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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
3章 王の宣告と世界の敵
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4.天空からの来訪者

「ふーっ、いっぱい収穫できたな」

「ヴァウ」


 望郷の遺構を目指す道中。


 休憩中の食料作りは楽しみのひとつ。

 前回の取引で商人たちが稲を数種持ってきてくれたので植物魔法で育ててみる。


「もう少し粘りが欲しいよな……次はこっちの稲とそっちの稲かけあわせてみるか」


 日本で馴染んだ米と違って水気が少ないので俺好みの米のためにブレンドしている。やってることは品種改良。

 品種改良は結果が出るまで時間がかかるけど俺の植物魔法ならすぐに収穫して結果が出る。

 良い米ができたら商人たちに差し入れしてみようかな。

 収穫物はクローバーに収納してもらって、今日の食事は改良米のおにぎりだ。具材は肉ね。

 海苔が欲しいけどこれは海にいかないと無理だな。


「っしゃ!それじゃいただきま……」

「ヴァッ!ヴァウ!ヴァウヴァン!!」 


 ん?ゲッカが空に向かって吠えている。食事前に吠えるのは行儀悪いぞ。

 何かあるのかなと思いながら空を見ると。



 俺の頭上。

 人が俺に向かって飛んでいる。

 いや、落ちている。


「どいてどいてどいてどいてーーーーー!!!!」

「は!?うおわあああああああああ!!!!???」


 空から、人が降ってきた。



 ◆



「大変失礼しました。ワタシ、退屈している全人類の皆様に娯楽をお届けする夢の旅人ラティって言いまっす!よろしくね☆」


 大げさな機械を背負った不審者はラティと名乗った。

 ちなみにこの不審者の落下地点は俺の上。


「お・ま・え・な!落ちた先が俺じゃなかったら死んでたからな!?」

「大丈夫です!ラティちゃんの装備には安全装置が備わっているので落下のダメージは1%以下にカット!耐久性については超ウルトラスーパー自信があります!」

「そうか!ケガなくて何よりだ!でもおめぇじゃねぇーーよ!!お前の落下先の下敷きになる奴が俺じゃなかったら死んでるって言ってんだよ!!!」

「あふ、それは大変申し訳ありませんでした」



 昼下がりに突然俺の頭に落下したこの少女、起き上がるや否や水を要求し、水を渡せば次に食料を欲しがった。

 そして俺が作ったおにぎりを次々たいらげながらやっと謝罪のターン。


「もぐもぐ急にジェットがオーバーヒートもぐこのライスボールおいしいですねもぐもぐして不時着しちゃいもぐもぐもぐ!」

「食うか喋るかどっちかにしろ」


 ラティは無機質な翼のようなアイテムを背負っていてこれで空を飛んでいたらしい。

 クローバー曰く、神々の時代に創られた神々の遺産で間違いないとのこと。この世界のとんでもアイテムって大体神々の遺産だな。


 落下の衝撃で現在飛翔機能は使えないけれど自己修復機能があるため暫くすればまた飛べるそうだ。

 空飛ぶなら俺も使ってみたいと思ったけど、ラティ専用に調整してあるようでラティ以外が使えばガラクタになるらしい。悔しいけど防犯対策もばっちりだな。


挿絵(By みてみん)


 改めてラティの姿を確認する。


 鮮やかな翼を背負い、光を反射する素材の白コートを着ている。

 袖にはダウジングマシーンのような棒がついていて全体的にこの世界にそぐわない格好だ。


「なんですかラティのことじろじろ見て!もぐもぐひょっとしてこの美貌のラティにもぐ惚れちゃいごっくんました!?」

「それは無いから安心してほしい。それでラティはどうしてここに?」

「えへん!ここで面白いことが起こるらしいからね!」

「面白いもの?」


 ここには俺たちしかいないけど。


「ラティの故郷には娯楽が無いんです。ラティは故郷に娯楽をお届けしてるんですよ!」


 娯楽が無いかぁ。

 楽しみは生きる糧だから確かにそれは大事だ。


 ラティはメモとペンのようなものを取り出す。


「旅先で親切なゴリラに美味しいおにぎり(ライスボール)をごちそうされる!これは良いニュースになります!」

「誰が親切なゴリラだ。ってかニュースになるってどういうことだ?」

「ラティはね、世界中の出来事を取材して故郷に届けるって仕事をしてるよ!」

「ほー、そらスゴイな」


 娯楽って言ってるけど新聞記者みたいなものかな?大切な仕事をしてるんだな。


「でしょ!退屈な生活に刺激的な話題をお届け!ラティちゃんネル、大人気御礼です!高評価よろしくね!」


 いやこれ違うやつだったわ。爆速で関わりたくない気持ちが強くなった。

 でもこの不審者がこんな何もない所に現れた理由は気になる。


「そんで面白いものって何だ?」

「よくぞ聞いてくれました!ラティはこのアイテム、ツインロッドに導かれて来たのです!」


 そう言って袖についているダウジングを見せつける。

 どう見てもダウジングロッドだが見た目通り何かを探すためのアイテムのようだ。


「このロッドが反応する所では近いうちに100%大きな事件が起こるんです!さっきからずっと強い反応してるんですよね。何が起こるのかなー!」


 ……この山と平原しかない場所で大きな事件ねぇ。


「ちょっと急用思い出したわ」

「ヴァウ」

「奇遇ですね、ボクも大変な用事がありました」


 俺たちはそそくさと荷物をまとめて立ち去る準備を始めた。

 ラティは残念そうに眉をひそめる。


「えっそうなの?せっかくだし一緒に見て行けばいいのに」

「俺たち娯楽は求めてないからな。残ったライスボールはお前にやる。じゃー元気でな!」

「本当ですか!嬉しい、なんて親切なゴリラ!記事に書いておきますね!」

「ゴリラじゃねーーっつの!!」


 俺たちは足早にその場を立ち去った。

 ラティはおにぎりを食べることに夢中のようだ。



 ◆



「……よし、あの不審者は付いてこないな。ゲッカ、クローバー、今日の飯は歩きながらで悪いけどとっととここから離れるぞ」

「ヴァウッ」


 クローバーが躊躇いがちに口を開いた。


「ラグナさん。気になることがあるんですが」

「多分同じこと考えてるから言わないでいいぞ」

「あの人の大きな事件に反応するってアイテム、ボク達一行に反応したと思うので、また会うことになると思うんですけど……」

「こら!言葉にすると本当にそうなりそうじゃないか!やめるんだ!!」


 ああいう手合いは関わらないに限るぞ。

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