13.ネコのかくしごと
「カニスより先に迷宮に着くのは無理です。でも迷宮には多くの魔物が迷宮になだれ込みます」
ここから南に巨大な裂け目が現れた。
裂け目は大きいほどより多くの魔物をおびき寄せる。
「強い魔物も多く集まるのでヴァナルガンドでも簡単に最奥に辿り着けないはず。そこに間に合わせます。そこから先はラグナさん次第です」
「それで十分だ!」
「リミットはダンジョンが完成するまでです。完成したら手に負えません」
ダンジョンに成長すれば裂け目とは比べ物にならないほど探索が難航するし。
となると宣告期間が終わってしまう。クローバーはその前に決着をつけるつもりのようだ。
早めに決着がつくならその方がありがたい。
「それから手段を選んでいられる状況じゃないのでボクのすることに一切文句言わないでください」
「もちろんだ」
無理を通すなら無理も必要になるだろう。
ヴァナルガンドの戦いにゲッカを行かせるわけにはいかない。
待ってろよゲッカ、必ず迎えに行くからな!
「山沿いに移動していけば川があります。ラグナさんの水魔法で水を増やして船で下りましょう」
「確かに水の勢いがつけば歩くよりずっと早いな」
湖や川を移動することがあるかもしれないと商人から買った小型の船の出番だな。
対岸へ渡るための簡易な物なのでちょっと手の込んだイカダだけど俺たちが乗る分には問題ない。
徒歩だと急いでも時速6キロ程度だけど川なら水の勢いが強ければ倍以上の速度が出る。
よし、川まで頑張って歩こう。
「……ふぅ、なんとか説得できました」
「説得?」
「"でてこいっ"!」
クローバーが両手を合わせる。収納魔法を出す時の掛け声と合図だ。
川は見当たらないので船を出すには早すぎる。
都合の良い便利アイテムでも出てくるのかな?バイクとか、まさかね。
……。
「え?」
出てきたのはジッパーじゃなかった。
っていうか収納魔法じゃない。
見たことの無い文字がサークル状に広がり緑色に光る。
似たようなのを見たことある。確かシエル山脈でラバルトゥが使っていた……、
「召喚魔法!?」
緑の魔方陣から俺よりでかい猫が現れた。
どこか朧気な印象を持つ猫だは青白い炎を纏って不敵に笑う。
クローバーは軽やかにネコの背に飛び乗る。
「今は時間が惜しいです。大きいのでラグナさんでも乗れるでしょう。さぁどうぞ」
…………。
「ちょっっっっっと待てよ!!!!??!?なんだそれ!!?知らねーぞ!!」
「……改竄で隠してましたが召喚魔法も使えました」
「なんでそういうこと黙っとくの!?」
「ボクの!することに!文句言わないって!!言ったでしょう!!?」
ヤケクソ気味にクローバーが言う。
……う、言った。言ったけど!
「ネコは気まぐれです。こいつの気が変わる前に乗って、行きますよ!」
「アッハイ」
大猫を見るとゲシャシャシャと下品に笑っていた。
時間が惜しいのは間違いないのでひとまず飛び乗る。クローバーが前で俺は後ろだ。
「ルーニン、お願いします!」
『おうよ!』
ルーニンと呼ばれた大猫が風を切って走った。
速い!
乗り心地は良いとは言わないけど。
結構揺れるんだよね、なんていうかこう、振動がね、響くっていうか。主に股の辺り。
いや文句は言わないけど。
「こんなに速いなら川で移動とか必要ないんじゃないか?」
「ルーニンが走るのは1日6時間、5回の食事つきという契約なのでそれ以外は川で移動します」
「あーそういう話になってんのか」
5回の食事か。お米でも大丈夫かな?
『魔人の手料理は旨いって聞いたぞぉ!ゲヒャヒャハハ!仲間に自慢できるってもんよ』
なんかえらく期待されているけどクローバーはなんて説明したんだよ。
「ところでネコって持久力の無い生き物だと思ってたんだけど、そんなに走り続けられるのか?」
「ええ、ですから持久力とか関係ない心臓が止まっているやつを呼びました。ルーニンは化け猫。アンデッドですからその辺りは疲れ知らずです」
こ、こいつ死んでるのか!
