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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
43/163

33.勇者との休息

 ロボットを倒した俺たちは小さな小部屋にたどり着いた。


 あ!ここは!!


「SF部屋だ!!柱だ!」

「エスエフ?」

「柱?」


 俺が目覚めた"封印の墓標"と同じ、光りの柱がある部屋だ。

 光にタブレットをかざすとタブレットの性能がアップデートされるんだよな。

 こんなものまであるということは封印の墓標と同じタイプの建物で間違いない。


「いや、前行ったダンジョンで似たような部屋を見たことがあってな」


 あの頃はゲッカとの2人旅だった。懐かしいな。


「ちょっとだけ待っててくれ。すぐ終わる」


 光の柱にタブレットをかざしてみると前と同じように光を吸い込む。

 うーん、変わらないただ一つの吸引力。


 -ピコン!-


 そしていつもの通知音が鳴る。


【解析機能が強化されました】


「いいぞ、アプデされたな。どれどれ……」

「え!?ちょっっ……!」


-----------

 名前:ラグナ

 種族:魔人

 LV:7/14[LIMIT]

 HP:4853/4853

 MP:40/365

 攻撃力 [LOCK]

 防御力 [LOCK]

 魔法力 [LOCK]

 抵抗力 [LOCK]

 速度:97

-----------

 【固有スキル】『異邦の魂』『狭間の???』

 【常時発動スキル】『武器解放SS』

 【所持スキル】『災厄魔法』『憤怒D』

-----------


「む、それは先ほど解析していたアイテムだな」

「うぉわあああああユーリス!!??」


 ユーリスがいること忘れてた!

 クローバーとゲッカが諦めたような目をしてる。


「驚かせてしまったか、すまない。背後に立つのは気を付ける。いや、珍しい言語で気になってしまってな」


 そういえばタブレットの文字を読めるのは今のところ俺だけだから魔人とかラグナとかいう文字は読まれていないハズ!セーフ!!!


「神聖文字か?もしやミトラ殿は神聖文字が読めるのか!?」

「……そう呼ばれてるらしいな」


 しらんけど。

 これ日本語だし。


「何と書いてあるんだ?」

「……ある生物について記載されてるな」


 魔人ラグナのステータスです。


「そうか。私が勇者でなければ教えを請うところだった」


 勘弁してください。



 文字が読めるわけでもないユーリスは気が済んだようだ。


 危なかった。色々気になることはあるけどユーリスの前だし詳しく調べるのは後にしよう。


「ところで解析性能が上がったみたいなんだけど誰か見てもいいか?スキルが見れるようになったみたいなんだ」


 クローバーは露骨に嫌そうな顔をしている。


「前見せたじゃないですか。もうイヤです」

「ええと、ステータス見せるのは大きくなって、いっしょにくらす人だけにしなさいっておかあさんが」

「オッケー!みないみない!!」


 ステータスを見られるのは体重やスリーサイズを知られるようなものらしい。

 ……そういうもんか。


 イヤなら仕方ない。

 クローバーとカロンには解析を向けないようにしよう。


「ヴァウ!」


 ゲッカは俺を見ろ!と言わんばかりに堂々としている。

 それじゃあ遠慮なくいってみよう。


-----------

 名前:ゲッカ

 荒野の若狼

 LV:29

 HP:643/643

 MP:261/289

 速度:642

 所持スキル:

『惨劇の狼』『悪食B』

『解析A』『炎魔法B』『神速A』

『毒耐性C』

-----------


 スキルの項目が増えたな!

 ところで何か怖い文字がちょいちょい見えるな?惨劇とか悪食とか。

 

「ステータスなら私を見ても構わないぞ!見られて困ることなど何もないからな!」


 ユーリスが得意げにしている。

 スリーサイズ知られるようなものって聞いたけど、気にしない人もいるわけか。


-----------

 名前:ユーリス

 種族:人間

 LV:64

 HP:1235/1235

 MP:542/562

 速度:189

 所持スキル:

『勇者』『不屈の闘志A』

『光魔法A』『万能魔法C』『電光石火B』

『正義感B』

-----------


 勇者というだけあってこれまで見たステータスの中でもかなり高い。


「私は勇者としてはまだまだだが『勇者』のスキルにより基礎ステータスも成長率も高い。人間としては強い方だと自負しているよ」


 スキルによって成長率が強化されてるのか。……ユーリスと戦うことにならなければいいなぁ。

 光だの不屈だの正義感だの、見事に勇者っぽい文字が並んでいるな。

 これ、スキルの説明は見れないのかな?

