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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
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37.夢物語を語るもの

 カロンを持ち上げてみると、とても軽かった。

 この小さな体がみんなを助けてしまったというから驚きだ。


「カロンやるじゃん!それに綺麗になったなぁ」

「カロンね、とても悲しくて、さみしくて。そしたら、みんなを助ける力がつかえるようになったの!」


 カロンはメロウからヴェパルという種族に進化した。

 肉体を蝕んだり癒す力を持つそうだ。

 癒しの力は凄まじく、頭と心臓と骨しか残っていないメロウ達の肉体を完全に再生した。

 普通に凄すぎない?治療の概念が崩れる。



 さて、迷惑な魔族は片付いたけど問題はまだ残っている。

 問題というか後始末の段階だけどメロウ達を売り捌こうとした人間たちだ。

 

「こ、来ないでよ!」

「寄るな!ケダモノの分際で人間に歯向かうつもりか!」


 メロウ達が怒りに満ちた目で商人達を囲んでいる。そうなるよな。

 ちなみにメロウは地上の動きは苦手なもののそれなりに戦闘は得意な種族だとクローバーが言っていた。

 メロウ達がじりじりと包囲を縮めていく中、ギルティネが剣を支えに片膝をついていたユーリスを呼びつける。


「おい!勇者!!」

「え?」


 ……オイオイ、まさかこの期に及んでそれやっちゃう?


「勇者なら人間の盾だろう、剣だろう!私を守れ!亜人を殺せ!!」

「……な!!」


 ユーリスが絶句する。

 "人間の剣と盾となれ"。それが勇者の存在意義であり商人たちは人間。

 ……それは間違いないけど魔族に扮して勇者殺しの片棒担いでおいてそれは都合が良すぎない?


「人間?っかしーなァ。解析しても魔族って書いてあるんだけどなァー?」

「ヴァウヴァーウ!」

「おかしいですねぇ魔族が勇者に助けを求めるなんて」


 両手でタブレットを掴んでいろんな角度から眺めながら言えば、ゲッカとクローバーもわざとらしい言い方で乗っかってくれる。



 だがユーリスは苦しそうな顔をする。

 そして力なく立ち上がり、乱れた髪を払うこともないままメロウとギルティネ達の間に立った。


「私は……人間を守護する者だ」


 さすがにメロウ達も引き下がった。

 ユーリスはボロボロだけどメロウ達を相手に立ち回るだけの力は残っているようだ。


「そうだ!それでいい!ここにいる者は全て皆殺しにするんだ!」

「そりゃ無理だろ。俺がいるんだぜ」


 暫く目を瞑っていたユーリスがゆっくりと剣を俺に向けた。


「ミトラ殿、いや……魔人ラグナ!」


 バフォメットが名前を告げたせいで俺がラグナだということはもうバレている。


 今更隠せないし、もう隠す気もない。

 ユーリスに向かって歩みを進めればメロウたちは自然と道を開けた。


「……貴殿が魔人なら、私は貴殿と戦うしかない。構えよ!」


挿絵(By みてみん)


 ユーリスの剣が白く発光しはじめた。

 出会った時と同じように剣先から光を放とうとしている。



「俺はあんたと戦いたくない」


 ユーリスは剣を向けているが構わない。俺は近付いていく。


「人間と魔族と亜人の共生を願ったあんたを殺したくない」


 ユーリスの剣の切っ先が胸に触れる。

 剣が突き刺さることはなかった。ただ、光を帯びた剣が少し熱い。


「そうはいかない、いかないんだ。人間と魔族が相容れないように、私と貴殿は戦わなければならない。貴殿にその気がなくとも人間は貴殿を恐れる。だから人間を殺すなら、せめて私を殺してから――」


