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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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6.クローバーの受難

 ミラージュスパイダーの糸確保作戦開始だ!


「ゲッカ、部屋中に炎だ!」

「ヴァオォオオッ!」


 ゲッカが遠吠えをひとつあげると炎の輪がゲッカの鼻先に現れる。

 そしてゲッカが大きく吠えると同時に炎の輪は業火となり部屋を焼いた。 


 しかし糸を燃えることはなく蜘蛛の体は炎を弾く。

 蜘蛛がせせら笑うように体を揺らすが、ゲッカの炎は粘着を奪うために撒いたものだ。


「本命は(こっち)だ!」


 炎に気を取られているうちに蜘蛛の裏側へ回り込む。

 俺の存在に気付いた蜘蛛が前脚を勢いよく引くと部屋中の糸が俺を包むように動いて巻き付いて来る。糸を操るスキルによるものだろう。


「これしきー!!」


 糸は粘着性だけではなく強度も強いけれど、それでも魔人の力の方が強かった。

 ブチブチブチ!と音を立てれば蜘蛛が驚いたのか狼狽えだし、その隙に頭にエルボーをお見舞いする。

 エルボーにより頭部を失った蜘蛛は天上から地面へ落ちた。


 ……ん?ブチブチブチ?


「あれ?ラグナさん糸回収するのでは?」

「ヴァウ……」

「あっ!?あーーー!!!しまった、巻き付かれたからつい……」


 せっかくの素材が!

 強靭な糸も魔人の力の前には無力だった。


「どうしよう!?」

「どうしようも何も、これでは使えないでしょう」

「ヴァウ!ヴァウ!」

「……ん、どうした?」


 意気消沈しているとゲッカがこっちこっちと呼んでくる。 

 何だろうとゲッカの様子を見てみるとゲッカが爪で蜘蛛の腹を薄く裂き、中からは大きな麻袋のような塊が出てきた。


「ニャーーーーー!?」


 そして同時にすごい絶叫が聞こえた。

 いや無理はない。

 塊のつぶつぶの中に小さな、と言っても手のひらほどもある虫がうぞうぞと蠢いている。

 俺も普通に直視はしたくないやつだ。


「蜘蛛のタマゴか。メスグモだったんだな」

「やだ、やだやだ。ボク絶対見ませんから!」


 クローバーが拒絶するように顔を背けている。

 俺が潰したのは頭だけだったから腹の中は無事だったんだな。

 蜘蛛のタマゴ、タマゴねぇ……。


「ワンチャン持ち帰って育てたら糸作ってくれるかな?」

「は、はぁあ!?」


 『信じられない・何言ってんだコイツ・バカなの?etc.etc』的なニュアンスが含まれている声だな。いや、うん、分かるけど。


「……つかぬことを伺うんだけどタマゴって収納に入れられる?」


 収納魔法に生物は入れられない。

 でも商人が持ってきた食用の玉子は普通に入ったし、もしかして、生き物でもタマゴ状態だったら入れられたり。なんて。


「い、入れなきゃダメですか……?」


 ……。

 自分の体に虫のタマゴとか入れたくないよな。

 でも()()()()()()ってことは、入れることはできるってことだ。


「な、何重にも包んでおくから!」

「そういう問題じゃありません!」

「よーしよし、肩もんでやろうか撫でる方が好きかー?」


 先手を取って逃げようとしたクローバーの腕を掴んでたくさん撫でてやる。

 これまでたくさん撫でてきたから歓ぶところは知っている、頭の耳のすぐ横と喉だ。


「撫でれば!なんでも言うこと聞くチョロいネコだと思ってるんでしょう!」

「いや?決してそんなことは」

「目を反らさず言ってみろこの露出狂ーーー!!」

「露出狂にならないために頼んでんだよ!!!」


 思わず撫でる手に力が入る。

 さっきの蜘蛛が珍しい魔物だと言ったのは他ならぬクローバーだ。

 ここで逃したら次いつ出会えるか分からない。なら俺も譲りたくない。


挿絵(By みてみん)


「う、ううぅぅぅうー!!」


 観念したクローバーが目を思いっきり(つむ)りながら両手を合わせればいつもの収納魔法、ジッパーが出てきた。







 さて。


 いろいろあったけど、とりあえず蜘蛛のタマゴゲットだぜ。

 落ち着いたら孵化させて安心して糸を確保したい。これって養殖っていうのかな?


 蜘蛛を倒した先にはいつもの光の柱があるSF部屋があった。


「ガフッヴァウッ」


 部屋の向こうには階段があってゲッカがしきりに先を気にしている。

 下り階段だから落ちるなよ。


 ゲッカと対照的にクローバーは青い顔してさっきからしきりにお腹をさすっている。

 蜘蛛のタマゴは布で何重にも包んだし、ヘビやカエルの肉をそのまま入れても気にしないから気分的なものだと思うけどさすがにちょっと心配だな。

 とりあえず柱を確認したら休憩しよう。


「光の柱はメロウ達を助けに行った時以来だな」


 いつものようにタブレットをかざせばタブレットが光を吸収していく。

 これでタブレットがアップデートされるはずだ。


 -ピコン!-


「よし、きた!」


【検索機能が追加されました】


 検索機能とな。

 とりあえず見てみようと思えばゲッカがこっちへ来いと言わんばかりに前脚で床を叩いていた。


「ヴァウ!ヴァフヴァウ!!」

「ん?どうしたゲッカ」


 素早く階段を下りるゲッカを追いかけると、そこは石造りの空間、そしてところどころに湯が沸いていた。


「温泉、かな?」


 見たところ、湯も綺麗だ。

 温泉施設なのかな?

