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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
70/163

19.生命の本能

「ラティのスクープが行っちゃう!追いかけよう!!ほらっはやくっ!」


 カニスを追おうとラティが俺の包帯を引っ張る。こいつはいつも元気だな。

 氷の柱に阻まれてしまったからまずはこいつをブチ抜かないと。


「クローバー、適当に武器を何本か……、誰だ!?」


 後方から気配を感じて振り向けば方々から不快なトーンの声が聞こえて来た。


『キャキャキャ!気付かれた!気付かれた!』

『気付かれちゃった!残念!』


 よく見れば猿の群れが壁に貼りついている。

 猿の体は壁とそっくりで注視しないと気付けないほどだ。


-----------

 種族:イシザル

 LV:42

 HP:519/720

 MP:51/87

 速度:170

 所持スキル:

『器用』『擬態D』

『土魔法C』『軽業師A』『俊敏B』 

-----------


 イシザルという猿の群れか。

 さっきカニスが猿に手こずったとか言っていたけどコイツらのことかな?


『お前倒せばアニキ喜ぶ!』


 猿が俺たちに飛び掛かる。


「お前らの相手する暇はねぇ!」

『キャ、ギャギャ!?』


 さっき砕いた氷の塊をぶん投げれば地面は派手な音を立てて大穴が開く。

 脅しのつもりで投げたけど猿たちが慌てだす。


「ひゅー!さすがラグナ氏!」

『ラグナ……?』

『どっかで聞いたことがあるような……』

「あなた達の前にいるのは200年前大陸を恐怖に陥れた終末の王にして災厄の化身。泣く子も黙り名だたる王もひれ伏す魔人です!命が惜しければひれ伏すように!」


 クローバーが高々と呼びかける。

 相手の戦意を削ごうとしてるのは分かるけど恥ずかしいからやめてほしい。


『ヒィ!』

『なんで魔人がこんなとこにいるんだよ!?』


 サルたちは勝てないと見てお手上げで降参ポーズを取った。

 こちらとしても楽で助かるな。

 ついでにカニス達について聞いてみよう。


「ヴァナルガンドが手こずった猿ってのはお前たちか?」

『そりゃアニキのことだな』


 相当強いと言われるヴァナルガンドの群れを手こずらせるって猿たちもすごいのでは?

 イシザル達のステータスを見た感じ、ヴァナルガンドに勝てるとは思えないけど。


『アニキは強いし頭もいい!なんてったって猿の王だ!』

「猿の王?」


 狼の王の次は猿の王か。狙いはカニスと同じで迷宮の主だろうな。


『直接戦えばオイラたちは狼に勝てない。だから弱らせることにしたんだ!』

『小競り合いして危なくなったら撤退。狼が食べる魔物はオイラたちが先に食べるか燃やしてる!アイツら何日もまともなもの食えてないハズだ』

『夜も眠れないよう度々奇襲を仕掛けてるぞ!』

「えげつないことするね」


 ヴァナルガンド達が虫を食ってたのはそのせいか。

 いつ敵が現れるか分からない状態は体力も精神力も消耗する。

 奇襲を繰り返し碌に眠れない状態で食料まで奪えばヴァナルガンドでも戦闘力が落ちるのは当然だ。


 それなら俺の料理&ベッドの勧誘は強烈だっだろうな。ゲッカも涎垂らしてたし。

 あれ待てよ?

 それじゃゲッカもまともに寝れてない食えてないじゃん。


『狼だって弱らせれば勝てるんだぜ!全部ボスの指示だ!すげーだろ!!』

「お前らうちのゲッカに何してくれんだーーー!!」

『ウキャーーーーーー!!?』


挿絵(By みてみん)

 

 ◆



「これがモンペってやつだね」


 ラティがしみじみと言う。

 失礼な。俺はゲッカがまともな生活ができなかった原因にお仕置きしただけだ。


「いっぱい暴れましたねぇ」

「狂ったゴリラみたいだったよ!」


 クローバーが呆れながら辺りを見渡す。

 怒りのママに壁を破壊しては瓦礫を猿に向けて投げまくったらイシザル達が全員で震えながら無抵抗のポーズをした。


『反省してる!本当に反省してるから!』

『命ばかりは!オイラたちアニキがいないと何もできないの!』


 涙目で懇願してくる。

 ゲッカをひどい目に遭わせたのは許しちゃおけないけどここまで弱々しい態度見せられるとな。


「ええい、こうしてる間にもカニスが奥に近付いちまう。さっさと先行くぞ!」

「うぅん」

「ラティ、どした?」


 ラティが何やら首を傾げている。


「あのおさるさん達にツインロッドが大きい反応してるなって。しかもクローバーちゃん並の反応!」

「……クローバーの事件レベルってどのくらいだっけ」

「S!大陸中の人に知れ渡るくらいの事件だよ」

「オイオイオイオイそれ大事件じゃねーーか!?」


 え、あの猿たちが事件?

