9.密着取材
王の宣告。
支配者の証"王のスキル"を持つ者が大陸の支配権を賭けた戦いに名乗りをあげる期間。
クローバーは、いずれ俺が王のスキルを持つと思っているらしい。
え、俺もあのこっぱずかしい演説やることになるの?めちゃくちゃ嫌なんだが!
終末、もとい週末の王以外の王になる予定はないよ??
「予想ですけど確率は高いと思います」
「ヤダーーー!あんな演説やりたくねーーー!」
「あ、参戦は辞退できますよ」
「な、なんだ辞退できるのか!」
資格があるだけで参戦するかは別ってことか。
それならまぁ。参戦しなきゃいいだけだし!
「人間と魔族以外の王が参加する方が珍しいですよ。大陸中の魔族と勇者から命を狙われることになりますから」
そりゃ人間と魔族双方から狙われたがる物好きなんかいないよな。
俺は200年前の俺が勇者と魔王どっちも倒したせいで狙われるらしいけどな!!
ともかく人間と魔王の戦争が始まる。
「これまでは魔王が不在だったので魔族の動きは大人しかったのですが、これからは魔族も勇者も活発に動くようになるでしょう」
「ラバルトゥやバフォメットは宣告前に来てたけど?」
「ラバルトゥは小手調べか嫌がらせでしょう。バフォメットは侵略目的じゃありませんし」
あいつらが例外だったか。
「宣告期間であるこのひと月は基本的に人間も魔族も侵攻しません。人間も魔族も侵攻の準備をしているでしょう」
「この1ヶ月が最後の安寧期間かー」
俺としては住む場所を探して落ち着きたいな。
理想は魔族領からも人間領からもそこそこ離れているところだけど、遠すぎると商人とのやりとりがしんどくなるな。
どっかにいい物件ありませんかね。
◆
俺たちはリティバウンド山脈に沿って大陸を南下している。
西の険しい山脈を越えれば魔族領ということもあってか人間はもちろん亜人の気配もない。
冒険者すら訪れないこの地には凶暴な魔物が多く生息している。
「ヨーシ終わり!」
今日は8メートルほどの大蛇を倒した。
巻き付かれて締め上げられたものの逆に締め返してやったぜ。
「このヘビは猛毒を貯める袋を持っていて牙と毒腺がセットで高品質の武器に加工されるそうですよ」
「じゃあ次会った時商人に売るか」
「あとお肉が大変美味と言われてます!」
顔に食べてみたいって書いてある。
結構大きいし、せっかくなので食べてみよう。
「毒を持つ生き物だけど食えるんだ?」
「ヴァウ!」
ゲッカは毒への耐性を持ってるからそもそも気にしないで平気だよな。
「毒は頭部に集中しているので体を食べる分には大丈夫ですよ。それにヘビ毒は加熱すると無毒化されますし」
「それなら安心して食べれるな!」
「そもそもボクもヘビの毒は平気なんですけどね。噛まれるのは痛いのでイヤですが」
ネコ種や鳥人の一部は種族そのものがヘビ毒に対して耐性を持っているらしい。
「ってことはヘビに噛まれて致命傷になりかねないのは俺だけか。気を付けないとな」
「ヴァァー?」
「何言ってるんですか、さっき噛まれてましたよ。ラグナさんの体にヘビの牙が刺さらなかっただけで」
えっそうなの?気付かなかった。
こらそこ、うわコイツマジかみたいな目をやめるんだ。
「さて今日は天気もいいし、ちょっくら昼寝でも……」
「ヴァウ!」
「まーた怠惰の王モードですか」
カッカッカそう言うな、ちゃんとやることはやっている。
ただ昼寝と洒落こむのも悪くはないと思っ……。
「ほあたーー!事件のある所にラティちゃんあり!こんにちはーっ夢の旅人ラティです!!あれ!?そこにいるのはいつぞやの!また会いましたねぇ親切ゴリラ氏!!」
「いや俺にはティルナノーグ作りっつー急ぐ旅があったわ。こうしちゃいられんさっさと行こう」
「ヴァウ!」
「そうですね」
「あーーっ!待って待ってーー!!」
数日前出会った不審者……もとい空から降ってきたラティ。
再びこの妙な少女に出会ってしまった。
◆
「以前ゴリラ氏たちとお別れしたあと、暫く事件を待ってみたんですけど何も起こらなかったんだよね。いつの間にかツインロッドの事件反応も消えてたし」
「そうかー故障だと思うぞ。故郷とやらに帰ったらどうだ?」
ラティは当然のようについて来たし、なんなら焼いてる途中のヘビ肉を遠慮なしにいっぱい食った。
ヘビの肉、一応高級らしいんだけどな。
俺たちといればおこぼれに預かれるとでも思ってるのかもしれない。
ラティの持つ事件に反応するアイテムってのはおそらく魔人ラグナに反応してる。でも当然黙っておく。
ゲッカとクローバーは関わりたくありませんと言わんばかりに距離を取って歩いてるな。
「神々の遺産が故障なんかしないって、破損しても自己修復するもの!それに今はロッドが反応してるから、今度こそこの辺で大きな事件が起こるはず!」
