話を聞いていた。

 

 いつからだろう、ケモノが自由でなくなったのは。


 カニスの願いはただひとつ。

 再び自由の世界を取り戻し、同胞達と大地を駆け抜けること。


 ◆



 迷宮の最奥の手前、開けた広場。

 迷宮核は目と鼻の先。二つの王が対峙しながらこの部屋へと到達した。

 狼王カニス率いる荒野の狼27体とそして猿王スン率いるおよそ200体のイシザルの戦いが始まった。


 疲弊したヴァナルガンドにとっては格下のイシザルといえども油断はできない。相手は奇襲や奇策を得意とする連中だ。

 イシザルを率いる猿王スンは手段を選ばない策略家でもあった。



 カニスの目線の先、スンの棍が若いヴァナルガンドを打ちつけた。

 疲労が蓄積した狼の目は俊敏な猿の王の動きを捕らえるどころか焦点を合わせることすら(あた)わず、続けざまに3、4の打撃を受けて口から血を噴き出す。

 最後にスンは棍を口の中に突き刺し、喉から首へ、内側から貫いた。


『これが頭を使うってことだ王狼カニス』


 棍をくるりと回しながら不敵に笑う。

 赤い衣服を纏い風を操る猿王は王に相応しい実力者だ。


『可愛い弟達よ、やってやれ!』


 スンが跳躍すれば背後にいたイシザル達が大石を投げつける。

 投擲スキルを持ったイシザル達の投石は見た目以上に重く、睡眠と食事を満足にとれていないヴァナルガンドは苦戦を強いられる。

 天上に貼りついたスンが上空から風魔法を仕掛けるも、カニスの氷魔法が分厚い壁となり風の刃を防ぐ盾となる。


『猿共が!』

『そうこなくては!狼の王!!』


 カニスは二度と心臓を鳴らすことのない同胞を見る。

 種の繁栄を信じてついて来た若き荒野の狼だ。


『猿共を食い千切れ!』


 カニスが号令を出すや否や、狼達がイシザル達に飛びつき食らいついていく。


『汚ねぇ口で噛みつくんじゃねぇ!』

『戦いに浄不浄もあるものか!』


 歯茎を剥き出すスンの攻撃がカニスを襲うもカニスは作り出した氷の刃を咥えてスンの攻撃を受け止めた。


『ギャウアアア!』


 突如起こる仲間の悲鳴にカニスの意識は奪われる。

 その一瞬にスンの風が存分にカニスの体を裂く。

 血が白い体毛と地面を染める。


 この程度ならまだ動ける。だが仲間にそれより何があった?

 カニスが歯を食いしばりながら辺りを見渡せば、仲間が痙攣していた。


『万が一もあるからな。お前らに噛みつかれてもいいように猛毒の皮を着込んでる。そんなデカイ体でずっとまともに食えてなくて、辛いんじゃないか?今ラクにしてやるよ』

『ハッ……。食うものが無いだと?貴様の目は節穴か』


『――な!?』


 カニスは事切れた仲間に食らいついた。

 赤黒にまみれた臓物がこぼれ、体を汚すのも構わずにカニスは残らず口に含めばスンが驚愕する。


『仲間を食いやがった。堕ちたか狼王』

『貴様には理解できんだろう。我らヴァナルガンド、食らうほど強くなる種族。同胞の魂は我が血肉と1つとなる』


 忌々しげに顔を(しか)めるスンの顔を見れば、緊張感と奇襲で眠れずまともな食事にありつけない苛立ちも幾分溜飲が下がった。

 腹を満たすには程遠いが目の前の憎い猿を倒すには十分だ。仲間の血肉と魔力はよく馴染む。ヴァナルガンド、敵と味方の血で川を作ると言われた災いの一族なればこそ。


『その呪われた血筋、オレが終わらせてやる!』


 風を巻き上げ軽やかに宙に舞うスンは無数の風の刃を放つ。

 カニスは守りの氷を解く。


『馬鹿め、防がないのか!?』

『貴様を倒すことに集中するだけだ!』


 風刃はカニスを切り裂き続ける。

 風の猛攻の中、カニスは静かに魔法を練り上げた。一族が頂へと至る道がため。


「ヴァウ!」


 額に模様がついた黒い狼が宙を舞うスンに飛び掛かりかぶりついた。

 肉がブチブチと嫌な音をあげ骨が軋む。スンの額に脂汗がにじむ。

 毒の衣を纏っているのに構いもしない。おそらく『毒耐性』のスキルを持っているのだろうとスンは察する。


『この犬野郎!』

「――よくやった、我が仔よ」


 黒狼を跳ねのけたその瞬間、スンはカニスの圧倒的な氷の気配を察知した。

 回避をしなければ、死ぬ。


 けれどもスンが回避をすることはなかった。

 気配を察知した時には、氷の槍がスンを貫いていたのだから。


 体が氷に貫かれている、そう思った時には彼の体の内側は冷え切っていた。

 血が凍り付き、心臓が凍てつく。

 カニスの動きはスンを凌駕しており、猿の王は自分の死を理解しないまま全ての動きを停止した。


『ガァッ、ハッハァ!』


 風の刃で血をしとどに垂らし、地面を赤く染めながらカニスは猿王スンの首を食いちぎる。


 王の勝敗は決した。

 一瞬の安堵を覚えるが、迷宮核を得るまで油断はならない。



「カニス!追いついたぞ!」


 それは今カニスが最も聞きたくない声だった。

 かつてカニスが若かったころ、決して敵わないと絶望した男。

 だが絶望と同時に羨望した。

 あれこそ頂に至る力、一族を守り頂点へ昇華させる力だと。


『魔人!こんな時に……!』


 迷宮核は目の前なのに。仲間達も限界が近い。

 

