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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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18.王狼の怒り

 ショートカットした先にいたものは。

 

『……貴様は』


 巨大なサソリや蝿の亡骸が転がって、それらを大きな狼たちが白い体毛を汚い体液で染め上げながら貪っている。

 間違いない、王狼カニスが率いるヴァナルガンドの群れだ。


「ゲッカ!」

「……ヴァウ!?」


 黒い体、額の模様。見間違えようもない、相棒のゲッカもいる。


『猿共の相手に時間を取られ過ぎたか。我らに追いつくとは思わなかったぞ』


 俺たちがこんなに早く来るとは思ってなかったようだ。実際ルーニンがいなければ無理だった。

 ひときわ大きなヴァナルガンドのカニスが噛み砕いたサソリの殻を吐き捨てながら一歩前に出る。


『貴様と戦うのは宣告後にしたかったが、貴様もこの裂け目の迷宮核を目指しているようだな』

「いやそんなつもりはないんだけど」


 リフォームできるのは魅力的だけど立地がね。

 人間の街からめちゃくちゃ遠いから商人とのやりとりが大変そうでさ。車とかあればいいんだけど。


『ここで邂逅したならば戦うのもやむなし。我も貴様もまだ宣告を行っていないが問題あるまい。王の闘諍(とうじょう)を始めようぞ!』

「あの、聞いてる?俺は戦いに来たんじゃなくって」


 ヴァナルガンド達がまるで王に率いられた騎士のようにカニスの背後に並ぶ。

 そしてカニスは高らかに吠えた。


『我が名は狼の王カニス!我はここに宣言する』


『王とは頂に立つ者である!我は種であり生き抜く者。我が信ずるは孤高の道。我は大陸を縦横に駆ける者なり!』


 あ、これ魔王の宣告でも聞いたやつだ。あのこっぱずかしいやつ。


『さぁ魔人よ、王としての返し口上を掲げよ!貴様の目指すところの王とは!』


 ……。

 えっ、何?

 ヴァナルガンド達が俺の事めっちゃ見てる。

 隙を伺っているとかじゃなくて、俺を待ってる感じだ。


 カニスの横でゲッカがなんか残念な物を見たような顔で目を反らしてるんだけど、言いたいことあるならちゃんと言ってくれない!?

 そう思っていたらクローバーが横から慌てて耳打ちする。


「カニスはラグナさんを王だと思っています。王同士の戦いを始める前にはお互い口上を述べるのが礼儀です。カニスはラグナさんに王の口上を言って欲しいんですよ、自分はこういう王だって宣告を」

「そんなんねーーよ!!!??」


 俺王にならないって言ってんじゃん!?

 そもそも王じゃないし。


『……どうした?』


 どうしたもクソも、王じゃないのでそういうこっぱずかしいやつ用意してないですとか言っちゃ駄目?

 クローバーがカニスに見えないように手で小さくバッテンを作った。

 だめっすか。困ったな。


『我が相手では、口上を読み上げるに値しないとでも言うつもりか……!!』


 カニスの凄む迫力はとんでもなく、配下のヴァナルガンド達も何体かビクっと体を震わせた。

 怒鳴り声だけですごい風圧が巻き起こる。

 やばい、カニスめちゃ怒ってる。怒りのオーラみたいのがすげぇ見える。


「ラグナさん!王同士の戦いにおいて、口上を読み上げた相手に対して口上を返さないことは大変な侮辱行為です!」

「それ先に言って!?」


 とにかくこのままじゃまずい。

 口上とやらは持ち合わせていないが、俺だって何もなしにここに来たわけじゃない。


「カニス!俺は戦いに来たんじゃない!」

『……何?戦う気がないなら貴様は何をしに来た?』

「俺は相棒のゲッカに会いに来ただけだ!その証拠に……クローバー、例の物を!」

「ボクはどうなっても知りませんからね!」


 クローバーは渋々といった感じに収納魔法を展開する。

 中から大量の肉料理が出てきた。

 シンプルな焼肉から煮込み料理まで、この数日中に俺が作ったものだ。


『ガルル……コレハ』

『コノニオイハ』


 ヴァナルガンド達がざわつきはじめる。


『貴様……何の真似だ?』

「俺はお前と飯を食いながら話がしたい!!そのために来た!」


 魔人フルコースを食らえ!と言ってもオードブルもスープも魚料理(ポワソン)もナシで、最初から最後まで肉料理(アントレ)だけどな。

 試作品だが頑張って作った麹を使った自慢のオーク焼きもあるぞ。

 焼肉の匂いは香ばしく食欲をそそる。犬の嗅覚って人間の6000倍だったかな、この良い匂いは効くだろう効くだろう。


「硬い虫なんかより俺が焼いた肉のが旨いぞ!!」

『ふざけるな!貴様が狩った獲物など要らぬ!我が食らうのは貴様だ!』


 カニスの後ろのヴァナルガンド達がじゅるりと涎を垂らしているがカニスが睨んで慌てて涎を飲み込んだ。

 緑色の液体を流す虫を食べた後なら俺が焼いた肉料理は魅力的に見えるだろう。


挿絵(By みてみん)


