32.神々の御廟
「カロン達はいつ頃魔族に連れてこられたんだ?」
「メロウの里で聞いた話では最後に連れ去られたのは4日前、5度目だそうだ。時折魔族が現れては見たことも無い魔物を操り若いメロウを7~8人ほど連れていくのだと」
「つーことは40人弱のメロウが捕まってるのか」
それだけの人数だとある程度大きな収容施設が必要になる。
それならすぐ見つかると思うんだけどそれらしい建物は見当たらないな。
「このあたりから来たと思うんだけど……」
土地勘がない場所なのでカロンも正確な場所は覚えていないようだ。
草木が茂ってるようにしか見えないけど、どこかに隠し通路でもあるのかな?
「ヴァウ!」
「ゲッカ、何か見つけたか?」
捜索ならゲッカにお任せあれ。
ゲッカの示す先には茂った草木で入口が隠された遺跡があった。ずいぶん巧妙に隠されているな。
「ここ!ここからきたよ!」
ビンゴだ!
◆
中は整備された人工的な造りになっていた。
「この神聖な気配は通常のダンジョンにはないものだな。神々の御廟か」
「ダンジョンとどう違うんだ?」
「ダンジョンはこう……ズシッと魔の気配が淀んでいるが御廟はそういったものがなくてこう、シャランと軽やかでだな」
よく分からないのでクローバーに追加の説明を頼む。
「神々の御廟は古に神々が利用していた施設の総称です。中には入り組んだ御廟もあるのでダンジョンと混同されますが根本的に別物です」
「そうそう!詳しいじゃないかクローバー殿!」
なるほどね。
悪いけどこりゃユーリスの説明じゃ分からないな。
「魔人が封印された"封印の墓標"なんかも神々の御廟の1つですね。あちらは神々が罪人を永久に閉じ込める墓であり監獄として利用されたと言い伝えられています」
俺が魔人とバレないように、他人事のようにクローバーが教えてくれる。
なるほどあの迷宮と同じタイプか。言われてみればあの迷宮の1階と似ている作りだ。
「博識だなクローバー殿は。亜人が教育を受けるのは大変と聞くが」
「知識を得る機会には恵まれたので」
ユーリスから見てもクローバーは博識みたいだ。クローバー情報網、謎が深まるばかりだ。
「ちょっと前までカロンたちもここにいたんだけど、みんなつれていかれちゃったのかな……」
「移動してからまだそう時間は経ってないだろ」
奥に移されたのだろうか。俺達は階段を下りていく。
先頭はユーリスで殿は俺。間にクローバーとカロン。2人を守るのはゲッカだ。
やがて前方から迷宮に不釣り合いな機械的な音が聞こえてくる。
「何の音だ?」
薄暗い通路の向こう側からユーリカより一回り小さいくらいの鉄の塊が数体向かってきた。
足はなくキャタピラみたいになっている。
ロボットみたいだ。
『侵入者ヲ 発見 シマシタ』
『侵入者ヲ 発見 シマシタ』
うん。ロボットだな。
この世界ロボットいるんだ。
いや俺も目覚めて最初に見たのはSFっぽいコールドスリープだしロボットがいてもおかしくないか。
「あれ!みんなあれにつかまったの!」
「ゴーレムの一種だろうか?」
「初めて見ますね」
ユーリスとクローバーが知らないなら珍しいタイプの敵だろう。
『見たことの無い魔物』とか言われるわけだ。
ロボットは男の子の夢の1つだからドキドキしちゃうな!
と言ってもこのロボットはお掃除ロボって感じの見た目とサイズだけど。
『排除 シマス』
まぁ敵だけどな!
ロボットが鋭い音を鳴らしたと思ったら機体の内側から発光するチェンソーみたいな武器を取り出した。なかなか物騒。
ユーリスがメロウをクローバーに預け臨戦態勢になる。
「破壊しよう!」
「任せろ!」
「ヴァウ!」
◆
「みんなすごーい!」
カロンが目を輝かせてるので俺とユーリスはサムズアップで応える。
魔人、勇者、そして進化したゲッカの前ではガラクタ同然だった。
撃破記念に解析だ。
この迷宮のこと何か分かるといいんだけどな。
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種族:セキュリティロボット
LV:25
HP:0/320
MP:201/222
速度:44
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やっぱりロボットだ!
「遺跡の防衛機能ってとこかな?」
「解せんな。魔族が遺跡の機能を操るなど……む!また何かいるぞ!」
ユーリスが声をひそめて足を止める。
ユーリスの言葉通り、通りの向こうに何かいる。
そっと覗いてみるとそこにいたのはでかいロボットだ。
それもアニメとかで見るような、合体とかしそうな人が乗れそうなやつ。
「カッ!心躍る見た目だな」
「ヴァウ!」
「そうか?」
「そうですか……?」
「そうなの?」
女性陣の理解は得られなかった。残念。
そしてでかロボットの先には扉がある。あのロボットがボス的なやつかな。
ロボットに乗るのは男の子の夢。でも戦うのも男の子の夢!
心はいつでも少年だ、やってやろうじゃないか!
でもまずは少年心くすぐるロボットの解析をですね。
「"煌星一閃"!」
タブレットを取り出した俺の横をユーリスが剣から放たれた眩い光の斬撃がロボに直撃し、一撃で胴を切断する。
「"着火"!」
ユーリスが魔力を込めると今しがたロボを切った切断面が赤く発光し爆発する。
「見かけだけか。大したことなかったな」
「おねえちゃんすごぉい!!!」
カロンが大はしゃぎだ。
流れるようにすっごいカッコイイ技キメたね。
俺とゲッカとクローバーは顔を見合わせた。
……もし俺が魔人とバレても、心の中のどっかでまぁバレてもなんとかなるんじゃない?とか思ってたけど。
勇者めっちゃ強いのでは?
もしかして俺たちお尋ね者一行、一緒にいるのヤバいのでは?
ゲッカとクローバーの無言の視線の訴えが痛い。
俺は確かに強くて頑丈だけど、この視線に抵抗する耐久は持ち合わせてないんですよ。
本当にどうしようね?
「ミトラ殿、ゲッカ殿、クローバー殿!どうかしたか?先へ急ごう!」
……今更別行動取りたいとは言えないよね?
うん、不自然だよね。
俺たちはユーリスの後に続いて階段を下るしかなかった。