 ユーリスの剣を握る両手を横からカロンがそっと握った。

 そこで初めてカロンの存在に気付いたかのように体を震わせ、ユーリスはカロンを見つめた。


「カロン、ちゃん」

「おにいちゃん、とってもおいしい"しちゅー"、作ってくれたよ。勇者さまは、おにいちゃんにお店をつくってほしいんじゃなかったの?」


 ガランガランと、剣が床に落とされた。

 金属床と剣のぶつかる音がしばらく反響し、すぐに静かになる。


「何をしている!?相手は魔人だ、さっさと切り刻め!!」

「斬れば!殺せばお前は英雄になれるのだぞ!?」


 商人たちが口々に騒ぎ、(うるさ)いことこの上ない。

 ひと睨みすれば黙るくせに。


「"違う種族でも笑い合って一緒に飯が食えるようなところをつくる"だったか。……私もどうやら、そんな夢物語を語った貴殿と戦いたくないようだ」

「ふ……、ふっざけるな貴様ぁ!!」


 ギルティネが激昂し、胸倉をつかむようにユーリスのマントを引っ張った。

 ユーリスは抵抗もせずされるままだ。


「勇者なら戦え!私たち人間を守るのが貴様の存在意義だ!!」


 往生際の悪さと都合のよさにいっそ感動すら覚えて、ユーリスは気だるげな表情を見せる。


「おかしなことを言う。人間ならば、亜人の集落から亜人を拉致すれば断罪されなければならない。だがお前達は魔族なのだろう。見なかったことにしてやるから失せるといい」

「な……!」


 今度はギルティネが絶句する番だった。


「私は何も見なかった。何にも」


 ギルティネの手を軽く払いのけてユーリスは背を向ける。

 きょとんとしているカロンの手をそっとクローバーが引いて部屋の外へ出て行った。結構気が利くじゃないか。


「ありがとうユーリス」

「誰に礼を言っているのやら。私は何も見ていないだけだ」


 我関せずを貫くつもりのようだ。

 俺は魔法を使用する。


災厄魔法(ディザスタースペル)、"鍛冶神の三振り(ダーナグラディウス)"!!」


 ユーリスと出会う前に覚えたばかりの、辺り一帯の鉱物を使用して武器を生成する創属性の魔法。

 俺の目前に赤い光が現れ、金属の床、拘束台の鉄、ガラス管。どれもメロウ達を苦しめたものだ。それらが剥がれて砕け、渦を巻きながらながら光の中へ吸い込まれていく。



 数拍後、おびただしい量の武器が商人を囲んで顕現(けんげん)する。


「ひ、ひいぃぃ!!!」


 ギルティネたち商人が悲鳴をあげる。

 剣、槍、斧、弓、ハンマー、長刀、ナイフ。あらゆる武器のがギルティネ達を向いていた。


 だがいつまでも刃が刺さることはなく、縮こまっていた商人たちはおそるおそる顔をあげる。


「俺さぁ、襲われたら返り討ちにするけど別に積極的に戦いたいわけじゃないんだよ。相手が勇者だろうが魔族だろうが亜人だろうが、不要な戦いは避けたいんだ」


 商人達の顔に希望の色が見える。

 けれどもその色はすぐに消えることになる。


「だからあとは()()()()()で決めてくれや」


 俺が出て行けばゲッカも後からついてくる。


 商人たちに残されたのは何も見ないことにした勇者と30人以上のメロウ、そして俺が残した大量の武器だけだ。

 メロウ達は俺が置いて行った武器を取る。あれだけあれば足りないことは無いだろう。


「やめろ……やめろ!やめろぉおおぉぉぉああああああああああ!!!」





 ◆



 その後、俺たちはメロウ達をメロウの入り江まで送り届けた。

 メロウ達は無事の再会とカロンの進化を喜んでいる。

 メロウの涙はメロウの体を離れると硬質化するのであちこちコロコロぽろぽろと涙が転がっている。片付けが大変そうだなぁ。


 魔人だとバレたものの、バフォメットを倒しメロウを救出したのでメロウ達からはとても歓迎された。名乗っても警戒されなかったの初めてじゃない!?

 メロウ達からお礼をさせて欲しいと言われたけれどまだ用があるから、後で必ず寄ると約束してメロウの元を去ることにした。



 そして一夜明けた今、俺たちはノーラン領主のお膝元の街にいる。

 街と言ってもお尋ね者な俺たちが中に入れるはずもないので街の外の森の中だ。


「さーて、まだやることがあるわけだが」

「メロウの肉を大量に注文した迷惑な領主をどうにかしないとですね」

「ヴァフ!!」


「それは、さすがにダメだ!!」

「ケチケチすんなよ勇者」


 メロウ達をひでぇ目にあわせたツケをどうしてくれようと作戦会議をしてるんだけど何故かユーリスもついて来た。

 俺たちお尋ね者と一緒にコソコソと隠れているけどいいの?堂々とするのが勇者じゃない?


「どうしてユーリスさんもいるんですか?」

「クローバー殿にステータスを戻してもらうまで離れないぞ。逃げられるわけにはいかないからな」

「心配しなくても用が済んだらメロウ達んとこ顔出すって」

「その用とやらが心配だから来ているのだ。貴殿たちのことは見逃すが、私刑を行うことは見逃せないぞ。悪事は法によって裁かれるべきだ」


 うーん、正論パンチをキメるね。勇者らしいと言えば勇者らしい。


「その法が届かない相手なんですよ相手は。被害者は亜人、加害者は権力者。揉み消されて終わります」

「うぐ……」


 その正論パンチを現実的な指摘でクローバーが打ちのめせばユーリスが呻いた。

 立場の弱い亜人が訴えたところで領主を罰するなんて簡単にできっこない。


「きっちりシメとかないとまたメロウが襲われるかもしれないからな。でもどうする?亜人の報復だ!とか言いながらカチコミはマズイよな」

「ダメです。それこそ亜人を殲滅する大義名分を領主に与えます」

「それは私も看過できないな」

「ところがこの地には魔族が来てるんだ。魔族の襲撃があってもおかしくないと思わないか?」

「ええ、起こるべくして起こる事だと思います」

「ま、待て!結局貴殿たちは襲撃するのか!?」


 ユーリスが制止しようとする。


「魔族がやったんだよー?だって魔族をほっといたのはノーラン領主だもーん。しょうがないよねー」

「ヴァーウ!」

「気持ち悪い言い方はよせ!」


 頭を抱えるユーリスは領主のことは許せないが人間相手にどうこうするのは踏ん切りがつかないらしい。


「クローバー、なんかもう一押しできる材料ない?」

「そうですね。ノーラン領主は重税と圧政で逆らう領民を粛清する暴君として有名です。気に入った女性を侍らせるために家を潰し奴隷落ちさせて買ったという噂もあるんですが、国や教会に多額の寄付金を納めているので見逃されてるそうです」

「オイオイ悪い領主のお手本すぎて笑っちまったわ」


 普通にぶん殴りたくなる案件だな。


「く……ならば殺しはなし、領民への被害も出さないこと!そして私も同行させてもらう!」

「ま、それでいいか。やりようはいくらでもあるからな」



 それじゃあ襲撃作戦をはじめるか。

 ショータイム!ってな!!

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