 ……ここで始末した方がいい案件だったりする?


「ラティさんはともかく神々の遺産は信用して間違いないです。殲滅も視野に入りますね」

「ひとこと多いよクローバーちゃん!」

「あ、こら!尻尾は触らないでくださいってば」


 他人事みたいに言ってるけどクローバー自分もSの反応出てるってこと忘れてないかな。

 クローバーがぺちぺち尾をたたくラティを迷惑そうに手で押しのけながらも猿たちを一瞥すると、不穏な気配を察知したのか猿たちが一目散に逃げて行った。


「ロッドの結果については気になるけれどのみち今はゲッカとカニスが先だ。後にするぞ!」

「そうですね」

「りょーかい!」


 ラティのロッドの反応からして迷宮核はそう遠くはないはずだ。





 道中は魔物の死体が転がっている。

 ヴァナルガンドかそれとも猿の王にやられたんだろう。この死んだ魔物たちも最奥を目指したはずだ。


「どいつもこいつもなんでそうまでして主になりたいんだろうな」

「そうですねぇ……ラグナさんって黒くて素早く動く虫好きだったりしますか?」

「えっやだいきなり何を言い出すのこの子???」


 思わず二度見したわ。


「なになにラグナ氏の好きなものの話?」

「好きじゃねーーーよ!!!!」


 Gで始まるアレのことだな。

 異世界にいないといいなーと思ってたけど残念ながらいるんだよね、Gの魔物。

 これがまたでかいんだよ。

 初めて見た時の筆舌に尽くしがたい悍ましさと恐怖と嫌悪は忘れられない。


「良かった、ラグナさんもアレ苦手なんですね。これまで亜人にも人間にもドラゴンにもヴァナルガンドにも嫌悪感を抱かなかったので、アレも好きとか言ったらどうしようかと思ってました」

「さすがにアレと同列で語るのはちょっと……」


 カニスとかブチギレかねないよ。


「例えですよ。ラグナさんだって見るだけでもイヤでしょう?強い生命体は自分以外の強者にその種の嫌悪感を覚えます」

「え、待って。それって俺がヴァナルガンドにそのレベルで嫌われてるってこと?」

「まぁ極端ですが、分かりやすく言えばそんな感じです」


 ドラゴンやヴァナルガンドは俺にGに抱くレベルの嫌悪感を持っているとしたら。

 それじゃあ俺が友好的に話しかけたのってカニス目線だとGに一緒にご飯食べようぜって誘われたみたいなもん?それ結構ショックなんだけど。


「ラグナさんに限った話ではありません。種が全ての命の頂に立つこと、それがこの星に生まれた命の本能です。種の存続のために犠牲になることがあるでしょう。囮になって仲間を逃がしたり、王のために兵が犠牲になったり」

「ああ」


 身を犠牲にして仲間を守ることは古今東西よくある話だ。

 それらは時に英雄譚として、時に悲劇として語られる。


「強く未来がある同族を生かそうとするのは種の本能です。同族を守り、敬愛し、親しみを覚える。反面違う種族や自分と違うカタチが気持ち悪く見えて仕方がない。そういう風に見えるし、そういう風にできているんです。――それが、天まで届く塔を建てようとした傲慢な種族に神々が与えた最大の罰と言われています」


 大昔、人間も魔族も同じ種族だった。

 ひとつだったからこそ種は頂に立っていたし、種を守る本能は問題なく機能した。

 けれども天まで届く塔を建てた罰として種族は1つではなくなり、"他人"が生まれて種族を守るために異なる者を排斥するようになってしまった。


 それが隣人に優しくないこの世界の正体なのだろう。


「体に蛆が沸いたら気持ち悪くて取り払うでしょう?取り払ったあと潰すでしょう。そういうもの。ボク達は隣人から見れば蛆なんです」

「神様もひどいよねぇ。どうして隣の人を殴らなきゃ済まないような仕組みのまま空の向こうへ行っちゃったんだろ」



 種が全ての命の頂点に立つことか。

 "我は種であり生き抜く者。我が信ずるは孤高の道"。仲間の死体をも食って、最後の1体になっても戦うヴァナルガンドという種族。

 カニスはこの本能と過酷な生存競争を受け入れた上で、それを王道と定めている。


 種が1つだった頃はそれでよかった。

 けれども今、この世界には多くの種族が生きる時代へ変貌した。

 旧い価値観はアップデートした方がいいに決まっている。


「もう一度カニスと話し合わないとな」

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