16.裂け目の中は殺風景
裂け目の中は味気ない洞窟のようなダンジョンだった。
シンプルなダンジョンだけどここも主が現れれば主の望む環境に変わるんだろう。リフォーム屋もびっくりだ。
「ラティはどこだ?」
「入った場所は同じなのでそう離れていないと思いますが」
「まぁ進みながら探すとするか」
ロス・ガザトニアの裂け目は通路・部屋・通路・部屋……と一本道で15分程で最奥に到着したけど、この裂け目は部屋ごとに右・左・正面と部屋が分かれている。迷いそうだな。
突如、背後から足音が聞こえて来た。
「大トカゲの群れです!ボクらより後に到着した魔物ですね」
「後ろからも続々魔物が来るわけか」
挟撃には気を付けよう。
トカゲはすばしっこい上に姿勢が低いから仕留め損ねるとクローバーが巻き込まれる。
「捕まれクローバー!」
「戦闘はお任せしますよ」
クローバーがふわりと俺の左肩まで跳ねた。
俺の背は高いから地を這うトカゲの攻撃がクローバーに当たることはないだろう。クローバーが落ちないよう俺にしがみつく。
見た目で分かっちゃいだけどぺたんこ……いやなんでもない、集中集中。
一度暴走した魔物は死ぬまで足を止めることはない。
移動中力尽きて脚を止めた弱い個体から仲間の経験値と腹の糧となる。
食えるものは全て食らいつくす魔物たちには俺たちが餌に見えるんだろう。
「クローバー、武器くれ!」
「了解です」
収納魔法から取り出された武器をキャッチし、そのままトカゲの群れに向けて投げつける。
ダーツのようにトカゲに刺さった槍は突き刺さると同時にミサイルのように破裂した。
轟音が洞窟内にこだまする。
「よーしよし!まとめて片付けるならこっちのが楽だな」
裂け目を目指す道中鍛冶神の三振りで武器を大量に作っておいた。
材料は岩や枯れ木なので武器としては粗悪品だけど俺にはスキル【武器解放SS】がある。
【武器解放SS】
【武器使用時、武器の威力を限界まで発揮できる。使用後その武器を破壊する】
武器が壊れるハタ迷惑仕様だが武器使用時に超火力を出せるスキルだ。
魔法で武器を量産したし常時発動スキルだからMPを消費することもない。
1対1なら不要だが大群には有効だ。
……鍛冶神の三振りとの組み合わせでほぼノーコストでミサイル討ち放題ってなかなか危険だな。
「いつも雑魚戦はゲッカに任せっぱなしだったから、いっちょ俺もLV上げとくか!」
魔物の群れのおかわりが来た。
経験値いただきます!
◆
トカゲとコウモリと半魚人と馬の魔物の群れを倒したところでようやく後続が途絶えた。
「さて、LVとか上がってないか?」
「結構倒しましたからね」
俺は走りながらタブレットを取り出してステータスを確認する。
そんでそのまましまった。
「ハイハイハイハイ上がってませんでした!解散解散!」
薄々気付いてはいたけど俺LV上がるの異様に遅くない?
ゲッカとかもりもり上がってるしクローバーだって1日10近く上げたことあったのに。
「ラグナさんくらい強いと普通の亜人とは上がるペースが違うのかもしれませんね。あ、ボクのLV上がってる」
「戦った俺が上がってないのに……」
武器を取り出して俺に渡すだけでも経験値入るのかな?
「ラグナさんってステータスをそのタブレットで確認してますよね」
「ああ。そういえばクローバー達はどうやって自分のを見てるんだ?」
「自分のステータスくらい少し意識すれば見れますよ」
そういうものなの?
……うーん。
「……いや、できないぞ?」
「自分のステータスを見れない人がいるなんて、そんなことが……?本当にこの世界の人ですか……?」
い、痛いとこ突くな。
俺の魂は違う世界から来た。
俺のスキル『異邦の魂』はこの世界の生物には見ることができないスキル。
この世界の住人がこのスキルを認識できないなら、逆に俺はこの世界にあるものを認知できなくてもおかしくはない。
そう考えると不便だな、まぁタブレットで見れるからいいんですけどね。
タブレットは俺が眠りから目覚めた部屋に置いてあった。
性能からして神々の遺産だろう。
魔人ラグナを封印した奴が置いて行ったとしたら、どうしてわざわざ封印した奴の助けになるようなものを置いて行ったんだろう?
「また1人で考え事ですか?気になることがあったら聞いてくださいって」
クローバーがジト目で見ている。
ちょっと拗ねている気配だ。
ここ最近クローバーは俺の状態を気にかけてくる。
出会ったばかりの頃は自分に関係ないことは我関せずだったのにな。
とは言え俺が目覚めた場所にタブレットが置いてあった理由なんてさすがにクローバーにも分からないだろうしなぁ。
この世界の生物に見ることができないスキルの相談する訳にもいかないし。
「あ、そういえば聞きたいことあったんだった。狭間の日って何だ?」
聞いた瞬間クローバーがめちゃくちゃに嫌そうな顔をした。
「答えたくないなら別にいいけどさ」
「……聞けって言ったのはボクですね。ルーニンが言ってたことが気になってるんでしょう?」
道中、ルーニンはクローバーのことを"狭間の日に生まれながら理想を追った"と言っていた。
あまり触れてほしくない話題ということは分かっている。でもワードの意味くらいは知っておきたい。
「1年が終わり新たな1年を迎える日の境目の四半時を狭間の日と呼びます。この時あらゆる魔物が生まれると言われ、この時間に生まれた命は呪われるそうです」
四半時といえば30分だから、大晦日と元旦の間の30分が不吉な時間って感じかな。
「ボクはその時に生まれたので、不吉なネコ扱いされてるんですよ」
「なるほどそういうジンクスか」
「これが言い伝えじゃすまなくって。過去この時間に生まれた人は大抵人類の敵になったり悪い意味で記録に残ることが多いんです」
悪い意味で記録に残るか……そういや日本円にしておよそ5000万相当で指名手配される銀髪碧眼のネコがいたな。俺の隣に。
「今更だけどクローバー叩けばいろいろ出てくるな?埃だってこんなにポロポロ出てこないぞ?」
「ボクだって好きでこんなことになってるわけじゃありませんよーだ」
根が真面目なだけにクローバーは結構気にしているみたいだ。
タブースキル持ちなのも少なからず関係してるのかもしれない。
そんな話をしながら俺たちはダンジョンを進む。
……。
…………。
……。
「クローバー。もう1つ質問ができたんだけど」
「ダンジョンの道案内はお役に立てませんよ」
先手で封じられてしまった。
困ったな。
道に迷ったから最奥の方向とか分かったりしないかなーと密かにアテにしてたんだけど、裂け目の居場所もしっかり把握するクローバーのナゾ情報収集能力はダンジョン内では効果を発揮しないようだ。
厄介なことに迷宮内は同じ景色が続くから下手したら帰り道も分からないぞ。
なんとかしてヴァナルガンドに追いつきたいのに……と思った矢先、前方から何度も聞いた声が聞こえてきた。
「ラグナ氏~~~ッ!!たすけて~~~~!!!!」
「……何か聞こえるな」
「聞こえますねぇ」
思わず脱力してしまう緊張感ブレイカーだな。
仕方ない、助けるか。