『貴様を倒さねば我らに栄光はない。来い、魔人ラグナ。引導を渡してやる』


 口の中にはまだ愛する仲間の肉が残っている。

 血の一滴まで飲み込み、カニスの目は血走る。

 


 ◆



 カニスに追いついたと思ったらなんか、ものすごく空気が悪かった。

 めちゃくちゃ歓迎されてないな、無理も無いけど。

 狼達は猿の王と戦っていたようで、勝敗は決していたがヴァナルガンドも何体かやられていた。


『凍てつけ!』


 カニスの放つ氷の槍を武器ミサイルで迎撃する。


「危ねぇな!?」

『我は貴様の死神となる。貴様も、貴様の仲間の命も食らうだろう!』

「そいつぁ困る!」


 カニスが次々作り出す氷柱を武器ミサイルで潰していく。

 残っていたイシザル達が逃げ惑うがヴァナルガンド達は追う気は無いようだ。

 それだけの力も残っていないのかもしれない。


 見るからにヴァナルガンド達は疲弊しているしカニスも手負い、ゲッカもボロボロだ。

 こんな状態で戦うとかブラックもいいとこだろ!


『貴様!戦う気が無いのか!我らを愚弄しているのか!』


 攻撃をいなしているとカニスに怒鳴られる。

 そんなこと言っても、ボロボロの相手に本気出すのは躊躇われる。


「戦うにしても先にメシとか食わない?火を通したくないなら生肉もあるぞ」

『くどい!』

「お前は良くてもうちのゲッカはよくねんだよ!!」

『我が仔よ、奴の腸を食いちぎれ!』

「ウウゥ、ヴァウ!!」


 目前に迫る黒い狼、ゲッカだ!

 ゲッカが俺の懐まで一瞬で間合いを詰める。

 カニスの王命のせいか、ゲッカはカニスに逆らえない。


「ヴァウウッウ!!」


 ……。


 ゲッカが俺の腹をカリカリとかじっている。

 甘噛みかな?


『何をしている!?我の命令が聞けんのか!』

「ヴァ、ウウ!!」


 頭をこすりつけながらスリスリとカミカミしてくる。


「見ろカニス!この甘噛みしてくるゲッカを!俺とゲッカの絆を!ゲッカは俺を噛み千切ったりしないぞ!!」

『貴様……!』


 頭に血が上ったカニスが鋭い牙を覗かせながら突進してくる。

 カニスが仲間を引き連れ、冷気を纏いながら特攻してくるけど、向かってくるなら丁度いい。


『ガフッ!!』


 ラリアットは当たり面積が広いし相手がでかければ外すことはない。

 速さのステータスが高い狼達を追うのは無理だが向かってくるなら向かいうつだけだ。カニスの巨体が派手に転倒する。


「絆の!勝利だ!!」


「ラティちゃんにはマジガミに見えるよ」

「ゲッカさんは本気で噛んでるけどラグナさんの体が硬すぎるだけでしょう」

「うるせーー!」


挿絵(By みてみん)


 思ってても分かっていても言っちゃダメなことってあるだろ!

 そうこうしてる間にもゲッカはまだすり寄ってくる。カカカくすぐったいぞ。


 カミカミされながらも久々にいっぱい撫でてやるとゲッカの力が抜けて行った。

 リラックスしているみたいだ。ウッ、数日見ない間に無理したのか毛並みが悪くなってるしなんか痩せたんじゃないか?


「クローバー!ありったけのメシ!早く!ベッドも」

「ネコ使いが荒いですねぇ」


 ジッパーから出てくる肉を数本取り出してゲッカに差し出す。


「よしよし虫なんか食って大変だったな……食え!とにかく食えっ今日は食べ放題だぞ」

「ヴァウウウ」


 口の傍にローストステーキを持って行くとガツガツと食べ始めた。

 すると。


 グルルルル、恨みがましい目つきをした狼達の唸り声が聞こえてくる。


「お前らもどう?」


 肉をそっと置いておくとヴァナルガンド達がそろそろと近寄り肉にありつきはじめる。

 やはり食欲には勝てなかったようだ。


『コノ、柔ラカサハ一体……!?』

『口ノ中デトロケル、コンナノハジメテヨ』

『ホッペタガ落チルトハコウイウ事ヲ言ウノカ……』


 食レポみたい。

 すごい旨そうに食べてるしなかなか才能あるんじゃない?

 自分で作ったのに釣られて俺も食べたくなってくるもん。


『そんなものを食うではない!我らを堕落させる肉だ!』


 カニスの一声にヴァナルガンド達がぴたりと食べるのをやめる。

 ……やめたけど、みんなプルプルしてる。食べたいんだろうな。


「食いたいもんくらい食わせてやれよ!」

『我は貴様を認めぬ!同胞たちよ、魔人を囲め!』

「ヴァウッ……ウルルル!」


 ゲッカが唸り声をあげ、俺に牙を剥ける。嫌そうに耐えているようだ。


「子供に嫌がることさせてんじゃねぇ!」

『仔である前に、部下である!』

「だったら俺が子離れさせてやる!来いカニス!!」


 ヴァナルガンドに負けないように俺もまた吠える。


「話し合いって言ってたのに結局戦うことになるんですねぇ」

「ラティ的にはおいしいスクープ狙えていいんだけどね」


 俺だって出来ることなら戦いたくないっての!


「……ヴァウ、ヴァウ(災いと戦いを呼ぶ魔人クオリティ)」


 カカカ。こんな状況でもゲッカが合いの手を入れられるくらいには元気そうで何よりだよ。

 うちの犬たくましい。

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