 クローバーはここは拷問する施設って言ってたけど。


 辺りを見渡すとわりとオープンな作りだけど一応壁で仕切りらしきものは用意されていた。

 先に道らしき道はないからこの建物はここが最奥みたいだ。


「うっわ、ホントに一面のお湯があるんですね……」


 遅れてクローバーもやってくる。

 おっ、温泉がそんなに嬉しいか。

 ちょうど風呂入れてやりたいと思ったたところだしナイスタイミングだな!


「せっかくだ、入っていこう!」

「出ましょう!こんなとこ!!」


「「えっ」」


 思わずクローバーをガン見する。

 え、なんで?


「ここは!煮えたぎった湯で釜茹でにする施設ですよ!!」

「釜茹でってお前」


 湯に触れてみるけど適温じゃない?

 ゲッカがちゃぽん、と入ってるけどやっぱり問題なさそうだよ。


「普通に入れそうだぞ」

「拷問施設です」


「……もしかして温泉を知らない?地中で水があっためられて」

「拷問する場所です!」


「譲らねぇな!?!??何がそこまでイヤなんだ」

「水辺はネコの天敵です!ボクは!泳げないんです!」


 ……あ、なるほど。

 そういえばネコって水苦手だもんな。

 クローバーというかケットシーという種族が水を嫌ってるのかもしれない。


「深くないし足もつくぞ!問題ない!」

「やだーーーーー!!!!!」


 いっそ清々しいくらいの断固拒否の構えだ。


 何も一緒に入ろうって誘ってるわけじゃないし、仕切りもある。

 離れたところで入れば問題ないと思うぞ。

 もちろん覗かないから。


「水に浸かるなんて狂気の沙汰です!入るならご自由にどうぞ、ボクは外で待ってます」

「……一応聞いとくんだけど、水浴びとかそういうのしないの?」

「そんなの皆しませんよわざわざ全身を水に晒す必要がどこにあるんですか?」

「この世界に風呂ってないの!?」

「ああ、なんか聞いたことはありますねぇ、水に浸かって喜ぶ物好きな人間がいるとかなんとか」


 博識なクローバーの知識が突然雑になったな。


 ……そういえば欧州で風呂の習慣ができたのはわりと近代になってからって聞いたことがある。悪臭をごまかすために香水が発展したとか、衛生環境の劣悪さからペストが流行ったのは有名な話。

 風呂に入るのは一部の貴族だけなのかな?少なくとも亜人に風呂の習慣は無さそうだ。

 この世界の衛生への意識が気になるな、意識改革が必要だ!


「今作った魔人ルール。風呂には毎日入る!」

「ヴァウ?」

「は、はぁぁ!?」


 信じられないと言いたげな声を上げるクローバー。

 ひとまず身の回りだけでも清潔にしておこうな!


「俺の村では余程の事情が無い限り風呂を義務付けようと思う」

「えーーーーーーー!!!??バカじゃないですか!?」

「お前より無知なのは認めるけどこの件でバカ呼ばわりは心外だ!」

「付き合い切れません!ボクは嫌です!」


 そう言うや否や、鮮やかな全力疾走で階段へ向かうクローバー。

 出会ったばかりの頃、俺から荷物を盗んで逃げだした時のことを思い出すな。

 歴史は繰り返すものだ。


「頼むぞゲッカ、あのネコ風呂に入れてやれ!」

「ヴァッフ!」


 あの時と同じでゲッカの速度からは逃れられず、クローバーはあっけなく捕まった。

 ゲッカに引きずられながらクローバーが涙目で抗議する。


「ボクに何の恨みがあるんですか!?」

「恨みはないけど風呂には入って欲しい」

「にゃーーーーーー!!!!!」


 ゲッカが仕切りの向こう側にズルズルと連れて行くのを見守った。


 嫌がることはしたくないけど子猫のうちに風呂に慣れさせていかないとな。

 ……子猫って年齢かな?

 以前自分は大人じゃないって言っていたから成人はしてないだろう。



「それにしても温泉がこんなところにあるとは思わなかった」


 向こうから乱暴に温泉の中に叩きつけられたような音とクローバーがもがく声が聞こえてくるが、聞こえないふりをしよう。さすがにこの浅さでは溺れない。

 湯を楽しみながら、さっきの柱で追加された機能の事を思い出しタブレットに手を伸ばす。

 このタブレットは防水処理完璧のようで濡れても大丈夫な安心設計。


 新しく追加された機能を確認しよう。

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