いや事件とか間に合ってるんで。十分なんで。
「ラティちゃんは変わらない毎日を過ごす故郷の皆々様に一大センセーションを巻き起こしたいの!だから世界のニュースを持ち帰る使命があるんだよ!」
ずいぶんと使命に燃えているな。
「最初は手当たり次第にこの大陸の出来事をお伝えしたものの、やっぱり見てもらう以上……反応とか欲しくなるじゃないですか!誰もがビックリするようなスクープをお届けしたいじゃない!?」
そこでラティが握りこぶしをグッと天に突き上げた。
「仲間の中にはわざと種族同士のケンカをさせてそれをニュースにする人も出てくる始末。もめ事は視聴率手堅いからなぁ……あ、意図的な争いの誘発はアウトだからソイツはしっかり処罰されたのでご安心を!とにかくラティは作り物ではなく、あるがままのニュースで勝負したい!」
ニュースは過激だったり大袈裟な方が視聴率が取れるのは確かだ。
あるがままのニュースってのが俺たち自身のことじゃなければ応援もやぶさかじゃないんだけど。
「……ところでゴリラ氏、どっかでラティちゃんと会ったことない?見たことある気がするなぁ」
「え?無いだろ」
会ったことあってたまるか。
ラティはしばらく唸っているがふとポーチから茶色い紙束を取り出す。
「あ!思い出した!これこれ、これだーーー!!!」
「んん?どした」
ゲッカとクローバーも気になるのかそれとなく近寄ってくる。
<WANTED!!>
<魔人ラグナ 赤い髪に褐色肌、尖った耳の大男>
<200年前災厄戦争を起こした張本人。見かけた者は倒そうと思わず速やかに最寄りの冒険ギルド・騎士団に報告を!>
<現在行方知れずのため、目撃場所など有力な情報を提供した者には褒章有り>
「あんだこりゃーーーー!?」
手配書に書かれていたのは鬼のようなゴリラだったけど特徴は間違いなく俺だ。
……サーベルタイガーみたいなキバが生えてたり凶悪な顔に強調されてはいるが。
「親切ゴリラは魔人ラグナだった!!これはスクープですよ!」
「!!」
俺たちのことを記事にされるのはさすがにまずい。
俺は咄嗟にラティの翼を掴む。
「きゃああ!いくらラティが可憐な美少女だからって、あなたが百戦錬磨の魔人だからってやっていいことと悪いことが……!あっでも魔人に見染められた女というのもそれはそれでニュースに……?」
「うっせ!うっせ!そんなんじゃねぇ!」
クローバーが手配書を見ながら考え込む。
「そういえばラグナさんの姿を見た冒険者の生き残りがいたとか、ラグナさんの見た目について証言したとかいう話をちらっと聞いたような気がします」
「マジかよ!?」
相変わらずどこでそれを聞いたの?て疑問は残るものの、俺と会った冒険者の生き残りがいたらしい。
「けっこう特徴捕らえてますねこの手配書。これが出回ればもう正体を隠すのは無理でしょうね」
「あちゃー」
まぁ遅かれ早かれいずれはバレるものだし仕方がない。
それよりも今は目の前の喧しい娘の方が問題だ。
「邪魔はしないから是非密着取材させて!!ラティちゃん万能魔法だって使えるもん、きっと役に立つから!」
邪魔も何もニュースにした時点で俺の居場所とかいろいろバレる。
俺が噂通りのヤバい魔人ならここで殺される可能性だって十分あるのに随分と能天気だなこの少女。いやもちろんしないけど。
「……ハッ!もしかして、ツインロッドは場所ではなくアナタに反応していた!?」
「ちっバレたか」
「間違いない!ツインロッド、やっぱりラグナ氏に反応しているみたいです!この反応、あなたについていけばレベルBのニュースと遭遇できるかも!」
ラティが俺に向けてロッドを向ければロッドはぺかぺかと光る。
この体は災厄の化身のもの。
俺の周りにいれば何かしら大きな出来事があってもおかしくはない。
「あれ?あれれれ?もっと強い反応が」
「へ?」
俺よりも大きな反応?
フラフラとダウジングを構えながらラティは歩いていく。
「ネコさんにも高い反応!レベルSの事件が起こるって!すごいすごい!」
「えっ」
「う!」
冷や汗を垂らしながらさっとクローバーが顔を背けた。
さらに嬉々としてラティがダウジングを持って徘徊する。
「こっちのわんこに至っては計測不能!初めて見たっこんなのホントにあるんだ!?このパーティ、揃いも揃って話題性あり過ぎなのでは!?羨ましーー!」
「えっ」
「ヴァフ!?」
思わず声をあげるものの、すぐにゲッカが聞こえなかったフリをキメこんだ。
もう遅いし目が泳いでるぞ。
……あの。
なんで災厄の化身と言われる俺よりもゲッカとクローバーの方が事件のレベルが高いんですかね?