『肉、旨ソウダナ』

『最近ハ毒カ下手物(ゲテモノ)バカリダモンナ』


(うぬ)らァ!』


 カニスに一瞥され、ボヤいていたヴァナルガンド達が姿勢を正した。

 

『侮蔑のつもりか!我ら誇り高き荒野の狼一族、敵の施しなど受けぬ!』


 ヴァナルガンドが結構流されかけていたけどね、というのは黙っておく。


「俺は大真面目だぞ。俺はお前とも仲良くやっていきたい。クローバー!次だ!」

「はぁい」


 商人たちから買ったベッド、それもとてもいいやつだ。

 一度これで寝たら地べたで寝るなんて生活に戻れないこと間違いなしだ。


「うーん。これはなんという寝心地……暖かくて程よい弾力、体がフカフカに沈んでいく……永遠に起き上がれなくなりそう……」


 ラティが通販番組みたいなことを言い始め、ヴァナルガンド達が再びざわつく。


「俺はお前たちと!昼寝もしたいと思っている!!」


『オレ、アレナラ一瞬デ寝レル』

『ココ数日全然寝レテナイシ』

『土ヨリモ暖カソウダナ……』


 ベッドもカニス以外には好感触。

 ヴァナルガンドは戦い続けている。疲れには質の良い食事と睡眠が必須なのは彼らがよく分かっているはずだ。

 とことで数日寝れてないって結構ブラック労働じゃない?大丈夫?


「来てみろ!めちゃくちゃ気持ちいいぞ!」


 ヴァナルガンド達が何やらそわそわしている。

 肉と布団それぞれ気になっているみたいだ。ゲッカは……あ、肉に釘付けだ。涎を隠そうともしない。

 俺の傍にずっといたゲッカはたいそうグルメになってるしな。


「この通り、俺たちに戦う気は無い!お前達と仲良くした上で……その上で!ゲッカを俺にください!!」

「プロポーズ??」

「どちらかと言えば親御さんに許可をもらいにいく時のあれじゃないですか?」


 ラティとクローバーが後ろでコソコソ話しているけどこっちは真剣だからな!


「ヴァウ……」


 カニスはちらりと傍らのゲッカを見る。

 ゲッカはまだ涎を垂らしたままだな。


『とんだ甘い考えを持ったものだな。勝手に我が仔に名などつけおって』

「俺は俺が好きな奴と一緒にのんびり暮らせる場所が欲しいだけだよ」


 これは本心だ。種族やスキルによって命を脅かされる隣人に優しくないこの世界で安らげる居場所が欲しい。

 

「俺は王じゃないし、大陸をかけて戦うつもりはない。でも目指すものはある!隣にいる奴と一緒に飯を食い、安心して眠れる居場所を作ることだ!」

『居場所!居場所だと!?』


 吐き捨てるようにカニスが吠え立てる。


『居場所は与えられるものではない、奪うものだ!殺して食事と安寧の場所を手に入れ、子を成し繁栄する。それがこの世界のあるべき姿。貴様の言う言葉は弱者が騙る妄言だ。弱者は淘汰され、真に強い者だけが残るのがこの世界の理。我々の世界に嘘を持ち込むな!』


 カニスが魔法を放出した。底冷えする白い霧が立ち込め視界が悪くなる。


「カニス!俺は……」

「ラグナさん!」


 頭上に巨大な鋭い氷柱(つらら)がいくつも出現する。


「狙いは地面です!早く回避を!」

「なに!?」

 

 咄嗟に後方に飛び退くと、俺のいたところに床と天上から大きな氷柱が生えて道を塞いだ。

 氷の向こうからカニスの声が聞こえてくる。


『我は息子を迷宮の底へ落とした。迷宮のあらゆる魔物を食い尽くした時、我が仔はヴァナルガンドへと進化する筈だった。だが貴様が現れ、我が仔を出来損ないに貶めた!』


 ゲッカと出会ったのは封印の墓標の地下3階。

 地底湖に狼がいるのはおかしいと思っていたけれど、あれカニスが落としたのか。

 それでゲッカが本来食べるはずだった魔物を食べないように制したり俺が経験値を分捕って進化できなかったと。


『我は王である貴様に一定の敬意を表していた。だが王でなければ戦う意志も無いという貴様に割く時間など持ち合わせておらぬ。ゆくぞ同胞たちよ!』


 カニスのひと吠えに狼達が遠吠えを返し、気配が遠ざかっていく。

 

「待てカニス!」


 分厚い氷の壁を叩き割った時には既にカニス達は去った後だった。


「くそ!」


「ラグナさん……」

「ラグナ氏……」


「自慢の飯とふかふかのベッド、カニス以外には結構手応えあったのに肝心のカニスは釣れなかった……」

「あ、そっちに悔しがってるんだ」


「せめて醤油の開発が間に合っていればカニスも篭絡できたはずなのに!」

「ラグナさんの調味料に対する信頼はどこから来るんですか?」


 だいたいの日本人は醤油(ソイソース)好きだぞ!

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