 ……見れないっぽい。今後のアプデに期待だ。


「さて、用が済んだなら先へ進もうか」

「そうだな」



 ぐぅぅ。



 大きい音が鳴った。

 ……。

 クローバーを見る。


「ボクじゃないです」

「あのぅ、カロン、つかまってからあんまりたべてなくて」


 カロンだったか。


「食事にするか!」

「異議なしだ!」


 ユーリスと俺の即決により休憩することになった。

 


 ◆



「普段は1人で行動しているから休憩に思い至らなくてな。気が回らなくて済まない」


 『勇者』のスキルを持つ人間は肉体的にも精神的にも頑強になり、それこそ何日寝ずに動き回れるらしい。

 そういう無理ができるのは若いうちだけじゃない?若いうちの無茶は30過ぎに反動が来るって聞くぞ。


「勇者は使い捨てだ。20年生きれば幸運、25年生きれば余程優れた猛者か臆病者と見なされる。30まで生きると想像すらしたことが無かった。命が短いからこそ無理しないことも覚えてみるか」

「サラッと言うことが重たいんだよなぁ!」


 きちんと休んでほしい。



 さて、そんな生き急ぐ勇者と幼いカロンために栄養のあるものを作ろう。

 商人達からいろいろ買ったしね。今日のメニューは……。


「シチューを作ろう!」

「シチュー?」

「ご存じない!?」


 この世界にはシチューはないようだ。

 山羊の乳、ジャガイモ、トウモロコシ、カボチャ、バター、塩、小麦、調味料各種、それからお肉。

 地球の味の再現は難しくてもそれっぽいのは作れるだろう。

 鍋やフライパンはあるし、商人達から燃料も買った。着火はゲッカがいる。


 材料を切って煮込んでシチューが出来上がった。

 カッカカ、俺は結構自炊もするタイプの魔人だぞ。


「わぁー、おいしそう!」

「よしよし、いただきますだ」

「いただきますって?」


 カロンが不思議そうに聞いてくる。


「ご飯を食べさせてくれてありがとうって、食べ物だった生き物や、食べ物を用意してくれた人、いろんなものに感謝する挨拶だ」

「食事に感謝か。考えたことも無かったが良い考え方だな」


 ユーリスも乗っかってくれた。

 明日死ぬかもしれない身であるユーリスには、命に感謝する考えに通じるものがあるようだ。


「こうやって両手をあわせて言うんだよ」

「おいのりみたいだね」

「そうだな。お祈りだ」


 感謝もまた祈りと呼べるだろう。


「「「いただきます!」」」

「ヴァウッアウ」


挿絵(By みてみん)



「おいしいー!こんなのはじめて!」


 カロンがジャガイモを頬張りながら目を輝かせる。

 おいしく食べてくれる人がいるって嬉しい。


「そうだろうそうだろう。おかわりもあるからいっぱい食べるんだぞ」


 いっぱい食べて大きくおなり。

 我ながらジャガイモのとろけ具合が良い感じ。肉も柔らかくて美味しいな!


「ミトラ殿!この味なら王都の一等地で店を出せるぞ!勇者である私が推薦状を書けば亜人だとしても無下にはしないだろう、いかがだろうか?王宮の食事に招かれたことはあるがこちらの方が余程旨いぞ!」

「カカカ、嬉しいけど王都はちょっとなぁ」


 国王のお膝元でシェフする災厄の魔人かー。偉い奴の胃袋を掴んでおくのは面白そうだ。

 俺を殺せばもうあの旨い飯は食えないぞ!とか言ってみたい。危険過ぎるのでやらんけど。


 それに俺の料理が凄いんじゃなくて先人達の知恵の結晶であるレシピが偉大なだけだしな。



「ねぇおねえちゃん、フード取らないの?」

「え」


 クローバーを見ながらカロンが不思議そうに首を傾げる。ユーリスと出会ってこの方ずっとフードをかぶっているな。

 ネコミミを隠しているんだろうけど、食事の時も取らないのでさすがに違和感はある。

 本人もそれを分かってるから空気に徹していたみたいだけど、この少人数ではやり過ごすのは無理があった。


「いやその、これは」

「うむ。フードをかぶっているとせっかくの食事に埃が入るので取った方がいいぞクローバー殿」

「あ!?」


 あっ。


 ユーリスがクローバーのフードをずらすと大きな耳がぴこんと飛び出す。


「おねえちゃん、ネコのジュージンさんだったんだ!」

「え、ええと」


 目を輝かせるカロン。

 だがユーリスは目の色を変える。


「ネコの耳にその髪の色……もしや貴殿は手配中のネコ獣人か!?」


 しまった、バレた!

 ユーリスの手が剣の柄に触れる。

 HPの低いクローバーが光のビームを受ければ大変なことになるだろう。


「ま、待ってくれ!俺と一緒に行動してからは盗んでないし、これからも盗まないぞ!」


 ユーリスは剣の柄に手をかけたまま動かない。

 逡巡しているようだ。


 今のうちに力づくで抑えるべきか考えているとカロンがユーリスとクローバーの間に入る。

 泣きそうな顔だ。


「このおねえちゃん、アメ、いっぱいくれた人なの。わるいひとじゃないよ?」


 数秒の沈黙の後、ユーリスは息を吐いた。


「人命を危害に晒したわけではなし、悪意を持っていたわけでもなく改心もしているというならば私は何も見なかったことにしておく。けどな!盗みはいかんぞ!」

「あ、ありがとうございます……」


 緊張していたクローバーが脱力したようにへたりこんだ。


 ふぅ、肝が冷えた。

 危ない危ない。

 ユーリスが話の分かる人間でよかった。



 ……。

 魔人である俺のことも見なかったことにしてもらえないかな?

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