「死んでるのに飯5回も食うの……?」
『たりめーよ!俺サマは100年生きたがまだまだ食べ足りねぇし、寝足りねぇから化けて出てきたんしな!ゲヒャッヒャヒャヒャ!』
死んでもなまけたいって奴タイプか。
「こんなぐーたらによく協力してもらえたな?」
『ギシシシ!クローバーがどうしてもって言うんで一度くらい手ェ貸してやろうと思ったわけだよ。何せ特等席で見れるんだ、狭間の日に生まれながら理想を追ったキャス……』
「わ、わー!!」
口を塞ぎたかったのだろうが、背中から口まで手が届かないクローバーがルーニンの耳を思い切り引っ張る。
『あーだだだだ!わぁったよ!言わねぇよ!!』
何も聞いてませんね?って目でクローバーが睨みつけてくる。
おっけおっけ、聞かれたくないことね。オレナニモキイテマセーン。
でもクローバーってタブースキルを持ってて、人間から金貨50枚で手配されて、さらに人間にとって不都合な歴史を知ってる。
さらに遠距離で情報を収集する能力があって、それから今の召喚魔法。
これ以上隠すものなんて無くないかな?もう行くとこまで行った気がするんだけど。
「クローバー、怒らないから言ってみろ。他にどんなスキル持ってるんだ?」
「ヒミツ……と言いたいところですが、ボクが遠くの物を見れるってことは気付いてますよね?なら他に役に立つ能力はありませんよ。これはホントです」
わざわざ本当だと言うくらいだからクローバーの能力はこれで打ち止めなんだろう。
収納、改竄、情報収集、召喚。
この4つがクローバーの能力。
出会った頃、戦闘向きの能力はないと言っていたけど確かに戦うスキルじゃないな。
めちゃくちゃ便利なの揃ってるけど。
召喚魔法について聞いてみると使い勝手の良いものじゃないらしく、召喚する相手はクローバーがこれまで会った事があるネコに限られる。そして召喚に応じるかどうかは相手次第だそうだ。
「たぶん、やろうと思えば、頑張ればラバルトゥとかも召喚できると思うので最悪の手段として召喚してしっちゃかめっちゃかにする手も考えたんですが……」
「絶対やめとけー」
ここまで最悪の手段という言葉が似合う手段もない。
ネコなら魔族でも召喚できるんだな。
クローバーによるとルーニンに1日6時間走ってもらい、それ以外は川下りをすれば3~4日で到着する見込みらしい。
ルーニンがしゃがれた声をあげる。
『オイ、ありゃ何だ?』
「どうしました?……あ」
何かあったのかとネコ達の目線の先を追いかけると。
「ラグナ氏~~~~~~~~!!」
気の抜けた声が空から降ってきた。
怪我はしてないけど白いコートはやけにボロボロだ。
「そんなボロボロになってどうした?」
「聞いて!鳥の魔物に追いかけまわされてひっどい目にあって……あれ、こんな大きなネコさんいたっけ?移動が早くていいねぇ」
「ルーニンな。クローバーが召喚したんだ」
ラティは飛行しながらルーニンの速度についてくる。
「聞いて!魔物に追いかけまわされながらも裂け目の場所のアタリをつけてきたの!ラティ有能!褒めてくれていいよ!!」
そうだ、裂け目の場所見てくれって頼んだんだった。
大変な目に遭いながらも意外と真面目に調査してきてくれたようだ。そう、意外と。
……それだけにもうクローバーが場所知ってるって言いにくい。
クローバーも目を反らしてるし。
「ここより南、リティバウンド南西に盆地があるのですがそこに魔物が向かっていることを突き止めました!えっへん!」
『んなこたクローバーに聞いてるからわーってんだよ、今そこ目指してんだからよ』
「え!?」
……空気読まないのが言っちゃったよ。
ラティがギギギ、と首を動かして俺とクローバーを交互に眺める。
おいクローバー、自分関係ないですと言わんばかりに顔を背けるんじゃない。
ルーニンはクローバーの名前出したんだぞ。
「ど……、どーしてラティが体張って調べて来たものを皆当たり前のように知ってるの!!?」
俺もまた、目を反らした。
小さい個体はネコ、大きな個体は猫と表記してます。(たまに例外はあります)