幕間 週末の王
おまけ話。
普通に生きていくためのちょっとした居場所を作るくらいのつもりだった。
水が無いなら川を作って、道が険しいなら道を作る。
災厄魔法があれば解決できると思ったから。
それがいつの間にか村を作るってことになっていた。
亜人たちが集まるなら確かに村で間違いないんだけど、"村"って言うとなんかとたんに話が大きくなった気がするな。
そういうわけで俺は亜人の居場所になる村をつくろうと思っている。
さて、村を作ったら譲れないことがある。
とても大切なことだ。
「俺はな……。5日働いたら2日休むべきだと思うんだ」
「何言ってるんですかこの怠惰の王は」
「ヴァウ」
この世界に休日という概念はないらしく、亜人はもちろん人間だって子供のうちから毎日働く。
働かざる者食うべからずという言葉があるし、それ自体は否定はしないけどそれでも俺は譲れない。
「いーや、俺が作る居場所なんだから俺がルールだ。俺が作る村では5日働いたら2日休みを徹底してもらうぞ」
緊急で休日に働くこともあるにはあるけど、そしたら別の日に休むようにする。
だって、毎日働いてたらやりたいことをする時間だって取れないだろう。
趣味や娯楽に専念する日だって必要だ。
「5日働けばやってくるのは週末だ。歌えや遊べ。そう、俺こそは終末の王改め――"週末の王"である!!!」
ゲッカとクローバーの心からの何言ってんだコイツって視線を浴びた。
「いや、本音を言うともっとこう、4日働いて3日休みたいけど」
「ヴァウウ……」
「ほっとくとどこまでも怠惰になっていきそうですね」
「とにかく、休みを知らない亜人たちに休んでもらうためには俺たちが率先して休む姿を見せる必要があると思う。だから今のうちから休む習慣を作っていこう。今日は休みの日だ!文句がある奴はこの俺を倒していけ!!」
働きたくば俺を倒せ!俺の屍を越えていくといい。
できるものならな!
「ヴァウヴァウ」
「……休むことには文句はありませんが」
とりあえず今日は休む日ということは伝わったらしく、ゲッカとクローバーもくつろぎ始めた。
この世界にも四季はある。
季節は初夏、日差しが厳しくなってきた。
やがて暑くなるだろう。
それでも木の影で横になれば、原っぱはふかふかで風は心地良い。
「夏といったら海だよな。またメロウ達んとこ行くのはどうだ?」
「ヴァウ?」
海で何するのか、だって?
「泳ぎたい!」
「ボクはパスです。泳げないし水は苦手なので釣りでもしてますね」
魚釣りもいいな、ダイビングもいい。
スイカ割り……は前止められたんだった。
喉が渇いたので傍らに置いておいたコップを取り出して一気に飲む。
はぁ、うまい。
生きてるって感じがする。
「俺は今、異世界を謳歌しているぞ!」
「ヴァウ……ヴァウ?」
「今日のラグナさんテンションおかしくないですか……って、あなた昼間からお酒を!?何やってんですか信じられません!」
大丈夫大丈夫。
魔人っていうくらいだから酒にも強いって。
こんなんジュースみたいなもんだ。それに今日は休みだし。
「うわ、いつの間にこんなに飲んだんですか!?酔ってるんじゃあ……」
「俺は魔人だ、魔人が酔うわけがない!」
「酔っ払いは皆そう言うんですよ!」
ガバッと立ち上がればゲッカもクローバーもビクッと後ずさる。
「よーしよし、気分も良いし2人ともモフらせろぉ」
休日である。
となれば犬やネコと遊ぶのも悪くない!
「ヴァウ!!?ガフッアウヴァウヴァウ!!」
「や、やだやだやだ!酔っ払いの絡みは厄介って決まってるんです!」
「誰も俺を止められない!カッカッカ!」
いくら素早いゲッカでも逃げる前に足を掴めば逃げられない。
ゲットだぜ!
「ヴァウウウ!」
「ああ、ちょっと!ゲッカさん放して下さい!ボクは!ボクはそういうのいいから……きゃああ!」
お前だけ逃げるのは許さんと言わんばかりにゲッカがクローバーに服を噛みついて引っ張る。
転んだクローバーの服をつまめばこちらも逃げ出せない。
2匹目ゲットだぜ。
休日はモフるに限る。
「にゃーーーー!」
「ヴァウヴァウアウ!!」
◆
いつの間にか夜になっていた。
気持ちよくて随分と眠っていたらしい。
なんだか夢見心地というかフワフワして楽しかった気がする。
いい夢を見たのかもしれない。
傍らにはゲッカとクローバーがまだ寝ていた。
2人とも出来上がっているというか、なんていうか酔っぱらってるみたいにぐにゃぐにゃだ。
酒は俺しか飲まないはずだ。
場酔いかな?
「ヴァ、ヴァアウ、ヴァア……」
「尻尾は、ダメってぇ……」
……。
くったりしていて当分動かなそうだ。
まぁ今日は休みと言い出したのは俺なのだから休んでても問題ないぞ。
たまにはこんな日があってもいいだろう。
獣避けの焚火を利用して、作り置きしていたシチューを温める。
明日は何しようか。
そして何を食べようかな。
3人分の皿を用意しながら思いを馳せる。
明日もきっと楽しい日になるだろう。